初代iMacの登場。大きな興奮に包まれたWWDC
改めて振り返ると信じられない思いだが、初代iMacが発表されたのは1998年。今から22年も前の話だ。正確にいえば現地時間の5月6日なので、もう少し早かったものの、実際の出荷は8月となり、大まかにいって初夏のこの時期に誕生したのである。
233MHz(GHzではなく)のPowerPC G3チップと標準で32MB(GBではなく)のメモリ、4GBのハードディスクストレージ、15インチCRTで最大1024×768ピクセルの解像度…という仕様を聞いて驚く読者も多いかもしれないが、当時はこれでも一般コンシューマ向けの普及機としては十分にハイスペックなのであった。
このクラスで10/100Base-Tのイーサネットポートを装備していたことも先進的といえたが、普通の家庭では依然として電話回線を使ったダイヤルアップのインターネット接続が普通だったので、56Kbpsのモデムも内蔵していた。
発表の場はWWDCのキーノートであり、実際の会場は大きな興奮に包まれ、キーノート後にロビーに展示されたプロトタイプには参加者が群がった。実際に触れたり操作することはできず、傍らに警備員が張り付いている状態で鑑賞するのみだったが、皆、目を輝かせ、3カ月後の発売が待ちきれないといった風情であった。
トランスルーセントのボンダイブルーカラー。類を見ない“あざとい”デザイン
仕様もさることながら、その最大の特徴は筐体デザインにあり、トランスルーセント(透光性のある)のボンダイブルーカラーは、角度によって形が異なって見える筐体のフォルムと相まって、ほかに類を見ない存在感と魅力を放っていた。
そこには、現在のミニマルなAppleデザインの方向性とは異なるスタンドプレー的な要素も含まれていたが、ジョナサン・アイブは、世間の注目を集めてApple復活を印象づけるために、あえて、あざとさのあるデザインに挑戦したのだといえる。
また、筐体の素材はポリカーボネートで、高い強度を誇る反面、融解時の粘度が大きく、樹脂そのものを均一に着色することが難しいという特性があった。この問題を解決するためにデザインチームは、同じように粘度と透明度の高いキャンディをきれいに着色している菓子メーカーを訪ねて教えを乞い、そのノウハウを応用したといわれている。そのような、ジャンルを問わない貪欲な探究心が、Apple製品のデザインを支えてきたのである。
「宇宙に新しい星を生み出す」。初代iMac発表の場でみせたジョブズの試み
ちなみに、発表時で個人的に特に好きだった箇所は、筐体の外観を写し終えたビデオカメラが、iMacのほうを向いたまま遠ざかり、暗い会場の中でiMacが1つの光点になっていくところである。
普通ならば、ひととおりの撮影が済んだ時点でカメラを切り替えるなりして、すぐにステージの袖に引っ込むところだが、あえて後退しながらiMacをとらえ続ける。
もちろん、そのような演出が撮影スタッフの判断で行えるわけはなく、ジョブズの指示だったはずだ。思うに、彼はiMacを、宇宙空間に浮かぶ美しい天体のように見せたかったのではないだろうか。初代Macintoshがジョブズにとって「宇宙にへこみを作る」企てだったとすれば、初代iMacは「宇宙に新しい星を生み出す」試みだったのかもしれない。
おすすめの記事
著者プロフィール

大谷和利
1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。