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iPhoneが息を嗅ぎ分け糖尿病の兆候を検知。Appleが搭載を目指す次世代呼気センシングシステム

著者: 牧野武文

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iPhoneが息を嗅ぎ分け糖尿病の兆候を検知。Appleが搭載を目指す次世代呼気センシングシステム

iPhoneが糖尿病の兆候を教えてくれるようになる、そんな夢のような時代が目の前にきているかもしれない。

Appleが取得した新たな特許によって、iPhoneがユーザの「息」を分析し、健康状態の変化や病気の兆候を知らせる未来が現実味を帯びてきた。呼気に含まれる微量なガス成分から糖尿病や腎疾患、喘息などのリスクを推定する「呼気センシングシステム」を、日常的に持ち歩くiPhoneへ搭載しようという構想だ。

Appleが特許取得した「呼気センシングシステム」

自宅のガレージの車のエンジンをかけると、突然iPhoneが震え「昨晩のアルコールが残っているようです。運転は控えてください」と警告してくれる。あるいは、お昼にニンニクラーメンを食べるとiPhoneが震え、「このあと、顧客との打ち合わせの予定があります。歯磨きすることをおすすめします」とアドバイスしてくれる。

そんなことが現実になるかもしれない。Appleは、2026年3月31日に米国特許US12588830B1を取得した。「Electronic devices with breath sensing systems」(呼気センシングシステムを備えた電子デバイス)というものだ。冒頭に掲げた日常的な用途だけでなく、Appleはこの特許で、糖尿病、腎臓病、喘息、代謝異常、脱水症状などの兆候が検知できるとしている。

このような検出ができる装置は、電子鼻(E-nose)として医療機関で使われ始めているが、iPhoneにも電子の鼻が搭載されるかもしれない。

呼気は、疾患の兆候を知ることができるバイオマーカとして注目されている。体の細胞はさまざまな活動をして、その代謝によって二酸化炭素が生成される。その後、二酸化炭素は各細胞から血液を介して肺へ。そして、呼気として体外に排出される。細胞は二酸化炭素以外にもさまざまなガスを生み出し、これも呼気として体外に排出されるが、体に異常がある場合、その呼気の成分にも異常が起こる。そのため、呼気を調べれば体の不調の兆候を知ることができるのだ。

この測定には、非分散型(NDIR=Non-Dispersive Infrared)赤外線呼気センサが使われる。この技術自体はすでに確立されたものだが、これをiPhoneに搭載しようというのが、今回のAppleの新たな特許だ。

特許では、下表のように呼気による健康状態・疾患等の検出が可能だとしている。これはターゲットのガスが、特定の波長の赤外線を吸収する性質を使って特定のガス濃度を計測する仕組みだ。アセトンであれば、アセトンガスが吸収する波長の赤外線だけを放射し、その反射した赤外線を計測することで、呼気中のアセトン量を推定する。特定波長の赤外線を使うことが、“非分散”型赤外線と呼ばれるゆえんだ。

ターゲットガス分子関連する健康状態・疾患
アセトン糖尿病の兆候
アンモニア慢性腎臓病
一酸化窒素喘息
二酸化炭素代謝障害
その他(揮発性成分)口臭(ニンニク、タマネギ等)、脱水症状、高コレステロール
特許文書の中で言及されている、呼気から検出可能な疾病の兆候。糖尿病の兆候がわかるだけでなく、口臭チェックも可能になる。

立ちはだかる「距離測定」の課題

ところが、この呼気センサをiPhoneに搭載すればOKということにはならない。ただ搭載するだけでは正確な測定ができないのだ。そこをどうするか。ここがこの特許のハイライトになっており、iPhoneでなければ実現できない技術になっている。

光によって気体や液体の中にある物質の濃度を測定するには、ランベルト・ベールの法則に従って、濃度を計算する。この計算をするには、通過距離というパラメータが必要だ。

ところが、iPhoneから赤外線を放射したとして、呼気が出てくる鼻や口までの距離はどうやって測定するのだろうか。これが難しいため、医療機器では筒に向かって呼気を吹き込む形をとっている。呼気を測定器内部の部屋に導いて、光の通過距離を一定にするためだ。

iPhoneで測定するときに、筒を伸ばして息を吹き込むとなると、日常的に行えるような簡便さが失われてしまう。そこで、AppleのチームはFace IDを利用することにした。

iPhoneはFace IDのために、所有者の顔の3Dモデル情報を持っている。フロントカメラで顔を見れば、そこから顔がどのくらいの距離にあるのかがわかる。さらにDepthカメラを使って距離を測定することで、正確に鼻や口までの距離を割り出せるのだ。

可動式ミラーで呼気に赤外線を照射

顔までの距離が正確に測定できても、それだけでは十分ではない。呼気は鼻や口から出てくるのだから、そこに向けて赤外線を放射する必要がある。呼気が濃いところに放射したほうがより正確な測定ができるからだ。

Face IDのデータを利用すれば、顔の3Dモデルから鼻と口の位置はわかる。そこに向けて赤外線ビームを発射するために、赤外線カメラ部分には可動式のマイクロミラーが搭載される。このミラーが角度を変えて赤外線を反射することで、鼻と口の位置に正確に赤外線を放射するわけだ。

まだ課題はある。呼気を感知するセンサのウィンドウには、ガス分子が付着して残留することになる。これによって次回の測定時に誤差を生じさせてしまうため、本来は毎回クリーニングをしなければならない。そこでこの特許では、ハプティックエンジン、いわゆるバイブレーションを利用する。適切な振動周期で震わせることで、付着したガス分子をふるい落とし、次回も正確な測定を可能とするのだ。

FaceIDが持っている3Dの顔モデルから鼻と口の位置を特定し、内部の稼働マイクロミラーで反射させて、赤外線ビームをターゲットに正確に照射する。特許文書をもとにGoogle NotebookLMで作成。

iPhoneは新たなヘルスケアプラットフォームになるかもしれない

この手法でどこまで正確な測定ができるのかは、これからの挑戦だ。Appleはこの機能を有効に活用してもらえるように、医療機器としての認定を目指している。特定の病気の兆候を検知し、アドバイスを提供する機能は、医療機器でなければ行えないというのがその理由だ。

呼気のガス濃度を測定できれば、ユーザが気づかない間に健康状態を見守る機能をiPhoneに実装できる。Appleが目指すのは、1日に1回程度、iPhoneに呼気を吹きかけるような表示を出し、結果に応じて「脱水症状の兆候。水分を補給してください」や「糖尿病の兆候があります。医師の診断を受けてください」などと警告することで、ユーザの健康をサポートしていく世界なのだろう。

たしかに医療機関に行けば、より正確な測定をしてくれる装置がある。しかし、普通は健康診断は年に1回程度で、しかもすべての検診項目を受ける人は少ない。iPhoneによる呼気検査は、簡易的であっても高頻度で行われ、異常があれば警告をしてくれる。結果として、早めに医師の診断や治療を受けることで治癒率も高くなるはずだ。

さらに、iPhoneが蓄積した健康情報は、所有者の同意を得た上で医師に送ることができる。治療後も必要なバイタルデータを医師とリアルタイムで共有し、異常値があれば医師が対処するということも可能になる。毎日使うスマートフォンやスマートウォッチに健康の見張り番機能を搭載するというAppleの発想は、ひょっとしたら人類の健康維持に大きく貢献してくれることになるかもしれない。

すでにiPhone/Apple Watchはバイタルデータの取得、整理デバイスにもなっている。特にApple Watchは健康管理のためにつける人が増えている。

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著者プロフィール

牧野武文

牧野武文

フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。

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