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AppleがiOS 11.3で実現する守りと攻めのアップデート

著者: 松村太郎

AppleがiOS 11.3で実現する守りと攻めのアップデート

Appleは2018年春に正式版を配信予定のiOS 11.3のプレビューを公開した。開発者向け、一般向けのベータ版も順次配信され、バージョンアップを重ね始めている。iOS 11.3ではソフトウェアの信頼性を回復するための措置と、iPhoneやiPadをさらなる高みへと押し上げる数々の新機能が搭載されている

iOS 11と諸問題

アップルは例年、世界開発者会議「WWDC」でその年の最新版のiOSを発表し、9月に正式版を配信する。脆弱性やバグの修正(バージョン番号の小数点第二位)は随時行われていくが、新製品などに合わせてマイナーバージョンアップ(小数点第一位)も行われる。その中でも、正式版配信から半年が過ぎる4月頃には、数多くの新機能を盛りこんだ大きなマイナーバージョンアップが行われてきた。iOS 11.3は、おそらく今年4月頃の配信となり、大きなマイナーバージョンアップと位置づけられる。

iOS 11は2017年6月のWWDC 2017で初めて披露され、iPhone 8/8プラス発売直前となる2017年9月に正式版が配信された。アプリ開発者にとっては、機械学習や拡張現実をアプリ内に組み込むことができ、利用者に新しい体験を提供できるプラットホームとして注目を集めていた。

ところが、iOS 11になってから、ソフトウェアの信頼性に関するさまざまな問題が露呈している。2017年12月2日以降、端末内の時刻によってアプリから送られる通知のバグで、端末が頻繁に再起動する問題が発覚し、アップデートを前倒ししている。

また、12月10日以降のオンラインの議論では、アップルがiPhone 6シリーズからiPhone 7シリーズで、バッテリの劣化度合いに応じてプロセッサのパフォーマンスを制限する仕組みを1年近く前からiOSに採用していたことが発覚し、バッテリ交換の割引きなどの対応に追われていた。

macOSのルートログインの脆弱性、またインテルやARM系などのプロセッサの高速化の仕組みを悪用した脆弱性など、アップル製品に関する品質やセキュリティに関して、問題が一気に噴出している。

こうした事態を受けて、アップルは2018年のiOSに発表に際して、華々しい新機能のリリースは先送りにして、まずは安定性の重視を優先するという報道もある。実際iOS 11.3についても、これまでの問題を解決する措置が含まれており、顧客からの信頼回復と体験向上を図れるかが注目される。

目玉のアップデート

iOS 11.3でまず注目したいのが、前述のバッテリ問題への対処だ。iOS 11.2までは用意されていなかったバッテリの健康状態を表示する機能が盛り込まれるほか、アップルが「頻繁な再起動による顧客体験の低下を防ぐため」として強制的に行ってきたパフォーマンス制限について、ユーザが任意でオフにするメニューが用意される。バッテリ交換の割り引きに加え、パフォーマンス制限に関して透明性を高める措置を採ることで、同問題を一定の幕引きとしたい考えだ。

また、ARキット(ARKit)が1.5となる。iOS 11は前述のとおり、アプリ開発者がiOSアプリに拡張現実(AR)機能を「ライセンスなし」で組み込めることができるもの。アップルはARキット提供開始時にiPhoneこそが「世界最大のARプラットホーム」であると宣言した。そのARキットが進化を遂げ、これまでの床やテーブルなどの水平面のみの検出に加えて、新たに垂直面の検出も可能となる。これにより、壁に仮想のポスターを貼ったりすることが可能となる。

また、矩形の平面の認識率が向上するほか、コンピュータビジョンを活用して、標識やイラストなどを認識した装飾を行うことも可能になる。さらに、これまで720pだったARキット利用中のカメラの映像の解像度が1080pに向上し、より高精細な映像の中でAR体験を提供できるようになる。

iOS 11.3の新機能としては、アニ文字の追加キャラにも注目だ。アニ文字はiPhone Xに搭載されているトルゥーデプスカメラ(TrueDepth)カメラを用いて、顔の50以上の筋肉を認識し、顔の動きに合わせて画面の中の絵文字を活き活きと動かすことができる機能だ。2018年のグラミー賞向けに公開されたiPhone Xのコマーシャルでは、1分間アニ文字の宇宙人が歌を歌うだけの映像が用いられるなど、アップルイチオシのお楽しみ機能となっている。iOS 11.3ではこのアニ文字に、新たにドラゴン、熊、頭蓋骨、ライオンの4つのキャラが追加され、全部で16種類の絵文字で利用できるようになる。

現在アニ文字は、iPhone Xと「アイメッセージ(iMessage)」の組み合わせでしか利用できない特別な機能だ。そのため、送信できる人はiPhoneユーザの中でも一握りであり、今後登場してくるであろうトルゥーデプスカメラ搭載iPhoneの訴求ポイントとなっていくかに注目だ。

そのためにはアイメッセージ内で消えないアニ文字作成機能や、ユーチューブなどの動画共有サイトでの活用、「フェイスタイム(FaceTime)」などのビデオチャットへの対応など、汎用性を高めていくことも今後不可欠になっていくだろう。

医療情報が最大の戦略的施策

iOS 11.3は、アイメッセージのビジネスチャット、アップルミュージックのミュージックビデオ拡充などの重要な機能も追加されるが、2018年のテクノロジー業界にもっとも大きな影響を与えそうなのが、医療情報に関する「ヘルスケア」アプリのアップデートだ。

アップルはiOS 11.3以降、病院が医療情報を扱うオープンソースの規格「FHIR」(Fast Healthcare Interoperability Resources)を用いて、ヘルスケアアプリに自分の検査や診察で得られた健康に関する情報をまとめることができるようになる。

米国で複数の医療機関にかかると、それぞれが提供しているWEBやアプリに、異なるIDとパスワードでログインしなければ、自分の医療情報にアクセスすることができなかった。その煩雑さを解消することを目指しているのが、今回のヘルスケアアプリのアップデートだ。

アップルは医学研究に協力するアプリを作ることができる「ヘルスキット(HealthKit)」と、医療情報のやりとりや患者のケアを行うアプリが開発できる「ケアキット(CareKit)」という2つのAPIをすでにiOSに用意している。

今回の医療情報の集約の仕組みは、特に後者のケアキットを用いて、iPhoneを電子カルテと遠隔医療のツールへと変えていく第一歩として評価することができる。

スマホ低成長時代の戦略とは

アップルは2017年10~12月に、世界でもっとも多くのスマートフォンを販売するメーカーとなり、また世界でもっとも高い販売価格を誇るiPhone Xが、もっとも多くの販売台数を記録したデバイスとなった。こうした記録からは、スマートフォン市場のゆがみ、業界の瓦解を予見することができる。

IDCによると、2017年第4四半期(10~12月)の世界のスマートフォン出荷台数は前年同期比6.5%減となり、これまで拡大路線が続いていた市場も曲がり角となった。アップルも同時期の販売台数を1%程度減少させているが、他のメーカーがそれ以上に減速していたことがわかる。

アップルはiPhone販売が全体の売上の7割を占める。そのiPhoneの販売減を予測しており、2018年第2四半期の予測は弱気に映る。それだけに、現在のiPhoneユーザの買い替え需要を確実に確保し、他社から少しでもiPhoneへの乗り換えを喚起しなければならない。

アップルのティム・クックCEOは2018年第1四半期決算の電話会議で、販売台数はiPhoneの表面的な部分しか表現しておらず、顧客満足度、アクティブデバイス数などの長期的な数字が重要であるとの考えを示した。

顧客満足度はロイヤリティにつながり、iPhoneを使い続けてくれる可能性が高い顧客の裏づけとなる。iOS 11.3は、バッテリ問題への対処でネガティブな要素の解決を試み、医療情報の取り込みでプラットホームへの依存度を高める狙いが見える。守りと攻めの側面を兼ね備えたアップデートを、顧客はどのように受け止めるだろうか。

iOS 11.3で追加される新機能

【新機能1】バッテリ設定がよりわかりやすく

システム環境設定の[バッテリ]から「バッテリーの状態(ベータ)」へ進むと、最大容量がパーセントで表示される。100%なら新品と同等の性能、それ未満ならバッテリが劣化していることを示す。また、[ピークパフォーマンス性能]では性能が最大限発揮されているか、バッテリを保護するために性能低下が起きているかなどの情報が表示される。(【URL】https://support.apple.com/ja-jp/HT208387

【新機能2】よりインタラクティブなAR体験が可能に

ARKit 1.5では垂直面の検出も可能となる。これにより、壁やドアなどにARを表示させることができる。

【新機能3】新しいアニ文字が追加、さらに楽しく

iOS 11.3では、ドラゴン、熊、頭蓋骨、ライオンの新しいアニ文字も加わり、計16種類のキャラクターが利用できる。

【新機能4】「ヘルスケア」アプリに健康の記録

「ヘルスケア」アプリには「Health Records(健康の記録)」が追加される。これにより、自身の健康に関するすべて記録とデータにアクセスできる。

【新機能5】企業とユーザをつなげるビジネスチャット

新機能のBusiness Chatを使えば、iMessageを使用して、企業とエンドユーザがつながれる。カスタマーサポートなどに利用されることが想定される。

その他の注目の新機能

・Apple Musicの利用者は、広告表示のないミュージックビデオをストリーミングにより視聴できるようになる。新着のビデオはもちろん、おなじみの旧作、お気に入りアーティストの作品も、新しいミュージックビデオのプレイリストを通じて、連続視聴できる。

・「News」アプリでは、Videoグループが新たにFor Youに追加されるほか、機能向上されるTop Storiesを通じて、その日のもっとも重要な映像を見られるようになる。これまで以上に簡単に最新の情報にアクセスできる。

・HomeKitにソフトウェア認証の新手法が搭載される。これにより、開発者は既存のアクセサリを、プライバシーやセキュリティを保護しながら、HomeKitに対応させることができる。

・Advanced Mobile Location(AML)対応により、この機能に対応している各国の警察や消防、救急などの緊急サービスに電話を掛けるときは、相手先に利用者の現在位置が自動的に送信されるようになる。