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Apple低迷期に“咲いた花”「BookCover」。PowerBook 1400を着せ替えできるアイテムは、カスタム思考のユーザを惹きつけた

著者: 大谷和利

Apple低迷期に“咲いた花”「BookCover」。PowerBook 1400を着せ替えできるアイテムは、カスタム思考のユーザを惹きつけた

※この記事は『Mac Fan』2019年7月号に掲載されたものです。

Appleらしからぬ“汎用品”に特徴を与える、カスタムパーツ「BookCover」

故スティーブ・ジョブズは、1996年の暮れにAppleに復帰した。その時点では、当時のCEOだったギル・アメリオのアドバイザーという位置づけだったが、ジョブズ自身はそんな地位に甘んじるつもりはなく、それからの経緯は周知のとおりである。

いずれにしても、逆にいえば、そこに至るまでの1996年のAppleは、最悪の状態にあった。そんな状況の中で、同年の5月に発売された製品が、PowerBook 1400だ。

会社の経済状態を反映し、その中身は、Appleにはあるまじき台湾製の汎用プラットフォーム。つまり、新興のWindowsマシンメーカーなどが手っ取り早く自社製品を市場に送り出したいときなどに利用されるノートPCのキットのようなものである。

さすがのAppleも一時はそんなものにまで手を出していたのだが、中身がMac向けにアレンジされているとはいえ、汎用品となってしまったからこそデザイナーたちは単にエスプレッソ(当時の同社のデザイン言語)に基づく外観だけではない、何かしらの特徴を盛り込まねばと思ったのだろう。「PowerBookのカバー」という意味で「BookCover」と呼ばれる新機軸を打ち出してきたのだった。

このBookCoverは、通常のディスプレイの上面にもう1枚装着することのできるパーツで、プラチナカラーのものと透明なものが付属しており、前者を装着すると落ち着いたビジネス仕様とでもいうべきイメージになる。しかし、後者の場合には、カバーの中に入れる写真やイラスト、印刷物などによって見た目をカスタマイズでき、ユーザが個性を演出できる要素となっていた。製品にはカラフルなサンプルシートが同梱されていたほか、自分でデザインできるテンプレートデータも用意されたのである。

BookCoverはユーザの顔。ソーラーパネルや漆塗りなど、個性豊かなデザインが登場した

その広告は、たとえばコマーシャルフォトや美術写真を手がけるイギリス人フォトグラファーのデイビッド・スチュワートを起用して、彼が愛用するLeica M6をフィーチャーするなど、BookCoverがPowerBook 1400を使う人の顔(パーソナリティー)そのものであるというメッセージが感じられる作りであった。

また、Macworld ExpoではBook Cover用にサードパーティから多様なデザインシートが出展・販売され、中には表面をフェイクの木目調に仕上げたり、漆塗りや蒔絵風の装飾を施したり、果てはソーラーパネルを組み込んだものまで登場した。

もちろん、この程度の面積のソーラーパネルでは、PowerBookに対する完全な電源供給はできず、スリープや電源オフの状態でわずかにバッテリをチャージする程度の能力しか持ち合わせていなかった。しかし、それでもPowerBook 1400の中には面白がってそれを装着する者も現れ、BookCoverでユーザの個性を表現するというAppleの目論見はそれなりの成功を収めたのである。

かくいう僕自身も、透明のBookCoverに入れるシートを自作したり、それ自体では面白みがないプラチナカラーのBookCoverの表面に木目の壁紙を加工して貼り付けるなど、かなり遊ばせてもらった記憶がある。だが、BookCoverのアイデアはPowerBook 1400のみで完結し、続くノート製品に採用されることはなかった。それは、Appleの低迷期に咲いた徒花だったのだ。

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著者プロフィール

大谷和利

大谷和利

1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。

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