本記事は、みやそう病院の取材記事の第三回。第一回、第二回は以下からチェック。
●「Macが医療現場にもたらすコスト削減、業務効率化ほか多様な利点。“医師の本分”たる『診察と治療』への集中をサポートするMacBook Neo/兵庫・みやそう病院のAppleデバイス導入事例(1)」
●「医療現場へのMac導入は『クラウド型電子カルテ』が鍵。医療の質向上、医師の働き方改革にもつながるクラウドの価値/兵庫・みやそう病院のAppleデバイス導入事例(2)」
MacBook NeoとWindows PCの併用で運用課題に対応
兵庫県伊丹市の地域に根ざした中規模病院・みやそう病院では、医師用の業務端末としてMacBook Neoの導入を進めている。活用は始まったばかりだが、試験導入を経て高い実用性を確認し、今後はMacBook Neoを推奨端末とする方針だ。

ただし、すべての端末をMacBook Neoに置き換えるのではなく、適材適所を基本とするWindows PCとのハイブリッド運用が基本だという。みやそう病院で端末が必要な部署は、主に次の3つだ。
1)医師
電子カルテ「Henry」を使用。Webブラウザで動作するため端末の機種を選ばない。ただし、画像診断システム、検査システムなどはWindows専用ソフトウェアの利用が必須となっている。
2)病棟スタッフ
病棟を巡視する際、検査システムを使用するためにWindows PCを、電子カルテを使用するためにiPadを使用。それらを共用のカートに乗せて巡視している。
3)事務・経理スタッフ
事務、経理システムを利用。Windows専用ソフトウェアで動作。
電子カルテはクラウド化されているため、WindowsでもMacでも利用できる。ただし、そのほかの検査システム、事務・経理システムはWindows PCからしか利用できない。このため、事務、経理の間接部門は今までどおりWindows PCを使うことになる。病棟スタッフも、検査システムにはWindows PC、電子カルテにはiPadを利用している。
問題は医師だ。医師がもっとも長時間利用するのは電子カルテであるため、MacBook Neoで日常業務はこなせる。しかし、画像診断システムや検査システムなどWindows PCでしか扱えないシステムも一部残っている。ここが課題だ。
現在は、MacBook NeoとWindows PCの2台使いによって対処している。交換時期を迎えたWindows PCを廃棄せずに残しておき、日常業務はMacBook Neoでこなし、画像診断システムなどを使うときだけWindows PCを使う。当面はこのような運用で対応しながら、該当システムがMacに対応、あるいはクラウド化されるのを待っているわけだ。
そのほかの解決策として、MacでWindowsを動作させる仮想化アプリ「Parallels Desktop」を導入し、MacBook Neoで電子カルテ以外のシステムも利用できるようにするという考え方もある。現在、守病院長が自ら検証している最中だという。
クラウド型電子カルテ中心の業務が端末選択の自由度を高める
みやそう病院の守病院長は、MacBook NeoとWindows PCのどちらかに統一することも、MacBook Neoに強制することもせず、各人が使いやすい端末を選択できるようにしたいという。
また、上述のWindows PC専用システムの兼ね合いもあり、みやそう病院ではWindowsとMacが混在する環境がしばらく続きそうだ。このような状態は、一般企業では「管理の複雑さ」「研修コストの増加」「ヘルプデスクの二重化」などの悩ましい問題を引き起こすが、みやそう病院では大きな問題にはならないという。
マルチプラットフォームが管理できるMDMを導入しているため、端末管理に伴う負担の増加は限定的。そして、ヘルプデスクは各端末、アプリのディストリビュータが行ってくれるため、これも負担増にはならない。
問題は、一人のスタッフが複数のプラットフォームの端末を使わなければならないことだが、それも大きな課題だとは感じていないという。病院で必要としているのは電子カルテなどの内容であり、操作に関しては必要なアプリが起動さえできれば十分なのだ。さらに患者のプライバシーを確保するため、各アプリから画像やデータを端末にダウンロードして保存する機能は備わっていない。必要な情報はアプリの中で完結させ、端末に保存させないことで流出などのリスクを避けている。
医療スタッフに必要なのは、電子カルテや検査システムの中で必要となる専門知識であって、端末操作に関する高度な知識は必ずしも必要ではない。また、多くのスタッフがプライベートではiPhoneを使っていることもあり、MacBook NeoやiPadの操作に戸惑うことはほぼなかったという。むしろ、使いやすく、見やすいと好評だ。
また、同院の守病院長は、世代によるデバイスへの順応性の高さも感じているという。
「今の子どもたちを見ていると、小学校でChromebookを使って、中学校になるとWindows PCを使って、高校になるとスマートフォンはiPhoneじゃなければ嫌だと言って、もうOSごとの使い勝手の差みたいなことはあまり気にしていないように思います」(守克則病院長)

IT開発やマーケティングといった部署では、業務上、複数の小さなツールをいくつも使う必要がある。しかも新しいツールが次々と登場するため、それらも使いこなさなければならない。このような部署では、端末の操作や設定に関する知識が必要となり、マルチ端末環境は従業員の負担となる。同時に、ヘルプデスクも用意しておく必要がある。
一方病院の場合は、電子カルテや検査システムなどの中核システムを利用し、それに沿って業務を進めていく。このような中核システムを使っている職場では、業務端末の選択は自由になりやすい。一般企業でも、ERPやCRMといった統合型業務システムを導入し、それを中心に業務を進めようとする傾向がある。特に財務、人事、物流などの分野でこの傾向が強い。逆に言えば、このような分野ではクラウド化とマルチ端末化が進めやすいのだ。
地域医療にも広がるMacBook Neo導入の可能性
このようなクラウド型電子カルテ+マルチプラットフォーム運用というスタイルは、地域医療では私たちの想像よりも早く広がっていくかもしれない。地域医療は、みやそう病院のような中規模病院が連係し合うことで成り立っている。そのため地域の院長会、事務長会、幹部部長会などの会合が盛んだ。こういった集まりで、当然業務をスムースに確実に行うための端末の話題も出る。
みやそう病院は電子カルテをいち早く導入したため、他病院からの視察も多く、同病院の理事長は、地域の中で電子カルテ導入の相談役のような役割を担っているという。
「MacBook Neoの導入に関しては最近のことなので、まだ地域での会合で話をする機会はありませんが、間違いなく今後のトピックとなるでしょう。端末の更新というのはどこの病院にも共通する悩みです。そのため、『MacBook Neoは有力な選択肢になる』といった情報は広がりやすいと思います」
守病院長は、MacBook Neoの導入に大きな成果を感じていることから、今後、iPhoneやApple Watchなどの活用にも思いを巡らせているという。その理由は、連係のスムースさだ。
看護スタッフは病棟巡視の際にiPadを持参し、電子カルテを見ながら必要なケアを行っている。場合によっては、写真で記録したほうがいいケースがある。たとえば、傷や床ずれの状態の記録だ。カルテで言葉で説明するより、写真で記録していたほうが正確な状態が把握でき、経過も確認しやすい。医療記録として有用性が高くなるわけだ。
もちろんiPadで写真を撮ることもできるが、より小さなiPhoneがあれば、撮影時に患者に負担をかけることも少なくなる。しかも、撮影した写真をすぐにカルテに登録することも可能だ。あるいは、写真を基に遠隔で専門医の意見を仰ぐこともできるだろう。
「当院は2026年12月に新築移転を予定しているのですが、そのタイミングに合わせてiPhoneを病院用端末として導入する計画が進んでいます」
新築移転といえど、規模や場所はほとんど変わらない。現在の建物の窓から見えるところに、病棟の建設が進んでいるという。さまざまな設備が刷新され、業務端末の刷新も同時に計画されている。

Appleデバイスの連係が医療現場を変える
守病院長が期待しているのは、Appleデバイスの連係性能の高さだ。撮影した写真や書類を数タップで転送できるAirDropはすでに活用されているほか、今後Appleデバイスが増えていけば、出張中の医師と病室の患者をFaceTimeビデオ通話でつなぐことも簡単にできる。また、Apple Watchを患者に貸与し、心拍数などのバイタルサインの記録に活用するといったことにも興味を持っているという。
これまで、地域医療は患者といちばん近い医療であるものの、高度な医療は大病院に任せるしかないというイメージがあった。医療機器の多くは高価であり、小さな病院が高度な医療機器をすべてそろえることは難しいからだ。
しかし、数万円程度のAppleデバイスをうまく組み合わせることで、より患者に密着した、きめの細かい医療を提供できる可能性が出てきている。

