生成AIのビジネス導入を成功させる鍵。タイミー・IVRy・サーバーワークスの実例をもとに語るリアル【IT surf seminar 2026 取材レポ】

2026.09.04 中臺さや香 約9分
生成AIのビジネス導入を成功させる鍵。タイミー・IVRy・サーバーワークスの実例をもとに語るリアル【IT surf seminar 2026 取材レポ】

生成AIの進化によって、多くの企業でAI活用が急速に広がっている。一方で、「現場にどう定着させるか」「ガバナンスをどう効かせるか」「増え続けるAIコストをどう評価するか」といった課題に向き合う企業も少なくない。

Too主催の情シス向けイベント「IT surf seminar 2026」では、Tooの福田氏をモデレータに迎え、株式会社タイミーの小池氏、株式会社IVRyの植田氏、株式会社サーバーワークスの宮澤氏が登壇。AI活用の推進において直面した課題や定着化のための取り組み、さらには「AIは投資なのか、それとも投機なのか」という視点まで、情報システム・コーポレート部門のリアルな悩みと実践例について語り合った。

本記事は全4回でお届けする特集の最終回です。第1回では、「情シスはなぜ“何でも屋”になるのか」をテーマに掘り下げました。まだお読みでない方は、ぜひこちらからご覧ください。

「AIなら何でもできる」。高まる期待値との向き合い方

──まず皆さんに伺いたいのですが、AI活用を推進するなかで「これは大変だった」と感じたことはありますか?

宮澤氏(株式会社サーバーワークス):ガイドライン整備はもちろんですが、課題は期待値のコントロールですね。AIの進化が速すぎるので、経営層も現場も「AIなら何でもできる」と思ってしまうんです。SNSや動画で新しい事例を見ると、「うちもこれをやりたい」という話になる。

でも実際にはリスクの高いAIサービスもありますし、統制しなければいけない部分もある。だから利用状況の可視化やルール整備を進めながら、どうコントロールしていくかが大切だと感じています。

──確かに、経営層がメディアやYouTubeで事例を見て「うちもやろう」となるケースは増えていますよね。このあたり、植田さんの会社ではどのような会話がされていますか?

植田氏(株式会社IVRy):当社の場合、AI導入には大きく二つの目的がありました。一つは従業員の業務生産性向上です。もう一つは、当社自身がAIを中心としたプロダクトを提供している以上、自分たちが使っていなければお客様にAIの魅力を伝えられないという考えですね。2024年末頃には「そろそろ本格的にやらなければいけない」という空気がありました。

写真左から、株式会社Tooの福田氏、株式会社タイミーの小池氏、株式会社IVRyの植田氏、株式会社サーバーワークスの宮澤氏。

AI活用の成否を分けるのは、技術力よりも現場理解

植田氏:その中でいくつかのAIツールを選定し、ベンダーさんと一緒に勉強会を開催したり、社内コンテストを実施したりしながら活用を広げていきました。

──社内コンテストというのは面白いですね。どのような取り組みが集まったのでしょうか?

植田氏:たとえば営業部門なら、商談後のラップアップや次のアクションをまとめたメール作成をAIで効率化する取り組みですね。エンジニアであれば、開発プロセスの中でどのようにAIを活用し、自動化につなげるかといったテーマもありました。面白かったのは、必ずしもAIに詳しいエンジニアが評価されるわけではなかったことです。

──というと?

植田氏:AIによって手段そのものはかなり民主化されています。だから結局は、その業務の課題をどれだけ深く理解しているかが重要になるんです。現場の課題への解像度が高く、「ここを改善したい」という熱量が高い人ほど成果を出していた印象がありますね。

──小池さんはいかがでしょうか。現場からもさまざまな要望が上がってくると思います。

小池氏(株式会社タイミー):私たちは、まず「何をしてはいけないか」を整理するところから始めました。生成AIが出始めた頃は特にそうですね。関連法令やサービス規約、個人情報に関するポリシーなどを確認したうえで、使ってよい領域とそうでない領域を整理しました。

今はChatGPTやClaude、Copilotなどさまざまなサービスがありますが、今後さらに新しいAIが出てくる可能性があります。だからサービスごとのルールではなく、自社として何を許容し、何を制限するのかという考え方が重要だと思っています。

現場へ定着させるために必要なのは「啓蒙」

──AIは進化が速い分、ルールを作るだけではなく定着化も難しいと思います。そのあたりはどう取り組まれていますか?

宮澤氏:当社はエンジニアが多いので、比較的自走しやすい環境ではあります。ただ、それでも月次で情報共有は行っていますね。AIだけではなく情報システム全般のアップデートや、「このサービスでAI機能が利用できるようになりました」といった情報も共有しています。「こういう使い方はしてほしくない」という注意喚起も含めてですが、結局は啓蒙し続けるしかないと思っています。

──情報収集はどのようにされているんですか?

宮澤氏:基本的にはXですね。やはり情報の速さが違います。まずはそこで情報を見つけて、本当に正しいのかを確認したうえで、自分なりに整理してドキュメント化しています。その過程で「自社だとどう使えるか」を考えて、社内へ展開している形です。

一度使えば、意外とハードルは下がる

──IVRyでは、定着化に向けてどのような取り組みをされていますか?

植田氏:勉強会は継続して実施していますね。最近ではClaudeをエンジニアだけではなく、ビジネス部門やコーポレート部門でも活用するようになったので、全4回のシリーズ形式で少しずつレベルを上げながら学んでもらっています。

あとはオンボーディングです。当社は比較的手厚くやっていて、入社後3日程度のオンボーディング期間を設けています。その中でAI活用についても説明し、利用できるツールや活用シーン、注意点まで含めて最初にインプットしています。

──かなり時間をかけているんですね。

植田氏:はい。規程やガイドライン、セキュリティ教育まで含めると、そのくらいになると思います。

──小池さんはいかがですか?

小池氏:私は「まず使わせること」が重要だと思っています。AIを渡されて、いきなり使いこなせる人はそんなに多くありません。でも一度使ってみると意外とハードルは下がるんです。逆に怖いからと使わないままでいると、使っている人との差がどんどん広がってしまう。ある企業では全社員に大量のプロンプトを作らせる取り組みをしていたそうですが、最初の壁を越えさせるという意味では非常に有効だと思います。

AIは本当に「投資」なのか?

──ここで少し話題を変えたいと思います。AI機能が次々と登場する中で、企業としての投資判断も難しくなってきています。このあたりはどのように考えていますか?

植田氏:当社の場合、AI活用そのものは経営方針とも一致しているので大きな障壁はありません。ただ、どのAIを使うのかという判断は常にあります。Claudeを全員に使わせるのか。ChatGPTも必要なのか。Google WorkspaceのAIオプションはどうするのか。

よくあるのは「どれだけ生産性が上がりましたか」という質問ですが、数字で厳密に示そうとするとかなり難しい部分があります。なので私たちは「どんな状態を目指すのか」を先に定義して、その状態に近づいているかで評価しています。

──小池さんは、このテーマについて独特な見方をされていましたよね。

小池氏:そうですね。そもそもAIって投資なんでしょうか。最近は「投機」に近いと思っているんです。「これからの時代プロンプトエンジニアリングだ」と言っていたらエージェント概念が出て世界が一変してしまった。破壊的なAIの成長によって昨日まで積み上げた資産が意味を失い導入効果や計測値が短いスパンでころころに変わる。それって投資というより投機の感覚に近いと思うんです。

そうすると、ROI以外にも「最新技術を導入する理解と体力がある企業であることを知らしめるための広告費用」として考える見方もあっていいのではないかなと思っています。

生産性だけでは測れない価値

──確かに、従来のIT投資とは違う考え方が必要かもしれません。

宮澤氏:当社ではClaudeを全社展開していること自体を積極的に発信しています。エンジニアの生産性向上という意味もありますし、「当社はこういう技術を積極的に活用しています」というメッセージにもなります。採用活動や企業ブランディングにもつながるんですよね。

植田氏:自分たちで使って得た知見がお客様への提案にも活かせます。体験したからこそ分かる課題や運用上のポイントがありますから。

──単純にコストと生産性だけで評価するのではなく、自社の価値向上や顧客への提案力強化といった側面もあるということですね。

小池氏:そうですね。ROIや生産性向上だけで考えるのではなく、自社がどう最新技術と向き合うのかという視点もあると思っています。実際、これだけ変化が速い領域なので、先を正確に予測することは難しいですよね。だからこそ、自社がどんな価値を生み出したいのか、そのためにAIをどう活用するのかを考えることが重要なのかなと思います。

AI時代に重要になる「正しい情報」とは?

──AI活用が広がる一方で、トークンコストやセキュリティへの懸念もあります。ローカルAIの可能性についてはどう考えていますか?

小池氏:答えはまだないと思います。ただ、AIもいずれパソコンと同じように一人ひとりが当たり前に使う世界になると思うんです。その過程では経営を説得しながら進めるしかないのかな、と。

植田氏:私はかなり期待しています。お客様からも、「データは学習に使われるのか」「海外に保存されないか」といった質問を受ける機会が本当に増えました。ローカルAIであれば、社内の文脈を深く理解しながら、そうした懸念も解決できる可能性があります。

──最後に、AI時代のガバナンスや情報整備について伺いたいと思います。

小池氏:ガバナンスと活用は分けて考える必要があると思っています。会社として守るべきルールは定める。そのうえで現場は自由に活用できる。その二層構造が重要になると思います。

植田氏:私は「正しい情報を残すこと」が今後の最大のテーマだと思っています。AIと一緒に働く時代になるほど、組織内の誰もが同じ情報へアクセスできるようになります。そのときに重要なのは、その情報が本当に正しいかどうかです。変更履歴が追えない、どれが最新版か分からない、そういった状態ではAIも正しく機能しません。

宮澤氏:実際にAIが古い情報を参照して、誤った手順を案内してしまうケースもあります。結局のところ、情報の整理や棚卸しはまだ人間の仕事なんですよね。

AI時代の情シスに求められる役割とは

パネルディスカッションを通じて見えてきたのは、AI活用の成否はツール選定だけでは決まらないということだ。

現場が安心して使える環境を整え、活用事例を共有しながら定着を促進すること。そしてAIが参照する情報を整備し、ガバナンスと利便性のバランスをとること。

生成AIが当たり前になる時代に向けて、情報システム部門やコーポレート部門には、単なる管理者ではなく組織変革の推進役としての役割がますます求められている。

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