Appleロゴは、シンプルでありながら完成されているロゴデザインの傑作だ。しかし、シンプルであるがゆえに、リンゴをモチーフにしたロゴはAppleロゴに似通ってしまう。
Appleはそのような類似ロゴに対し、片っ端から異議申し立てをしている。その対象はリンゴ以外のロゴや非営利団体にも及び、一部では「フルーツ警察」と揶揄されているようだ。なぜ、Appleは少しの類似も許さないほど厳しく対応しているのだろうか。
信仰も薄れる? Appleロゴに関する必死な異議申し立て
昔からAppleデバイスを使っている方には理解してもらえると思うが、AppleファンにとってはAppleが光の騎士であり、Mで始まる企業が暗黒の帝国だとみなすファンタジーがある。もちろん戯れだ。昔のAppleデバイスは、製品としては素晴らしいのにシェアが小さく、ユーザはマイナーの悲哀を感じていた。それを補うために、架空のストーリーをファンの間で共有していたわけだ。
ところが、光の騎士であるAppleに相応しくない事態が起きている。Appleは2019年以降、Appleロゴと似ているロゴを見つけると端から訴えまくっているのだ。USPTO(米国特許商標庁)に異議申し立てをした件数が急増している。
その数は異常に多い。USPTOでは異議申し立てなどに関する情報公開を行なっているのだが、これを丹念に数えていくと、Appleの異常ぶりがわかる。この5年で、年平均110件以上もの異議申し立てを行っているのだ。ちなみに、ほかのビッグテック企業の中では異議申し立てが多いほうのAmazonであっても、年平均は30件弱である。

異議申し立ての背景にあるAppleロゴの構成
Appleの異議申し立て件数が多い原因は、ロゴの構成にある。一般的な企業は社名の文字を図案化するか、社名とともにシンボルを用いて図案化する。Microsoft、Google、Amazon、Metaはいずれもそうだ。ところがAppleの場合、社名がなく、リンゴの図案のみになっている。これにより、リンゴをモチーフにすると、そのつもりがなくても自然にAppleロゴに似通ってしまう。
もうひとつは、社名が「Apple」という普通名詞であることだ。ほかのテック企業の名称は、Amazonを除けば、日常会話の中でその企業を指すこと以外の目的で使うことはまずない。ところが「Apple」は、企業のAppleとまったく関係のない文脈で使うことがある。アップルパイを販売するベーカリーが「Apple」という単語を使った店名にしたいと思うのは自然なことだが、Appleから異議申し立てをされるリスクが生じてしまうのだ。
Appleはすでに「著名商標」とみなされている。一般に商標は、事業領域が異なっていれば似通っていても問題はない。たとえば、「機動戦士ガンダム」などを制作した有名なアニメ制作会社は「サンライズ」だが、「サンライズ」という食器容器の会社もあるし、メロンパンの商品名にも使われている。事業領域が異なるため消費者が混同することは考えづらく、同じ名称が使われていても問題ないと見なされているのだ。
ところが、Appleのような著名商標になると事情が異なってくる。もし「Apple」の名前がついたパンが販売されたら、Appleがあまりに有名であるため「あのAppleがパンの販売を始めたのか」と勘違いする人が出てくるかもしれない。このような混同を避けるため、著名商標に関しては、事業領域が異なっていても商標権の侵害になることがある。
さらには、Appleが契約している弁護士事務所に働き者がいる可能性も考えられる。件数が多いだけでなく、個人レベルのスモールビジネスの商標ですら見逃さず異議申し立てをしているからだ。
「Education Associates, Inc.」の場合
米ケンタッキー州の教材開発企業「Education Associates, Inc.」は、以前から自社でデザインしたロゴを使っている。ところが、2020年1月にAppleが異議申し立てを行った。2年後の2022年3月末、Education Associates側がコンピュータ事業関連の商標登録を取り下げ、教育・研修事業のみの商標とすることで和解した。

Education Associatesのロゴは確かにリンゴをイメージするが、Appleロゴを連想する人はそう多くないはずだ。それでもAppleの弁護士は異議申し立てをしている。
「メルボルン・ヘルス・ライター」の場合
オーストラリアのメルボルンに住むネリッサ・ベントレーさんは、30年以上医療関連の記事を執筆してきたライターで、「メルボルン・ヘルス・ライター」を起業した。その会社のロゴを作成して2020年8月に商標登録したところ、商標登録が受理される直前、Appleが異議申し立てを行った。異議の内容は、Appleロゴと「混同するほど類似しているか、実質的に同一である」というもの。

ベントレーさんは困惑したという。Appleとは事業領域が異なるし、何よりAppleロゴと似ているとは少しも思えなかったからだ。ところが、双方の弁護士同士が話し合うと、Apple側は「リンゴの葉を反対側に移すか、葉を完全に取り除くこと」を提案してきたという。法廷闘争に時間とお金を取られることを心配していたベントレーさんは喜んでその提案に応じた。こうして、メルボルン・ヘルスライターは今でも新しいロゴを使って活動を続けている。
ベントレーさんは、その顛末をブログにまとめている→“Fruit wars”: How I took on a tech giant and won – The Melbourne Health Writer
「3.14アカデミー」の場合
どうやらAppleは、リンゴを使うことよりも、リンゴの葉が気になるようだ。バージニア州で自閉症やその家族を支援する活動を行っている「3.14アカデミー」は、当初、リンゴにπの文字を刻んだロゴを商標登録した。すると、Appleが異議申し立てを行った。これにより、3.14アカデミーは円にπの文字を刻んだロゴに変更。葉っぱがついたリンゴに見えることがいけなかったようだ。

「Latrina Walden Exam Solutions」の場合
看護師であるラトリーナ・ウォールデンさんは、オンラインで看護師資格対策の勉強ができる「Latrina Walden Exam Solutions」を開設した。最初に申請したロゴは心臓と心拍パルスを図案化したもので、これをリンゴに見立てて葉をつけた。
すると、Appleから2019年に異議申し立てがあった。やはり法廷闘争に時間とお金を費やしたくないウォールデンさんは新しいロゴを申請。それは、葉を2枚にし、りんごというよりもチェリートマトに見えるロゴだった。

「Super Healthy Kids」の場合
Appleは、リンゴだけでなく、あらゆる果物を見張っているようだ。これにより、一部からは「フルーツ警察」とも揶揄されるようになっている。子ども向け食事のレシピを提供する「Super Healthy Kids」は、2020年3月に洋梨をモチーフにしたロゴを登録しようとした。しかし、これにもAppleが異議申し立てをした。リンゴでもないのに、Appleロゴと形状が酷似しているというのだ。
両社は話し合いの末、葉っぱの形を半分にすることで和解した。Super Healthy Kidsは現在、イチゴをモチーフにしたロゴに変更している。

このようなAppleの行動は、一部の人たちから非難の対象となっている。企業が自社のブランドを守るのは正当なものだ。しかし、その対象が企業だけでなく、個人のようなスモールビジネス、さらには非営利団体や公益団体にまで及んでいることが問題視されている。
「アップルトン公立学区」の場合
「アップルトン公立学区」は、地域の教育情報を配信するWebサイトを起ち上げた。その地名から、リンゴをモチーフにしたロゴを2020年7月に商標登録しようとしたところ、Appleが異議申し立てを行った。
同年9月、アップルトン側が商標登録を取り下げる申請を行って決着。しかし、アップルトン公立学区のサイトでは問題のロゴが使われ続けている。商標登録をしていない、保護されない図案として使っているのだろう。

「Fremskrittspartiet」「Apfel Route」の場合
さらにAppleは、ノルウェーの政党「Fremskrittspartiet」、ドイツの観光自転車ルート「Apfel Route」のロゴに対しても異議申し立てを行っている。いずれも私企業ではなく、公益性を帯びた機関、非営利団体だ。


Appleロゴを守る。弁護士事務所の戦い
Appleがこのように攻撃的にロゴを守る理由は、Appleロゴが社名のない抽象的なものであり、類似しやすいからだ。Appleの弁護士は、少しの類似でも異議申し立てを行っておく必要がある。酷似したロゴがあるのに、それを許した先例をつくってしまうと、別の商標権で法廷闘争になったとき不利に働くからだ。「なぜあれはOKで、うちのはNGなのか」と説明を求められると対抗できなくなる。
また、簡単に和解することもできない。「葉っぱのついていないリンゴならOK」「リンゴと形状が似ていても別の果物であればOK」といった内容で和解すると、それを逆手にとり、Appleロゴに意図的に似せたロゴが登場した場合、法廷でその和解文書を証拠として提出されてしまう。
多くのロゴには社名が文字で入っている。社名なしの抽象的なロゴで、多くの人が認識できるのはナイキ、メルセデス・ベンツ、マクドナルド、三菱ぐらいなものではないだろうか。社名なしのロゴは、シンボリックで洗練されているが、それを守っていくのは簡単ではない。Appleが契約している弁護士事務所は、世界一忙しい弁護士事務所かもしれない。

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著者プロフィール
牧野武文
フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。









