ビジネスユーザを意識したPowerBook G3のフルモデルチェンジ
1998年、Appleは初代iMacのデビューを前にして、PowerBook G3のフルモデルチェンジを行った。このとき、それまではPowerBook 3400の筐体の流用であった直線的な外装を、流麗な曲線基調のものへと一大転換するとともに、画面サイズも従来からの12.1インチ(SVGA)に13.3インチと14.1インチ(XGA) を加えてバリエーションを増やしてシリーズ化された。そのため、前モデルと区別するうえで、PowerBook G3シリーズと呼ばれるようになったのだった。
僕が日本語訳を担当した、Apple製品デザインの変遷と裏話を収めた「Apple Design日本語版」(アクシス刊)によると、ジョナサン・アイブ率いる社内デザインチームは、ジョブズ復帰前後に盛んに異素材を組み合わせたコンピュータデザインを試みており、たとえば革外装のノートMacなども試作されていたことがわかっている。
iMacによって、デスクトップコンピュータのデザイン改革に乗り出しつつあったジョブズとアイブは、それに比べれば地味ではあったものの、ノートコンピュータでも新生Appleを印象づけるべく、PowerBook G3シリーズをデビューさせたのである。
新型機では、カラーリングがプラチナカラーからマットなブラックへと変更されただけでなく、天板と底面の中央部分がラバー系素材で覆われており、後のiMacやPower Macintosh G3シリーズほど明確ではないが、質感の異なる黒のツートーンとなっていた。
このモデルは、Wallstreetというコードネームからもわかるように、ビジネスユーザを意識していたと考えられ、革新性を盛り込みながら職場でも違和感のない外観を目指したといえるだろう。
PowerBook G3のPowerBook G3のフルモデルチェンジ。しかし“デリケートすぎる”弱点も
2019年までAppleのデザインディレクターを務めていたジョナサン・アイブが大のクルマ好き、特にビンテージスポーツカーに興味を持つコレクターでもあることは有名だ。そして、彼自身が、そのような関連性に言及しているわけではないが、PowerBook G3シリーズのディテールにも随所に、カーデザインにインスパイアされたと思われる要素が見られる。
たとえば、側面の中央部が上下から押されたくびれのようになっているのは、いわゆるコークボトルラインと呼ばれるスポーツカーの躍動感あるサイドビューに似ており、排気口のスリットも高性能車のエンジンルームの熱気抜きを思わせる。さらに、電源ポートやイヤフォンジャック周辺は、同じくテールライト的な雰囲気が感じられ、左右のパームレスト下に内蔵されるバッテリやCD-ROMユニットの脱着レバーはある種のクルマのドア開閉レバーを想起させるといった具合だ。
個人的にも気に入って使っていた製品だったが、実は、本体を持ち上げたり、持ち歩く際の滑り止めにもなる外装のラバー素材部分が結構デリケートで、何かの角に当たったり擦れたりすると、すぐに傷がつき、剥げてくるのが弱点といえた。サードパーティからもこの部分を保護するプロテクタ的なステッカーが発売されていたが、僕は手近な人工スエード素材で自作した覚えがある。高価なスポーツカー同様に、気遣いながら使う必要のあるマシンだったのだ。
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著者プロフィール

大谷和利
1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。