箱から出して出してすぐ使える! 一体型マシン・Macintosh Performa 520
1993年に登場したMacintosh Performa 520は、主にホームユースや教育市場をターゲットとするコンシューマー向けのPerformaシリーズの第一弾だった。
写真では、脚部+本体+ディスプレイという3段重ねの、やや複雑な外観に見えるが、実際にはそこまで煩雑な印象はなく、Macintoshラインに必ず用意された一体型モデルを、時代に合わせてアレンジしたデザインとなっていた。
ただ、あえて一体感を強調しないディテールを採用したのは、モジュラータイプのほうが、より本格的なコンピュータに見えるという、当時の消費者心理的なものを考慮した結果なのかもしれない。
Performaシリーズの原点的存在といえるPerforma 520は、初代Macと同じく「箱から出してすぐに使える」ことを第一に考えて企画されていた。本体の電源ケーブルを1本コンセントに挿すだけで、映像ケーブルやディスプレイ用の電源ケーブルをつなぐ面倒がない一体型スタイルもそうだったが、バンドルソフトやサポートに力を入れた点が、この時代のAppleにとっては画期的な試みだった。
Performa 520に付属した「ClarisWorks」。“統合ソフト”と呼ばれた万能アプリケーション
年賀状ソフトや路線探索ソフトなどとともに目玉として付属したのは、ワードプロセッサ、データベース、表計算、グラフィックツールの4つの機能を1つにまとめたClarisWorksというアプリケーションで、今やそのカテゴリー名さえも懐かしいが、統合ソフトと呼ばれていた。
僕も、この頃には大いにClarisWorksにお世話になり、原稿から図版作成まで、ほとんどこのソフト一本で済ませることができた(ちなみに、開発元のClarisはAppleの子会社で、その後、主力製品のファイルメーカーを社名とした時期もあったが、現在は再びClarisに戻している)。
また、「Performa Hot Line」と名づけられた無料の電話サポート、修理の際にユーザのところまで受け取りに来て、直したものを届ける「ピックアップ&デリバリー」、公式サイト内の特別セクションである「パフォーマタウン」などのサービスを充実させ、初心者のための便宜が図られた。
“Appleらしい”画質を重視した設計。しかし、薄利ゆえにビジネスとしては失敗だった
個人的にPerforma 520でもっともAppleらしさを感じたのは、アメリカで約2000ドルという当時としては低価格な製品にもかかわらず、CRTに円筒画面で1ガン3ビーム方式のソニー製のトリニトロン管を採用し、画質を重視した設計となっていた点だ。
しかし、それだけにバンドルソフトやサポートを充実させたことと相まって利益が圧迫され、人気が出て売れれば売れるほど赤字になるような状況となった。その結果、シリーズ終盤のモデルではディスプレイも湾曲の激しい一般的なシャドウマスク方式のものに切り替えられて、少しでも収益率を改善しようとしたが、すでに焼け石に水の状態でAppleのビジネスの足を引っ張った。
もう1つ、Performaシリーズの問題点は機種ごとの数字のネーミングにあり、販売チャンネルや細かな仕様別に細分化され過ぎて、顧客はもちろんショップや販売員でも混乱するほどだった。後に復帰したジョブズが製品ラインを整理したのも、このあたりに原因があったのである。
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著者プロフィール
大谷和利
1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。