目次
- インドネシアでiPhoneが販売禁止。拡大するアジア市場でAppleはどう立ち回るべきか
- 原因は保護主義的な経済政策。インドでは国内でiPhoneを製造することに
- AirTagの製造工場をインドネシアに構えるも…。iPhoneの販売禁止は続く
- WebサイトでもiPhoneは買えず。海外で買って持ち込むのはOKだが、転売目的は違法行為
- 受難のApple。その間、中国のスマホメーカーが猛攻勢
- Appleへの逆風はやまず。インド、中国、欧州、米国。各国で問題は山積み
- Appleのグローバルビジネスに限界? “美しい未来”と“厳しい現実”の衝突
- 日本とオーストラリアは無風地帯。ティム・クックCEOの来日を“優しく”待とう
インドネシアでiPhoneが販売禁止となった。同国の保護主義的な経済政策が原因だ。インドネシア側は、国内で販売するiPhoneの部品の40%以上を国内で調達することを求めており、Appleとの交渉が難航している。
また、Appleは中国、欧州、インドでも問題を抱えている。さらには、本拠地米国でも司法省から反トラスト法違反で提訴された。コロナ禍以降、世界各国が自国第一主義、保護主義に傾く中、グローバルビジネスを進めるAppleは、さまざまな困難に直面しているのだ。
インドネシアでiPhoneが販売禁止。拡大するアジア市場でAppleはどう立ち回るべきか
iPhoneがインドネシアで販売禁止となっている。インドネシアは、人口2.78億人、携帯電話契約数は3.53億台という巨大市場だ。成人のほとんどが携帯電話/スマートフォンを持ち、2台持ちしている人も多い。
さらに、平均年齢は29.9歳と若く、毎年5%成長を続けている。インドネシア政府は「2045年に先進国入り」を目標に掲げており、今後も成長が期待できる有望市場だ。
2023年には、インドネシアでiPhoneが230万台も売れている。そんな中での販売禁止。Appleとしては、目先の利益の減少も苦しいが、販売禁止の長期化によってマインドシェアを失うことのほうが避けたいだろう。そうなってしまうと、販売再開後も売り上げが伸びないという、最悪の事態が想定されるからだ。
Appleの有価証券報告書によると、2024年のアジア市場(中国と日本を除く)の売上割合は全体の7.8%。これは日本の6.4%よりも多く、アジア市場を失うことはAppleの将来に暗い影を落とすことになる。

原因は保護主義的な経済政策。インドでは国内でiPhoneを製造することに
インドネシアでiPhoneが販売禁止になっている理由は、AppleやiPhoneに何か問題があるのではない。世界各国と同じく、インドネシアが保護主義的な経済政策を進めているからだ。
そのわかりやすい例が関税だ。特に経済成長中の国では、海外製品を野放図に流入させると、消費は増えても国内産業が成長できない可能性がある。そこで、インドなどは輸入する電子機器に高い関税をかけている。
インドにおけるiPhoneの販売価格は、高い関税の影響で国際価格よりも3〜4割ほど高くならざるを得なかった。Appleとしては、当然インド国内で生産することを考える。国内生産すれば輸入関税がかからないからだ。
こうして、インド現地企業のタタエレクトロニクスは、台湾フォクスコンとともにインドでiPhoneを製造する企業となった。
AirTagの製造工場をインドネシアに構えるも…。iPhoneの販売禁止は続く
インドネシアは高い関税をかけるだけでなく、さらに強力なTKDN認証(国産化率評価認証、TKDNはインドネシア語名称の頭文字をとったもの)という仕組みを導入している。これは、インドネシアで電子機器を販売する場合、40%以上の部品を国内企業から調達しなければならないというものだ。
ただし、これはグローバル企業の製品にとってあまりに無理がある。そのため、40%に相当する国内投資を行うことでも認証を取得可能だ。Appleは当初、1兆4800億ルピア(約9150万ドル)を投資し、インドネシア国内に開発拠点をつくることにした。しかし、インドネシア政府は基準値となる1兆7100億ルピアに達していないとして認証を拒否。
その後、Appleは投資を10億ドル規模に引き上げ、バタム島とバンドンにAirTag生産工場を設立。世界需要の20%のAirTagをここで製造し、1000人以上の雇用を創出することになる。
ところが、これも認められなかった。インドネシア政府によると、AirTagとiPhoneは直接の関係がないため、iPhoneのTKDN認証を発給する根拠とならないという。こうしている間に、以前取得していたTKDN認証の有効期限が切れ、iPhoneが販売できない状態に陥っている。
WebサイトでもiPhoneは買えず。海外で買って持ち込むのはOKだが、転売目的は違法行為
インドネシアのAppleのサイトを見ると、iPhone 16の製品写真がトップに表示される。しかし、他国と異なる点がある。通常であれば[さらに詳しく]と[購入]の2つのボタンが表示されるはずなのに、インドネシアでは「さらに詳しく」しか表示されないのだ。

個人が海外でiPhoneを購入し、税関で関税を支払ってインドネシア国内で使うことはできるが、売買目的で持ち込んだり、転売をすることは違法行為になる。インドネシア工業省によると、これまで約9000台のiPhone 16がインドネシアに持ち込まれ、合法的に個人使用されているという。
また、カルタサスミタ工業大臣は、転売や販売目的の輸入は違法行為になるため、身近にそのような行為をする人を見かけたら、工業省に通報してほしいと市民に呼びかけた。
受難のApple。その間、中国のスマホメーカーが猛攻勢
この問題をどう解決するか、ティク・クックCEOの手腕が試される。Xiaomi、OPPOをはじめとする中国スマホ各社は、すでにインドネシア国内に組み立て工場を設立することでTKDN認証を取得。低価格スマホ戦略で猛攻勢をかけている。
調査会社Counterpointのデータによると、iPhone 16が発売になった2024年Q3のメーカー別販売ランキングでは、Xiaomi、OPPO、vivoと中国勢が上位を占め、その次に来るのが韓国Samsungだ。そして、当然ながらAppleの名前は見えない状態になっている。

Appleへの逆風はやまず。インド、中国、欧州、米国。各国で問題は山積み
インドネシアだけでなく、Appleは世界各地で受難ともいえる状況に直面している。
インド:国内生産のiPhoneに返品が相次ぐ
インドでは、脱中国化を図る意図もあってiPhoneの生産を始めたが、電力不足、熟練工不足などの問題が発生した。
なお、インド製iPhone 15は欧州と中国にも出荷されているが、返品が相次ぐなどの問題を起こしている。インド産iPhoneに関するAppleの戦略と返品騒動についてまとめた記事も以前執筆しているため、ぜひ合わせてご覧いただきたい。
中国:販売台数が急降下。割引も常態化
中国市場では、iPhoneの売れ行きが急降下している。Counterpointのデータによると、2024年のiPhoneの中国市場での販売台数は、前年比-18.2%という厳しい状況だ。
中国スマホ各社が、バッテリ容量、急速充電、組み込みAIなどで著しい性能向上を図ったため、相対的にiPhoneの性能が低く見え始めていることが要因だ。Appleは中国市場で大幅値引きを常態化させており、それでもセールスが苦しい状況にある。

欧州:App Storeがデジタル市場法に違反と指摘
欧州でも、App Storeがアプリ配信を独占していることが欧州のデジタル市場法(DMA)に違反していると指摘された。その結果、サイドローディング(App Store以外での配信)を認め、配信手数料の引き下げを行う事態になっている。
米国:反トラスト法(独占禁止法)に抵触しているとして提訴
さらに、本拠地である米国でも、2024年3月に米司法省が反トラスト法(独占禁止法に相当)でAppleを提訴。独占的な地位を利用し、消費者やアプリ開発に不利益を与えている、また他社製品に乗り換えるときに役立つツールアプリの開発を阻害したという理由だ。
Appleのグローバルビジネスに限界? “美しい未来”と“厳しい現実”の衝突
世界中が自国第一主義、保護主義に傾いており、Appleのグローバルビジネスとの矛盾が起き始めている。Appleはこれまで、この星には国境などというものは存在しないかのようにビジネスを展開し、iPhoneというデバイスで世界中の人々をつなげてきた。
私たちがAppleデバイスを利用するのは、性能が優れているというだけでなく、このようなAppleの行動に美しい未来が垣間見えるからだった。しかし、現実は厳しい。世界は今、自分の国が生き残ることが最優先になり始めている。現在のAppleの困難は、理想と現実の衝突でもあるのだ。

日本とオーストラリアは無風地帯。ティム・クックCEOの来日を“優しく”待とう
こうしてみると、Appleが受難に遭っていないのは日本市場とオーストラリア市場ぐらいである。私たちは、iPhoneやMacに対して小さな改善提案はたくさんあっても、これといって大きな不満は持っていない。ティム・クックCEOにとって、世界地図を眺めたとき、唯一安堵できる国になっているかもしれない。

2024年、ティム・クックCEOは世界中を飛び回っていた。トラブルが発生している地域に行き、最前線に立って火消しをする消防士のような活動していたわけだ。もっとも問題が深刻な中国市場には、2024年中に3度も訪問している。
来日は2022年12月以来ないが、それだけ日本市場が安定しているということかもしれない。次回、ティム・クックCEOが訪日するときは、優しい笑顔で出迎えてあげたいものだ。
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著者プロフィール

牧野武文
フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。