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Apple製品の「バッテリ劣化」を予防する方法

著者: 今井隆

Apple製品の「バッテリ劣化」を予防する方法

画像:Apple

※本記事は『Mac Fan』2021年7月号に掲載されたものです。

読む前に覚えておきたい用語

ユーザが交換できないApple製品のバッテリ

iPhoneやiPadはもちろんのこと、MacBookシリーズも内蔵バッテリになって随分経つ。MacBook Proでいえばレティナディスプレイ化された2013年モデル以降、ユーザによるバッテリの交換ができなくなったが、これには理由がある。

1つはリチウムイオンバッテリの高性能化と充放電管理技術の向上によって、消耗品であるバッテリの寿命が伸びたこと。たとえば、最近のMacBookシリーズのバッテリ寿命は1000回の充放電で80%以上の残容量とされているが、一般的なユーザの使い方なら毎日使っても3〜5年程度保つ計算になる。

バッテリ表示の0%や100%という表記は機器メーカが定めた使用範囲に過ぎず、バッテリ自体の充放電可能範囲(SOC)はこれより広い。バッテリのSOCを目一杯使うと充電サイクル寿命は短くなり、安定領域のみを使用すると寿命が大きく伸びる。たとえば加減速のたびに充放電を繰り返すハイブリッド車(HEV)のバッテリ使用範囲は長寿命化のために狭く設定されている一方、充電量が航続距離を大きく左右する電気自動車(EV)では使用範囲が広く設定されている。

もう1つは、軽量化や薄型化のためだ。バッテリをユーザが交換できるようにするためには、バッテリ単体を筐体(ケース)に収めなければならない。現在主流のリチウムイオンポリマー電池は薄く軽量なラミネートパックに収容されているが、曲げや鋭利なもので容易に傷つきやすいことからパッケージングが不可欠だ。

また、パソコン本体もバッテリを格納する場所と着脱のためのメカニズムを設けなければならない。堅牢な本体内にバッテリを直接内蔵する現在の方式は、バッテリケースや着脱機構を省き、薄型化と本体強度を両立できるメリットがある。

このようにメーカーではライフサイクルの中でバッテリ交換が必要ないよう設計を行っているが、ユーザの使い方次第では想定外にバッテリ寿命が短くなるケースがあり、昨今のテレワーク普及でさらにそのリスクが高くなっている。パソコンやタブレットが屋内で使われるシーンが増えており、ACアダプタや充電器を接続した状態(常時給電)で使用される時間が長くなっているためだ。

リチウムイオンバッテリの寿命は、環境が同じであれば充放電回数で決まる。1000回の充電寿命というのは、満充電(100%)と放電終了(0%)を何回繰り返したときにバッテリが寿命(規定された容量低下に達する)になるか、という指標だ。

一方で、これとは別にバッテリの寿命を大きく左右する劣化要因が存在する。それが高温環境と高エネルギー状態だ。リチウムイオンバッテリは高温環境に晒される時間が長いと劣化が加速する。また充電量(バッテリ内部のエネルギー量)が高い状態が長くなるほど、劣化が早く進む。

常時給電状態で機器を稼働させると、この2つの条件が重なる。バッテリは常に満充電(高エネルギー)状態に置かれ、機器動作に伴う高熱に曝されて急速に劣化が進む。このような状況が長く続くと、充放電回数とは関係なくバッテリへのダメージが蓄積され、バッテリ容量が低下したりバッテリが膨張するといったことが起きる。

OSに採用されたバッテリ充電の最適化

このような常時給電でのバッテリ劣化への対策として、macOS 10.15.5以降「バッテリー充電の最適化」と呼ばれる管理機能が追加された。同機能はバッテリ温度とユーザによる充電パターンを監視し、収集したデータに基づいてバッテリへの最大充電量をコントロールすることでバッテリの劣化を抑制する。同様の機能はiOS 13以降にも搭載されており、「設定」の[バッテリー]→[バッテリー充電の最適化]で設定できる。

最近のiOSやiPadOS、macOSには「バッテリー充電の最適化」機能が搭載されており、ユーザの充電利用状況を学習し、満充電になる時間をできるだけ減らすことでバッテリ寿命を伸ばすような充電制御が取り入れられている。

この機能をオンにすると、充電器やACアダプタに接続した際の充電量を最大80%に抑制し、ユーザが次にデバイスの利用を開始するタイミングで100%の充電量になるように自動調整される。つまり機械学習によって利用者の充電パターンを学習し、満充電状態になっている時間をなるべく短くすることで、バッテリへのダメージを低減する仕組みだ。

ただしこの機能では、MacBookなどの常時給電によるバッテリ劣化を予防するには充分ではない。常時給電で使うことが前提ならバッテリ充電を止め、ACアダプタからの給電のみで動作させるのが理想的だ。バッテリが高エネルギー状態になることを回避できるのみならず、充放電に伴う発熱や充放電サイクルの進行も抑制される。

このような充電抑制機能は、一部のウィンドウズノートパソコンにはすでに導入されている。充電上限を50%や80%に設定する機能や、充電開始%や充電停止%を個別に設定する機能などがあり、常時給電で使用するノートパソコンのバッテリ劣化を最小限に抑えることができる。Mac向けのソフトにも「Aldante」や「Charge Limiter」などのバッテリ充電抑制ツールが存在するが、本来ならmacOSに標準装備してほしい機能だ。

充電抑制機能の実例としてサードパーティソフト「ChargeLimiter」を使ってみた。ソフトを起動して充電上限値を設定(ここでは50%)すると、実際にACアダプタを接続したときの充電が設定値付近で停止した。なお、このようなソフトの使用はあくまで自己責任でお願いしたい。

意外と知られていない過放電からの回復方法

Apple製品を買い換えたとき、古い機器を売却せずに予備機として保管しておくことがあるだろう。そういった機器を長期間放置後に久々に取り出してみたら、バッテリが完全に放電して電源が入らないという経験はないだろうか。ACアダプタに接続してもまったく起動しないときはバッテリや本体の故障だと考えがちだが、必ずしもそうとは限らない。

バッテリ表示が0%になっても、実際にはバッテリにはまだ一定のエネルギーが残っている。そこからさらにエネルギー量が減ると、バッテリの過放電保護機能が動作してバッテリからの放電を完全に止め、そこから先はバッテリセルの自然放電によってゆるやかにエネルギー量が下がっていく。このときバッテリは「過放電」と呼ばれる不安定な状態になっていて、通常の充電ができない。

過放電からの再充電には「リフレッシュ充電」と呼ばれる特殊な充電方法が使われる。過放電状態で通常の定電流充電を行うとバッテリに回復不可能なダメージを与えるため、通常充電時の10分の1程度の電流で時間をかけて回復させる。このため過放電からの回復には長い時間が必要だ。1〜2日充電器に接続したままにしておき、その後改めて電源を入れてみると機能を回復することが多い。無事起動したら改めてバッテリ状態を確認してみるといいだろう。

Appleシリコンの登場によって、MacBookのバッテリ状況は大きく変わりつつある。たとえば「Apple M1」搭載のMacBookはIntelプロセッサ搭載モデルの2倍近いバッテリ動作時間があるため、同じ使い方なら充放電回数が半減する。さらにApple M1は発熱量が極めて低く、バッテリ温度がほとんど上がらない。今後Appleシリコン搭載モデルが普及すれば、MacBookのバッテリ寿命が大幅に伸びることは間違いないだろう。

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著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

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