SSDの市場価格はこの10年ほどの間に大きく下落し、1TBを下回る容量帯のストレージではその主役の座はHDDからSSDへと置き換わったといっても過言ではない。
Macの内蔵ストレージもAppleシリコン搭載にともなって、全モデルがSSDへの移行を完了した。
その一方でMacのエントリーモデルのストレージ容量は256GBまたは512GBがベースとなっており、あとから増設や交換ができない(Mac Proは除く)。
また、マシンの注文時にSSDの容量をアップグレードすることはできるが、そのオプション費用は非常に高価なため、同様に交換が不可能なAppleシリコンのグレードやメモリ容量も含めて、その選択は悩ましい。
そこでおすすめしたいのが、外部SSDからmacOSを起動して使用する方法だ。
ストレージを外付けにすることで内蔵SSDの容量制限を受けることなく、システムのストレージを拡張することができる。
またNVMe SSDを搭載するタイプのSSDケースを使えば、将来さらに大容量のSSDに換装したり、複数のSSDを用途に応じて使い分ける、といったことも可能だ。
快適さのポイントはPCIeトンネリング対応
Appleシリコンを搭載するMacを外部起動するうえで重要なのが、SSDの接続方法だ。
一般的なUSB接続のSSDでも起動ディスクとして使用できるケースはあるが、OSバージョンや接続方式によって認識しなかったり、起動に失敗したりするケースも少なからずみられる。
何よりUSB 3接続では内蔵SSDと比べて転送速度が遅いうえ、プロトコル変換にともなうオーバーヘッドによってレスポンスも低下する。
そこで起動ストレージに利用したいのが、Thunderbolt接続あるいはUSB 4接続のSSD(またはSSDケース)だ。
ThunderboltではPCIe(プロトコル)トンネリングが標準サポートされているため、NVMe SSDがMac内部のPCIeに接続され、プロトコル変換にともなうオーバーヘッドが発生しない。
さらにリンク速度が40Gbpsと高速なことから、エントリーMacの内蔵SSDに匹敵する転送速度が得られる。
ロジテック M.2 SSD 外付けケース USB4 PCIetoトンネリング対応 NVMe規格 最大4TB対応 LGB-PNVU4C
紹介したSSDケースの同等品はこちら。
ロジテック USB 4 SSD ケース 外付け M.2 NVMe 読込3,800MB/s M-Key B&M-Key 2280 / 2260 / 2242 / 2230 Ty…
使用したSSDはCrucialの「T500」の2TBモデルだ。
Crucial(クルーシャル) T500 【新型PS5 / PS5動作確認済み】 2TB SSD PCIe Gen 4 (最大転送速度 7,400MB/秒…
一方USB 4接続の場合には、必ずPCIeトンネリングに対応した製品を選ぶ必要がある。
なぜならUSB 4ではPCIeトンネリングはオプション規格であり、周辺機器にはその実装が義務づけられていない。したがってUSB 4対応を謳っていてもPCIeトンネリングに対応していない製品が存在するためだ。
現在市場に出回っているUSB 4対応のSSD(またはSSDケース)には、ASMediaのASM2464PDというコントローラを採用しているものがあり、このチップはPCIeトンネリングに対応している。
PCIeトンネリングに対応するUSB 4 SSDを探すのであれば、搭載コントローラを確認するのが手っ取り早いだろう。
ThunderboltまたはPCIeトンネリング対応のUSB 4を採用するSSDは、MacのThunderboltポートに接続した場合の認識が一般的なUSB SSDとは大きく異なる。
具体的には、「システム情報」から見たSSDの認識が「USBデバイス」ではなく、「Thunderbolt/USB4デバイス」として認識される。
また「NVMe」項目を見ると、内蔵SSDと並んでNVMeストレージとして認識されていることがわかる。つまりmacOSからは内蔵SSDと同等の存在として認識されているわけだ。
接続するThunderboltポートやUSB Cケーブルに注意
外部接続したSSDから起動する際に重要なポイントの1つが、SSDを接続するThunderboltポートの位置だ。
Appleシリコンを搭載したMacには、非常時に外部からファームウェアのリカバリーを行うためのDFU(Device Firmware Update)モードが用意されており、特定のThunderboltポートが「DFUポート」として割り当てられている。
外部起動を行うSSDの接続先は、このDFUモードをサポートするポートを避けなければならないという決まりがある。
そのポート位置はMacのモデルによって異なり、Appleのサポートページ「MacのDFUポートの見分け方」で確認できる。
また接続時の注意点として、Thunderbolt/USBのHUBやドッキングステーションを介さず、MacのポートにSSDを直結する必要がある。
さらにSSDを接続するケーブルはThunderboltまたはUSB 40Gbpsに対応したものが必要で、できればThunderbolt 4または同5に対応したケーブルを使うのがベストだ。
これらの規格に対応していないUSB-Cケーブルを使用すると、認識しなかったり、USB 3で接続される(遅い、起動しない、など)といったトラブルの原因になる。
初めてSSDを接続した場合は、アクセサリの接続許可を求められる場合がある。その場合は「システム設定」の「プライバシーとセキュリティ」項目にある「アクセサリの接続を許可」を行っておこう。
詳細はAppleのサポートページ「Macでアクセサリの接続許可を求められる場合」を確認してほしい。
いよいよ外部SSDにmacOSをインストール
SSDを接続したら、システム情報からNVMe SSDとして認識されているか確認しておこう。
正常に認識されていれば、次にSSDの初期化を行う必要があるが、SSDにデータが保存されている場合は事前に退避(バックアップ)しておく必要がある。
SSDの初期化では、パーティション形式をGUID、ファイルシステムをAPFSに設定する。初期化の際は事故を避けるためにも、ほかのストレージデバイスは事前に取り外しておきたい。
初期化が完了したら、インストールしたいバージョンのOSをダウンロードしよう。
注意点としては、内蔵SSDの環境(データやアプリ、設定など)を「移行アシスタント」で引き継ぎたいのであれば、そこにインストールされているバージョンと同じ、またはそれ以上のバージョンでなければならない。古いバージョンのOSには移行アシスタントで環境を引き継げないので注意が必要だ。
OSのダウンロードはApp Storeから行うのが楽だ。Appleのサポートページ「macOS をダウンロードしてインストールする方法」から、必要なバージョンのmacOSを選ぶことができる。
ダウンロードしたmacOSはアプリケーションフォルダに格納されるので、これを起動して外部SSDにインストールを行う。
インストールには現在の環境の管理者アカウントとパスワードが求められるので、忘れずに。インストールが無事完了すれば、外部SSDから起動してくるはずだ。
その後「新しい環境として設定する」か、「移行アシスタントを使用して内蔵SSDの環境を引き継ぐ」かを選択することができる。
インストール後の注意点
外部SSDでの運用については、いくつかの注意点がある。
まず外部SSDから起動している場合には、絶対にSSDをMacから取り外してはいけない。
そういった意味では、モバイルモデルであるMacBookシリーズでの運用は特に注意が必要で、完全にシャットダウンした状態でしかSSDを取り外してはいけない。
スリープ状態でSSDを取り外してしまうと、次回起動時にクラッシュしてしまうからだ。その点iMacやMac miniなどのデスクトップモデルではリスクが低いだろう。
起動ディスクを内蔵SSDと切り替えて運用するのであれば、デフォルトの起動ディスクは内蔵SSDに設定しておくと安心だ。
外部SSDから起動したいときは、起動オプションを使って選択するようにすれば、次回起動時には自動的に内蔵SSDに戻る。
外部SSDに複数のバージョン(または異なる環境の)のmacOSをインストールして切り替えて使う場合も、この方法をおすすめする。
なお高速なSSDは発熱が大きい傾向があるため、冷却ファンや大きなヒートシンクを持つ製品を選ぶなど、SSDの放熱には十分気を配りたい。
Thunderbolt 5対応SSDの増加に期待
2024年10月に登場したM4 Pro、M4 Maxを搭載したMacでは、新たにThunderbolt 5がサポートされた。これを追うように、Thunderbolt 5対応のSSD製品もリリースが相次いでいる。
Thunderbolt 5ではSSDとの接続に使用されるPCIeが、Gen.3 x4からGen.4 x4に高速化された。
これにともなって、転送速度の最大理論値が2倍高速になっているのが大きな特徴だ。
実際のThunderbolt 5対応SSDでも、6000MB/秒を超える転送速度が確認されており、これはMac miniやMacBookシリーズの内蔵SSDの速度を大きく上回る。
今後Thunderbolt 5対応製品の普及と、SSDの高速化や低価格化が一層進めば、外部起動の魅力が増すのは間違いないだろう。
まとめ
外部起動に必要な要件
- Thunderbolt 3/4対応、またはPCIeトンネリングをサポートするUSB 4対応のSSDを使う
-Thunderbolt接続の外部SSD
-PCIeトンネリング対応のUSB 4 SSD
上記いずれかに対応したNVMe SSDケース製品+NVMe SSDの組み合わせ
-NVMe SSDは高速な製品(PCIe Gen.3 x4以上、PCIe Gen.4 x4を推奨)を使う - DFUポート以外のThunderboltポートを使う(USB 3ポートは使わない)
- Thunderboltケーブルを使う(USB 4対応ケーブルでも可)
- 必ずThunderboltポートに直結する(HUBやドンキングステーションを介さない)
- 必要に応じて「アクセサリの接続を許可」する
- 必ず本体がサポートしているOSバージョンをインストールする
- 動作中やスリープ中に挿抜しない
- 他のMacの起動に使用しない
外部SSDにOSをインストールする
- DFUポート以外のThunderboltポートに外部SSDを接続する
- 「アクセサリの接続を許可」を行う
- 「外部SSD」をディスクユーティリティで初期化する
※くれぐれも目的のストレージ以外を初期化しない
※バーティションマップは「GUID」、ファイルシステムは「APFS」 - インストールしたいOSをダウンロードする
※本体が対応しているOSバージョンであること
※またはmacOS復旧から再インストールする(同一バージョンが使われる) - インストールしたい外部SSDにOSをインストールする
インストール後の注意点
- 「移行アシスタント」による環境移行はOSバージョンが同じ、または元の環境より新しいものに限る
- 不慮のトラブルに備えてバックアップ(Time Machine)を忘れずに
起動方法
- 「システム設定」「一般」「起動ディスク」から選択して「再起動」
-次回からも選択したボリュームから起動する - 電源ボタンを10秒以上押したまま「起動オプションを読み込み中」が出たら離す
-起動ディスクのリストが表示されるのでそこから選ぶ
-次回から「システム設定」に設定された「起動ディスク」から起動する
外部起動のメリット
- Thunderbolt 4(PCIeトンネリング対応のUSB 4)接続であれば内蔵SSDと遜色ない速度が得られる
- コストパフォーマンスに優れる(ケース製品+NVMe SSD 2TBで4万円以下)
- SSD容量の少ないMacを延命できる
- 本体だけでは実現(CTOで選択)できない大容量化が可能(8TB以上も可)
- ケース製品ならNVMe SSDを交換して運用できる
- 内蔵SSDの寿命を大幅に伸ばせる
- 試験的な環境構築や、複数のOSバージョンを切り換えて使うのに便利
- サンドボックス(Sandbox)的な使い方も可能
外部起動のデメリット
- 外部に接続したままにする必要がある(起動中に接続が切れるとトラブルになる)
- Thunderboltポートが1つ塞がる
- 性能は搭載されるSSDに依存する
- 製品によってはファンの音や発熱が気になる