幼小中高一貫教育とともに進めてきたICT環境整備
北海道・十勝平野の北西部に位置する鹿追町。人口約4800人の町に小学校4校と中学校2校があり、約440人の児童生徒が学んでいます。2001年に「子ども一人ひとりの夢がかなう魅力あふれる学びの環境づくり」を掲げ、以来、幼小中高一貫教育に力を入れてきました。2003年度には町内の小・中学校と高校が文部科学省の研究開発学校に認定され、英語教育や環境教育などを取り入れた特色ある教育課程を展開。その後も一貫教育を発展させ、現在は探究教育を中心とした学びへと取り組みを広げています。
中でも近年力を入れているのが、国際バカロレア(IB)教育です。国際バカロレアは、国際バカロレア機構が提供する教育プログラムで、探究を基盤とした学びを通じて、主体的に考え、異なる文化や価値観を理解しながら行動できる人材の育成を目指しています。
2025年12月には、町立中学校2校がIBの中等教育プログラム「MYP(Middle Years Programme)」の認定校となりました。学区制の公立中学校すべてがIB認定校となるのは、全国で初めてです。さらに2026年度からは「鹿追創生アカデミアプロジェクト」もスタート。IB教育を核に、こども園から高校まで連続した探究教育を町全体へ広げようとしています。
特色ある教育と並行して、鹿追町はICT環境の整備にも積極的に取り組んできました。2014年度には町内の小・中学校の各学級に実物投影機を整備し、液晶テレビなどと組み合わせて授業でのICT活用を推進。翌2015年度からはタブレット端末や無線LAN環境の整備に着手し、2017年度には町内すべての小・中学校への配備を完了しました。
その後、GIGAスクール構想を活用して小・中学校の端末を更新。高校にも町の単独事業でiPadを導入しました。現在は小学校から高校まで児童生徒が1人1台のiPadを利用し、教員にもiPadを配備して授業で活用しています。

校務端末の課題を解消するためMacBook Airへ刷新
その鹿追町が2025年、小・中学校の教職員が使用する校務端末を、従来のWindows PCからMacBook Airへ切り替えました。町内の小・中学校6校に配備した台数は、計82台です。背景にあったのは、長年使い続けてきたWindows端末が抱える課題です。

「先生方は日々の校務をできるだけスムーズに進めたい一方で、以前のWindows端末は、ハードウェアとしての性能の低さが大きな問題でした。動作が遅いうえ、立ち上がらなかったり、作業中に固まったりすることも日常茶飯事で、先生たちからは、自宅の私用端末と比べて『これでは仕事にならない』という声がたびたび上がっていました」(鹿追町教育委員会 教育政策担当主幹 宇井直樹さん)
当時のWindows端末は14インチのノート型で、大きくて重いものでした。校外への持ち出し自体は認められていたものの、実際に持ち帰って利用する教員はほとんどいませんでした。
故障の多さも悩みの種でした。多い時には月に数台の端末でトラブルが発生。修理には時間とコストがかかるうえ、代替機の数も限られていたため、交換まで3日ほど校務ができなくなるケースもありました。
加えて、従来のWindows端末はWindows 11のシステム要件を満たしておらず、Windows 10のサポート終了を前に刷新の時期を迎えていました。そこで新たな校務端末の選定を開始。Windows PCも含めて比較検討した結果、選ばれたのがMacBook Airでした。
性能、連携、コストから選ばれたMacBook Air
鹿追町教育委員会がまず評価したのは、Appleシリコンの高い処理性能でした。日常的な校務はもちろん、複数のアプリを使った作業も快適にこなせます。加えて、Macが以前から強みとしてきたグラフィック性能も、学校現場との相性が良いと考えました。学校では文書や表計算だけでなく、教員が写真や動画、音声などを使って教材を作成する機会も多いためです。セキュリティ面の強みや、故障が少なく長期間安定して使いやすいことも、選定のポイントになりました。
学校ではすでにiPadを広く利用し、全教室にApple TVを整備していました。これらのApple製品とスムーズに連係できることも、MacBook Airの大きなメリットです。

「先生たちが校務で作った教材をそのままiPadで使ったり、AirDropで共有したりできます。全教室にApple TVも入れているので、MacBook Airを持っていけば教室のディスプレイにもすぐに投影できます。子どもたちはiPadを中心に授業をしているので、iPadとの連動性は一番大事にしました」(宇井さん)

コスト面でも、MacBook Airには優位性がありました。M4チップ搭載MacBook Airと同じスペックで構成したWindows端末の見積もりを比較したところ、MacBook Airのほうが1台あたり約5万円も安価だったのです。
クラウド化とMac活用の蓄積が支えた選択
性能やコストに加えて、鹿追町がそれまで積み重ねてきたICT環境の整備も、MacBook Airの選定を後押ししました。
「私自身、Macを30年ほど使ってきたので、その使いやすさはよく理解していました。そのためiPadを導入した際、Macがあったほうが設定やデータ共有をしやすいと考え、各学校に1〜2台ずつ配備して、先生方に使ってもらっていたんです。個人でMacを使っている先生もいましたし、実際に使う中でMacの便利さも感じてもらえていたので、Macが受け入れられる素地はあると感じていました」(宇井さん)
もう1つ大きかったのが、校務や学習に使うシステムが、特定の端末に縛られない環境へと変わっていたことです。
鹿追町は2019年、各学校で利用していたオンプレミスのファイルサーバを廃止しました。校務系はMicrosoft 365 for Educationを中心としたクラウド環境へ移行し、学習系にはGoogle Workspace for Educationを導入。さらに、ゼロトラストの考え方に基づくアクセス制御を取り入れ、十分なセキュリティ対策を講じたうえで校務系と学習系のネットワークを統合しました。
児童生徒のiPadと教員用MacBook Airでは、Google Workspace for Educationとのフェデレーション認証によって生成した管理対象Apple Accountも利用しています。表示名は一人ひとりの個人名となっており、iCloudバックアップやiCloud Driveに加え、共同制作などの連携機能を利用できる環境を整備。授業での具体的な使い方については、各教員の判断に委ねています。
2020年度までに整えたのは、教職員が場所を問わず必要なシステムやデータへアクセスでき、端末が変わってもこれまでの環境を大きく変えずに使える基盤です。

「校務も学習もすでにクラウドベースの環境になっていたので、先生たちにしてみれば、校務用端末がWindowsからMacBook Airへ変わるだけの形だったんです。実際、切り替えたあとも大きな不具合や問題が起きることもなく、これまでの環境をそのまま使えています」(宇井さん)
鹿追町にとってMacBook Airへの刷新は、校務環境を一から作り直す大きな転換ではありませんでした。これまで整備してきたICT環境を活かしながら、従来の端末が抱えていた課題を解消する。そのための自然かつ合理的な選択だったのです。
持ち運べるMacBook Airで広がる校務と授業
では、2025年秋から町内の小・中学校に配備されたMacBook Airは、教員にどう受け止められ、現在どのように活用されているのでしょうか。
導入が伝えられた当初は、職員室でも戸惑いの声があったといいます。WindowsからMacへ変わることで、これまで使ってきたMicrosoft 365やGoogle Workspaceの環境を同じように使えるのか。操作に慣れられるのか。不安を感じる教員は少なくありませんでした。しかし実際に使い始めると、MacBook Airの使いやすさや快適さを実感する声が徐々に広がっていきます。

「以前は、校務端末を持ち運んで使うという発想自体があまりなかったんです。MacBook Airは軽くてバッテリも長く持つので、授業や会議にも気軽に持っていけるようになり、これまでになかった使い方も広がっています。たとえば、職員同士の会議では『ボイスメモ』アプリを使って、議事録を作成するようになりました」(瓜幕小学校・新田遼先生)
持ち運びやすさは、校内だけでなく学校間の連携にも役立っています。町内の学校が集まる会議ではMacBook Airを持参し、SharePointから必要な資料を呼び出したり、Apple TVを使って画面に投影したりしながら、各校の授業実践や情報を共有。必要な情報をその場で示しながら話し合えるようになり、学校を越えた協働も進めやすくなりました。
授業でも、MacBook Airの活用は広がっています。

「私は探究学習で、子ども一人ひとりにGoogleスプレッドシートを用意して、授業のはじめにその日の学習の見通しを立て、授業後には振り返りをしてもらっています。以前は何か修正が必要になると職員室のWindows端末で作業していましたが、今はMacBook Airを教室に持っていけるので、子どもたちの入力状況を見ながら、その場で修正できます。必要に応じてApple TVで画面を投影することもできるので、授業を止めずに対応できるのが便利です」(新田先生)

探究のプロセスを見取り、途中でフィードバックする
MacBook AirとiPadの組み合わせは、鹿追町が力を入れるIB MYPの評価にも活かされています。鹿追中学校と瓜幕中学校の「コミュニティ・プロジェクト」では、生徒が探究の過程を「プロセスジャーナル」に記録。調査したことや立てた計画、実際に行動してうまくいったこと・いかなかったこと、その結果を受けて計画をどう変えたかを残し、最後に活動全体を振り返ります。
教員は最終的な発表や成果物だけでなく、こうした記録や生徒とのやりとりも見ながら、「調査」「計画」「行動」「振り返り」の観点で評価します。生徒はiPadを使い、文章だけでなく写真や動画、プレゼンテーション資料など、さまざまな形で活動の過程を記録。教員はMacBook Airでそれらを確認・共有し、活動の途中でフィードバックできます。ICTは成果物をつくるだけでなく、試行錯誤の過程を見える化し、学びを深めるための道具にもなっているのです。

【URL】https://shikaoi.ed.jp
iPadとMacBook Airの連係も、授業のさまざまな場面で活きています。中でもよく使われているのがAirDropです。子どもたちがiPadで撮影した写真や動画、作成した成果物を、教員がその場で受け取れる。すぐに内容を確認し、必要に応じて印刷したり、課題をチェックして返したりできます。
iPadで作成したデータも、形式を変換したりクラウドへアップロードしたりする手間なく、そのままMacBook Airで開けます。これまでiPadのiMovieで行っていた動画編集を、MacBook Airの大きな画面で進められるようになるなど、教材や資料づくりにも活用の幅が広がりました。
「MacBook Airに変わって、1つひとつの作業が1〜2ステップずつ減った感覚があります。その分、ちょっとした仕事もその場で片付けやすくなり、空いた時間を別のことに使えるようになりました。たとえば、先生向けや子ども向けの通信でも、『もう1枚写真を入れよう』と思えるようになり、アウトプットのクオリティを上げられるようになりました。さらに、授業づくりにもこれまで以上に時間をかけられます。先生同士のコミュニケーションや情報共有がしやすくなって、協働が進んだことも大きな変化です。そうした変化が、結果として子どもたちの学びに還元されていると感じています」(新田先生)
新しいアウトプットは、授業や校内文書だけにとどまりません。鹿追町では、地域の探究教育を発信するPodcast「鹿追探究アカデミア」を配信しています。制作チームは鹿追中学校の教員2名と、鹿追町二地域移住コーディネーターの計3名。Mac上で「CapCut」や「Final Cut Pro」を使って音声を編集しているそうです。
番組には鹿追町の卒業生や町を訪れた人などが出演し、その声を発信することで、鹿追町と関わりのある人やリスナーとのつながりを広げることも狙いの一つです。当初はSpotifyを利用していましたが、「Apple Podcastでも聴けないか」という声を受け、現在はApple Podcastでも配信しています。MacBook Airは日々の校務を支えるだけでなく、学校や地域の取り組みを外へ届ける制作環境にもなりつつあります。

【URL】https://podcasts.apple.com/jp/podcast/鹿追探究アカデミア/id6807699683
教員の創造性を支えるMacという「ラストピース」
MacBook Airが学校現場でこうした効果を発揮している要因の1つが、教員の裁量を尊重した運用ポリシーです。MacBook AirはiPadと同じJamf Proで一元的に管理し、必要なセキュリティを確保。その一方で、教員がApp Storeから必要なアプリをインストールできるようにするなど、現場での活用を過度に制限しない運用としています。
「教育委員会がすべてのアプリを把握できるわけではありませんし、セキュリティでがんじがらめにしてしまうと、何のために導入したのかわからなくなってしまいます。導入時にも伝えましたが、先生方にはMacBook Airを自由に活用しながら、より良い授業につなげていってほしいと思っています」(宇井さん)
鹿追町教育委員会は今後、AIを活用した校務支援にも積極的に取り組んでいく考えです。
「今のMacで一番驚かされたのは、AIとの相性の良さです。特にローカルLLMについて調べていくと、Macとの相性が非常に良いことがわかりました。学校では個人情報を扱うのでクラウドAIを使いづらい面がありますが、Macの中で処理できるローカルLLMであれば、そうした情報を扱いながらAIを活用できます。さらに、先生方が自然な言葉で指示するだけで、自分の業務やニーズに合ったアプリを作ることもできます。すでに出来上がった校務支援システムに先生が合わせるのではなく、一人ひとりが必要な仕組みを作ることで、校務を圧倒的にスムーズにできる。最強の校務支援システムになるのではないかと思っています」(宇井さん)
新しい活用に踏み出そうとする背景には、教員が本来持っている創造性を引き出したいという考えがあります。
「先生方は本当にクリエイティブなんです。ただ、これまでは事務作業に忙殺される中で、そうしたクリエイティビティがそがれてしまっていた部分があると思います。だからこそ、MacBook Airを活用して、先生方が本来持っている創造性をもっと発揮してほしい。学校ではすでにiPadやApple TVを使っていますし、先生方の中には個人でiPhoneやApple Watchを使っている人も多くいます。一方で、校務端末だけはWindowsを使うことが当たり前になっていました。そう考えると、MacBook Airは先生方にとってのラストピースだったんではないでしょうか」(宇井さん)


