Apple Watchのディスプレイが新幹線の窓に貼り付いて取れない。中国のSNS上で、そんな怪現象が多発している。ある人がそのことをSNSに投稿。「壊れるかもしれないから絶対に試さないで」と警告したが、それが拡散され、試す人が続出しているのだ。
なぜ、Apple Watchは新幹線の窓にくっついてしまうのか。“ファンデルワールス力”だという説がSNSでは支持されている。
多発する怪奇現象。Apple Watchが破損するケースも
中国で、Apple Watchにまつわる怪現象が広がっている。なぜそんなことをしたのかは不明だが、とある人が中国の新幹線に乗車中、Apple Watchのディスプレイ面を窓ガラスにつけた。すると、強い力で吸着してしまい、取れなくなったというのだ。

無理に引き剥がそうとすると壊れそうなくらい吸着力が強く、取るのに苦労したという内容を動画つきでSNSに投稿した。投稿者は「絶対に試さないで!」と警告したが、そういわれると試したくなるのが人間の心理。試して取れなくなり、中にはApple Watchが壊れてしまう人も出ているようだ。

中国メディア「都市快報」編集部は、この件についてAppleサポートに問い合わせを行った。しかしこの時点で、Appleサポートはこの現象を把握していなかったようだ。回答は次のとおり。
「弊社のApple Watchに吸着機能は搭載されておりません。ガラス面に吸着することは起こり得ません」
別の記者が再度Appleサポートに問い合わせし、現象を説明。そして対処方法を尋ねた。回答は、「そのようなことは起こり得ませんが、万が一発生した場合、Apple Watchをゆっくりと回転させるようにずらして剥がしてください」という常識的なものだった。
浮上した3つの説。フィルムのせい? ファンデルワールス力? それとも真空密着?
SNSで話題になったのは、「なぜApple Watchがガラスに吸着してしまうのか」ということだ。さまざまな説があがっている。
仮説1:保護フィルムに粘着性があるのではないか
中国では、iPhoneやiPad、Apple Watchに保護フィルムを貼るのが一般的だ。販売店で保護フィルムを購入すると無料で貼ってくれるし、街中にもフィルム貼りの露店がよく出ている。この保護フィルムが粘着性を持っていて、窓ガラスにくっつくのではないか。
しかし、多くの人がこの説を否定した。なぜなら、フリックやスワイプをするApple Watchに粘着性があると操作しづらい。そのため保護フィルムの表面はサラサラ、スベスベしているからだ。とても粘着力があるとは思えない。
仮説2:ファンデルワールス力によるものではないか
専門家を自称する人が「ファンデルワールス力説」をSNSに投稿したところ、この説が一気に広まった。
ファンデルワールス力とは、いわゆる分子間力だ。平滑な面同士が接触すると、分子が直接接触した状態になる。その状態下では分子間力が働き、面同士が引き寄せられるという。これは、強力接着剤の接着力よりも大きな力なのだとか。
一方、「そんなバカな」という人も多かった。しかし、自称専門家はこう説明する。「ヤモリがなぜ壁を登れるかご存じですか? あれは吸盤ではありません。ヤモリの足の裏には無数の微細毛が生えていて、これを平面にあてると、接触面積が非常に大きくなります。そして、毛と平面のファンデルワールス力で接着し、ヤモリは壁を登っているのです」。
この説明に多くの人が納得し、現在でもこの説を信じている人は多い。
仮説3:真空密着が起きるのではないか
デジタル製品の修理にまつわる情報発信をしているブロガー・波哥修理さんは、真空密着説を投稿した。最大の理由は、保護フィルムを貼っているApple Watchでだけ起きるからだ。
保護フィルムの表面は、摩擦を感じさせない平滑なつくりになっている。また、落下した場合の衝撃保護のために多層構造になっており、内側には弾力性のある素材が使われているという。これを窓ガラスのような平滑な面に押しつけると、境界部分の空気が追い出されて真空状態が発生。吸盤と同じ原理でくっつくと考えるのが妥当だというのだ。
Appleサポートも事態を把握。対処法が示されるも、試すのはおすすめできない
Appleサポートもこの現象が広がっていることを把握したようだ。「都市快報」の編集部が再度サポートに問い合わせすると、返答内容が変わった。
「もし密着して取れなくなった場合は、お湯の入ったカップなどを下に置き、湯気を下から密着面にあててください。しばらく待ってから、Apple Watchを回転させるように動かすと外れる可能性があります」
多くの人がこの湯気をあてる方法でトラブルを脱出している。すると、今度はiPhoneのディスプレイなど、さまざまな場所にApple Watchを吸着させる人が現れた。

ただし、湯気をあてる方法でも必ず取れるとは限らない。そして焦って引き剥がそうとすれば、Apple Watchは故障するかもしれない。
本記事では改めて、「絶対に試してはいけない」とお伝えしておく。
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著者プロフィール

牧野武文
フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。