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時代の先端を行ったNewton MessagePad。ジョナサン・アイブがデザインした手帳型デバイスは、“早すぎた”ゆえに短命となった

著者: 大谷和利

時代の先端を行ったNewton MessagePad。ジョナサン・アイブがデザインした手帳型デバイスは、“早すぎた”ゆえに短命となった

※この記事は『Mac Fan』2019年9月号に掲載されたものです。

時代に先駆けた自動化機能搭載のNewton MessagePad 110 

本誌2019年9月号では、ジョナサン・アイブ特集が掲載されているので、このコラムでも、Macintosh本体やその周辺機器ではなく、アイブがAppleに入社して最初にデザインを任された「Newton MessagePad 110」を採り上げることにした。

MessagePadは、Appleが独自開発した個人情報端末用のNewton OSを搭載する同社製の手帳型デバイスに付けられた製品シリーズ名称だ。Newton OSは他社にもライセンスされたため、一時は、日本のシャープをはじめ、MotorolaやDigitalOcean、Harrisといった家電、通信機器メーカーもそれぞれの特徴を盛り込んだハンドヘルドデバイスを販売していたことがある。

Appleにとってこの製品は、当時のCEOのジョン・スカリーが名づけたPDA(パーソナル・デジタル・アシスタント)製品の第一弾で、本来のPDAはより広い概念を指す言葉だったが、多くのメディアがPDA=電子手帳と勘違いし、無数の誤用記事を生み出した。

当初、Appleは自社製品を、プラットフォーム名込みで“Newton MessagePad”と名づけたが、それは、たとえばIBMやLenovoが自社のノートPCを“Windows ThinkPad”と呼ぶようなものといえ、後に“Apple MessagePad”に名称変更している。このモデルの前に、1994年に発売された番号の付かない初代モデルがあり、110は翌1995年に登場した上位の新型機だった。

Newton OSは、ペンベースのオペレーティングシステムで、デフォルト画面が無限にスクロールするメモになっており、任意の場所に描かれた文字を認識したり、ラフな直線、三角、四角、円を自動で清書したり、特定の線を引くジェスチャーで削除や挿入、ページの区切りなどが行える。

また、検索、メール、プリント、リマインダなどの機能は、普通の文章を書くようにメモ書きしてAssistボタンをタップするだけで、システムが意図を汲み取って処理が行われるようになっていた。

意余って力足らず…MessagePadの最大の弱点

ところが、MessagePadの最大の弱点は、これだけの高機能を実現するには、プロセッサなどの能力が追いついていなかったことだった。そのため、どの処理ももっさりしており、本当の意味で使えるモデルは、1998年のMessagePad 2000/2100を待つ必要があった(しかし、社内リソースをMacに集中させたいジョブズは、それを最後に開発中止を決定した)。

それでも、特に図形の認識は誰に見せても驚かれるような先端的な機能であり、たとえば“Lunch”(昼食)の予定をアシスト機能で処理すると、現在の時刻を元に今日の昼か明日の昼かを判別し、デフォルトで1時間のスケジュールを設定してくれるのは、当時としては非常にインテリジェントに感じられるものだった。

また、Newton OSは通常のファイルシステムではなく、Soupと呼ばれるデータベース的な仕組みで文書やファイルを保存した。そして、さまざまなインデックス付加と呼び出し方ができ、情報の柔軟な利用が可能となっていた。

もし、そのまま開発が続けられていたなら、iPhoneは現在とはまったく異なるプラットフォームになっていたかもしれないのである。

著者プロフィール

大谷和利

大谷和利

1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。

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