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iPhoneのTouch IDとFace ID。実は、いずれも“実験室”では突破されている。では、より優れているのはどっち?

著者: 牧野武文

iPhoneのTouch IDとFace ID。実は、いずれも“実験室”では突破されている。では、より優れているのはどっち?

※この記事は『Mac Fan 2020年2月号』に掲載されたものです。

iPhone 8を使っている人は未だに多く、Appleも販売を継続している。iPhone 8は指紋認証センサのTouch IDを採用しているが、使っている人に聞くと、顔認証のFace IDよりも使いやすい」と言う。

認証方式としては、Touch IDとFace IDのどちらが優れているのだろうか。これが今回の疑問だ。

Touch IDかFace IDか。iPhoneのモデル選びの軸の1つ

iPhoneの現行機種といえば、2019年秋に発売された最新版のiPhone 11シリーズだ。しかし、現行機種を「Apple公式サイトで販売されている機種」と定義すれば、iPhone 8、iPhone XR、iPhone 11、iPhone 11 Proの4シリーズとなる。

このラインナップは素晴らしいと思う。iPhoneは未だに進化を続けているが、その進化の中心となっているのは、カメラ性能と処理能力だ。これは誰もが必要としている進化ではなくなっている。実際、仕事の連絡用ツールとして使うのであれば、iPhone 8で何も問題がない。

一方で、その人の使い方によって、選択すべき画面(ディスプレイ)サイズは違ってくる。4.7インチの小型画面で機動力を活かしたい人もいれば、6.5インチの大画面で情報表示量の多さを活かしたい人もいる。旧機種をラインナップに加えることで、選択肢の幅を大きく広げている。

もう1つの選択の軸になるのが、Touch IDか、Face IDかだ。意外なことに「Face IDは使いづらい」という人が一定数いる。そのような人のために、Touch ID搭載のiPhone 8をラインナップに残してくれているのは大変ありがたい。

「Face IDが使いづらい」と言われる要因

  「Face IDが使いづらい」原因となっているのは、顔を認識してくれない場合があるからだ。主に3つのシチュエーションがある。1つは、夜、ベッドの中で使いたいとき。Face IDは赤外線も照射しているので、かなり暗い場所でも顔を認識してくれるが、寝ている状態だと重力により顔が変形しているため、自分の顔と認識してくれないことがある。特に私のような中高年になると、顔の変形率が高くなるので、ほとんど認識してくれない。明るい場所でも寝ている状態では認識してくれないことがある。

この場合は、パスコード入力画面が表示されるのだが、一瞬、間が開く。この時間にイラッとさせられるという気持ちは理解できる。そして、もう1つが、花粉症の季節などにマスクをした状態で顔認証ができないという問題だ。

実は、このような「認識されない問題」には解決策がある。「設定」アプリのFace IDの設定項目に[もう一つの容姿をセットアップ]という機能がある。もちろん、別人を登録した場合は弾かれてしまうが、寝ていて変形している顔やマスクをした顔を登録することで、認識されない問題はかなり改善される。最初は認識されなくても、何度かやっていくと学習が進んでいく。

ただし、マスクをした場合は、鼻を出した状態でないと、セットアップができないようだ。

さらにもう1つの問題が、机の上に置いた状態でプッシュ通知が表示されたので、置いたまま内容を見たいという場合だ。Touch IDなら置いたまま指をホームボタンに乗せるだけでロック解除され、そのまま内容を見ることができる。しかし、Face IDだとロック解除できずに、いったん手に持ち、顔に正対させてロック解除しなければならない。この問題は、うまい解決策が見つからない。

Face IDの利点はたくさん。Apple Pay、電子書籍、着信時…“ステルス認証”を利用した機能

このような問題はあるものの、趨勢はFace IDになっていくと思われる。なぜなら、Face IDでは「認証のステルス化」が可能になるからだ。つまり、ユーザは顔認証を意識しなくて済むようになる。たとえば、iPhoneの「ウォレット」アプリを起動すると自動的にFace ID認証が行われ、気がつくとリーダーにかざしてApple Payで支払いができる状態になっている。

Face IDでは、電源ボタンをダブルクリックしてApple Payを起動すると、起動した瞬間にFace ID認証が完了し、支払いができる状態になっている。「認証」ということをほとんど意識しないで済むようになった。

さらに、Face IDを利用した気の利いた機能も用意されている。あらかじめ時間を設定しておくと、操作をしないと画面が暗くなり、自動でロックされるのだ。これはこれで便利だが、一方で電子書籍やWebをじっくり読んでいるときは、まだ読んでいるのに画面が暗くなってしまう。Face ID搭載機種では、画面を暗くする前にこっそりとFace ID認証を行い、認証が通ると、自動ロック時間が延長される。電子書籍を気持ちよく読み続けられるわけだ。

「設定」アプリの[Face IDとパスコード]で、「画面注視認識機能」をオンにしておくと、画面に触れなくても、使用中であることを認識し、iPhoneの使い勝手を快適なものにしてくれる。

また電話がかかってきたとき、iPhoneの画面を見て、誰からかかってきたかを確かめるだろう。このときも、こっそりとFace ID認証が行われ、呼び出し音量を下げてくれる。もう電話の着信には気がついているのだから、大きな音で呼び出しをする必要はない。

さらに感動したのが、ロック画面に表示されるプッシュ通知だ。Touch IDでは、通知とその概要が表示された。LINEなどの着信通知ではメッセージの内容も表示される。これは便利ではあるが、オフィスでiPhoneをデスクの上に置いたままにしている場合には問題が生じる。メッセージの内容を誰でも見てしまうことができるからだ。

Face ID機種では、プッシュ通知の内容は表示されず、ただ「通知○件」とだけ表示される。しかし、iPhoneを手に取るとFace ID認証が行われ、プッシュ通知が開いて内容が表示されるのだ。

このようなステルス認証機能は、便利であり、プライバシーも守れることから、今後さまざまなところに使われていくはずだ。

Touch IDもFace IDも“実験室”では突破済み。安全性はFace IDのほうが優れている

Touch IDとFace IDはいずれも認証機能なので、セキュリティ度が大きな問題になる。実はTouch ID、Face IDのいずれも、セキュリティの専門家たちは突破してしまっている。

Touch IDの場合は、まずターゲットの指紋を採取する。グラスについたものなどでかまわない。iPhoneのホームボタンをよく見ると、かなりくっきりと自分の指紋の跡がついていることがわかる。これを画像処理したうえで、特殊な導電性インクでプリントし、それをホームボタンに接触させるとTouch IDを突破可能だ。導電物質の配合が鍵になるが、複数のセキュリティチームがこの方法でAppleのTouch IDの突破に成功している。

Face IDでは、iPhone Xの発売直後10時間で、ベトナムの携帯電話メーカー「Bkav」が、Face IDを突破した動画を公開して大きな話題になった。方法は、ターゲットの顔を3Dスキャナでスキャンし、3Dプリンタで顔のモデルを作るというもの。

iPhone Xの発売10時間後には、ベトナムのスマートフォンメーカー「Bkav」がFace IDを突破して、世界を驚かせた。その方法は、ターゲットの立体顔マスクを3Dプリンターで作成するというもの。Bkav公式ブログより引用。
世界に衝撃を与えたBkavが公開した映像。見事に立体顔マスクで、Face IDを突破している。どのようにして突破したかを紹介したオープンセミナーの映像もBkavチャンネルで公開している。ベトナム語だが、英語の字幕があるので、興味のある方は見ていただきたい。Bkavが公開したYouTube映像より引用。

いずれの方法も専門家が実験室内で行ったもので、普通の人が犯罪に利用することは現実的には簡単ではない。しかし、Touch IDの場合には、導電物質の配合レシピを手に入れるか、試行錯誤で見つければなんとかなりそうだ。指の先に指紋プリントを貼ってTouch IDを使えば、周囲からも怪しまれることもない。一方で、3Dプリンタの顔モデルによる方法では、首人形を持ち歩かなければならず、いかにも怪しい。

指紋認証では、寝ている間に指を持ち上げられてロック解除されるという事件も起きている。セキュリティを考えると、やはりFace IDのほうが安全性が高いのだ。

もちろん、セキュリティの第一歩は、iPhoneを肌身から離さないこと。これに尽きる。

あなたはTouch IDを選ぶだろうか、Face IDを選ぶだろうか。Touch ID派の人からは、iPhone 8の後継機種を望む声が上がっていたり、あるいはディスプレイ全体で指紋認証できる機能の搭載を望む声が上がっている。

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著者プロフィール

牧野武文

牧野武文

フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。

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