子どもの学びから逆算して教育ICT環境を刷新
東京都心から南へ約140km、伊豆諸島に浮かぶ利島村。面積4.04平方km、周囲7.7kmの島に、約300人が暮らしています。村内には小中学校が一体となった義務教育学校が1校。25人の教職員が勤務し、約30人の児童生徒が学んでいます。


利島村は以前から教育ICTの活用に力を入れてきました。2021年には児童生徒に1人1台のChromebookを配布。ICT支援員による教員研修や端末活用に加え、2023年度には村としてGoogle認定教育者資格の取得を支援するなど、ICTを教育に活かす環境づくりを積み重ねてきました。
そのさなかの2024年10月、教育長に就任したのが三室哲哉さんです。三室さんはこれまでの取り組みを踏まえつつ、学習環境だけでなく、教職員が日々使う校務環境にも目を向けました。そして、教育ICT環境全体の見直しに着手します。

当時とくに大きな課題となっていたのが、安全性を重視するあまり、教員の働き方を縛る校務環境になっていたことです。校務端末のWindows PCは職員室の机につながれ、基本的に校内でしか使えません。持ち運ぶには重くて大きく、カスタマイズにも制限がありました。さらに、長年の運用の中で端末ごとに設定が異なり、使える機能やサービスにもばらつきが生じていました。全体像の把握は難しく、故障やトラブルが起きても遠隔からは対応できません。
「端末の起動に時間がかかったり、フリーズして作業を中断せざるを得なかったりすることもありました。また、先生自身のアイデアを形にするにも各種の承認が必要で、これでは柔軟な働き方を実現できません。こうした制約は、日々の授業準備や子どもたちと向き合う時間を奪い、授業の質にも影響していました」(利島村教育委員会 教育長 三室哲哉さん)
もう1つの課題が、運用にかかる目に見えにくいランニングコストでした。利島村教育委員会は、教育長と事務職員の2人という小さな体制です。日常業務に加え、端末や機器の更新に伴う契約事務、キッティングや運用保守の外部委託にも対応していました。ICTの専門職員もいないため、教育委員会職員や教員自身がITのトラブルシューティングに時間を取られることも少なくありません。外部委託費だけでなく、日々の対応に費やす時間も大きな運用コストになっていたのです。



こうした課題を受け、教育委員会は「子どもたちの学びから逆算した全体コスト」という視点に立ちます。既存のシステムや端末の契約期間を一つひとつ洗い出し、契約や予算に縛られて変革を先送りするのではなく、「子どもの学びに還元する」というビジョンのもと、スピード感を重視して見直しを進めました。
目指したのは、教員のやりたいことを制限せず、ICTの専門職員がいなくても安全に運用でき、将来のランニングコストも抑えられる環境です。まず、島しょ地区で共同運用していたGoogle Workspace for Educationを村単独の運用へ切り替えました。学習用端末も共同調達から離れ、ChromebookからiPadへ変更します。さらに、MDMのJamf Proの導入、ネットワークとヘルプデスクの整備、ゼロトラストを前提としたセキュリティ環境の構築へ。校務を含むICT環境全体を見直したうえで、新たな校務端末としてMacBook Airを導入しました。
性能とコストの両面から選ばれたMacBook Air
MacBook Airの選定には、いくつかの理由がありました。利島村では、必要な機能を包括した上位ライセンスのほうが、トータルのランニングコストを抑えながら教員のニーズにも柔軟に応えられると考え、校務系にMicrosoft 365 A5、学習系にGoogle Workspace for Education Plusを採用しています。この環境のもとで、Microsoft 365とGoogle Workspaceの双方を活用でき、学習用のiPadともシームレスに連携できること。そして、校務と学習の両方を1台でパワフルに支えられること。こうした条件で検討した結果、選ばれたのがMacBook Airでした。

「学習用端末にiPadを採用している自治体であれば、校務端末としてMacを十分に検討する価値があると思っています。学習用端末との連携がもたらす教育的な効果は、何にも代えがたいものがあります」(三室さん)
ハードウェアとしてのクオリティも、選定理由の1つでした。三室さんが評価したのは、故障が少なく、4年、5年と使っても動作が重くなりにくいこと。そして、バッテリが劣化しにくいことです。長く使えるMacBook Airを選ぶほうが、運用の手間やコストの面でも有利だと考えました。
決め手となったもう1つの理由が、中長期的なコストです。当時取得した見積もりでは、比較したWindows PCが約20万円だったのに対し、MacBook Air(M4)は約14万円。端末単体の価格でも優位性がありました。
コストの差は、端末代だけではありません。従来のWindows環境では、端末代のほかに初期設定や保守、外部委託などの費用がかかっていました。MacBook AirではJamf Proのライセンス費用が加わりますが、初期設定や端末管理を自動化でき、トラブルにも遠隔から対応できます。その分、従来必要だった保守や外部委託の費用を削減できるというわけです。
「システムや端末を充実させながらも、5年間のトータルコストを従来のおよそ8割に抑えることができました。MacBook Airを選ぶことは、決して特別なことではなく、自然な選択だったと思っています」(三室さん)
MacBook AirとiPadで場所に縛られない働き方を実現
現在、利島村の学校では、教員一人ひとりにMacBook AirとiPadを支給しています。職員室で腰を据えて作業するときはMacBook Air、教室や出張先、自宅などではiPad。Appleデバイス同士の連係機能を使い、2台をシームレスに行き来しながら、場所や仕事内容に応じて使い分けられる環境です。


利用するアプリも細かく制限していません。Microsoft、Google、Appleの各種アプリから、教員自身が用途に応じて選びます。授業でも、それぞれの教員が自分のスタイルに合った端末やアプリを選べる。自由度の高い環境が整えられています。
もちろん、自由度を高める一方で、セキュリティはしっかりと担保しています。校務データはSharePointに保存し、情報の機密度に応じたラベルを適用して閲覧や共有を制御。アクセスできるのは、Microsoft Entra IDによる認証に加え、Jamf Proとの連携で所定のセキュリティ要件を満たしたMacBook Airと、申請・承認されたiPadだけです。
MacBook Airの管理にはJamf for K-12を採用しました。Jamf ConnectによるMicrosoft Entra IDとの認証連携、Jamf Protectによるエンドポイント保護、Jamf Safe InternetによるWebアクセス制御。これらを組み合わせ、ゼロトラストを前提とした環境を構築しています。
「Jamfを導入したことは、運用面での効率化にもつながっています。離島という地理的な制約がありますが、端末の設定変更や紛失時のロック、データ消去、トラブル時のサポートまで遠隔から対応できるため、少人数でも効率的に管理できます」(三室さん)
日々の運用で重視しているのが、「教育委員会が縛らない学校主体の運用」です。端末設定に関する申請は、学校管理職が必要性を判断して教育委員会へ報告するシンプルな流れに。アプリの追加も、教員からの申請を受けてすぐに対応できる仕組みへ変更しました。Jamf Proで設定を簡単に変更できるため、教育委員会がその都度システム変更に追われることも、外部事業者へ設定変更を依頼して追加費用を支払う必要もありません。
特徴的なのは、MacBook AirやiPadの導入にあたって、あえてマニュアルを作らなかったことです。導入時に30分ほどの簡単な説明会を開いたあとは、基本的に教員自身へ活用を委ねました。

「システム側で安全性を担保しましたし、MacBook AirやiPadは直感的に使えるので、細かなルールや手順で先生を縛る必要はないと考えました。実際、大きなトラブルや問い合わせはほとんどなく、むしろマニュアルを作らなかったことで、先生同士が使い方を教え合ったり、『どう使うか』を自分たちで考えたりする自発的な活用につながりました」(三室さん)

快適な動作とiPad連係で広がるMacBook Airの活用
もっとも、新しい校務環境が学校現場ですんなり受け入れられたわけではありません。Macを使った経験のある教員は少なく、ハードウェアの操作に戸惑う声や、これまでのアプリやシステムをMacでも問題なく使えるのか不安を感じる声もありました。

「最初は『なんでMacなんだろう』と感じたのは事実です。ただ、Macを知っている先生や、せっかくだから使っていこうという前向きな先生が使い始めると、わからないことを互いに教え合うようになりました。さらに、従来のファイルサーバに保存していた校務データがSharePointへ移行され、校務支援システムの『BLEND』もそのまま使えることがわかると、Macへの移行が進み、校内に定着していきました」(利島村立利島小中学校 教諭 池田莉都先生)
教員が実感している大きなメリットの1つが、端末そのものの快適さです。起動が速く、複数のアプリやファイルを同時に開いても軽快に動く。従来のWindows PCで感じていた待ち時間やストレスが減りました。

「私は前の学校でもMacを使っていたので、導入を聞いたときはむしろうれしかったです。学校の先生は本当にマルチタスクで、授業資料や校務文書、調べものなどを同時に開いて仕事をします。以前のWindows PCでは動作が遅く、授業づくりにストレスを感じることもありましたが、今は複数の作業を同時に進めても快適に動くので、仕事がしやすくなりました」(利島村教育委員会 教育長補佐/利島小中学校 学校長補佐 山下真一先生)
iPadとのスムーズな連係も、日々の使いやすさにつながっています。

「私は基本的に、Macを校務や授業準備のベースにしています。テストや教材を作るのもMacです。一方で、子どもたちに資料を見せるときはiPadに移して、教室のディスプレイに映します。以前のWindows端末ではAirDropが使えなかったので、PowerPointなどの資料をiPadで使うには一度クラウドを経由していましたが、今はMacから直接送れます。また、iPadで作ったKeynoteなどのファイルもMacでそのまま開けるので、端末をまたいで作業を続けられるのも便利です。板書計画や授業の流れを考えるときは、手書きできるiPadを使うなど、それぞれの端末の特性に合わせて使い分けています」(池田先生)

MacBook Airを持ち出せるようになったことで、働く場所の制約も小さくなりました。島外への出張時や自宅でも必要なシステムやデータへアクセスでき、学校にいるときと同じ環境で仕事を続けられます。バッテリ駆動時間が長く、電源アダプタを常に持ち歩かなくて済むのも実用上のメリットです。
「以前はiPadでiMovieやKeynoteを使って動画を作っていましたが、今は写真などの素材がMacにもあり、Macのほうが編集しやすいと感じています。Macを使うようになって、これまでiPadでしていたこともMacでできると気づく場面が増えました」(山下先生)
「面倒なICT」から「助けてくれるICT」へ変わる教員の意識
本格導入からまだ4カ月ほど。それでも利島村の学校現場では、MacBook Airの活用が着実に進み、教員一人ひとりの可能性も広がり始めています。今回の校務環境刷新による大きな変化として三室さんが挙げるのが、教員のICTに対する意識です。
「以前は、ICTを『自分たちの足を引っ張るもの』『面倒なもの』と感じていた先生もいましたが、今では『自分たちを助けてくれるもの』『便利なもの』へと受け止め方が変わり、自然なものとして学校現場での活用が進んでいます。先生方のICTに対するマインドが変わったことが一番大きな成果だったと思います」(三室さん)
教員がいつでも、どこでもセキュアに気持ちよく働ける環境を整え、その創造性を子どもたちの学びへ還元する「教育効果の最大化」。端末やシステムを充実させながら、5年間のトータルコストを従来の約8割に抑える「全体コストの最小化」。一見相反するこの2つを両立できた理由は、ビジョンの実現に向けてまず行動したこと。そして何より、教員を信じ、できるだけ制限を設けずに仕組みで支えることを重視したことにあります。
「教育DXや校務DXの本質は、新しいパソコンを買うことでも、システムを新しくすることでもなく、子どもたちの学びを豊かにすることです。そのためにも、教育DXの鍵は先生を大切にすることだと考えています。先生が余計な管理負担やストレス、場所の制限から解放され、クリエイティブに笑顔で働ける環境を作れば、それは必ず子どもたちの教育の質として還元されていくと考えています」(三室さん)

Photo●山田秀隆

