ブラウザを揃え、OSの違いを小さくする
MacとWindowsがほぼ半数ずつを占めるfreeeでは、「Google Workspace」を中心に、日々の業務の大部分をクラウドサービス上で完結させています。そのため、Macであっても標準ブラウザにはSafariではなく「Chrome」を指定。Windowsと同じWebブラウザに統一することで、セキュリティポリシーを共通化し、管理の手間を大幅に抑えています。
OSにかかわらず、同じクラウドサービスと同じWebブラウザを使える基盤があること。これこそが、同社の「端末選択制」を根底で支えています。Macを選んでもWindowsを選んでも、日常業務の仕組みやフローを大きく変える必要がないのです。
クラウドを前提に、端末へファイルを残さない
OSに依存しない環境づくりのもう1つの柱が、徹底した「クラウド前提」のファイル管理です。
freeeにおける業務の基本スタイルは、文書やデータをすべてクラウド上に置き、そこから直接参照・編集するというもの。一度業務端末のローカル環境に保存したファイルをあとから同期するのではなく、最初からクラウド上で作業を進めるため、そもそも端末内にデータを置く場面がほとんど発生しません。
もちろん例外はあります。異なるサービス間でファイルを受け渡すための一時的なダウンロード、Excelのローカル利用、あるいはエンジニアが端末内にコードを置いて開発を進めるケースなどです。
しかし、こうしたデスクトップやダウンロードフォルダなどに一時保存されたファイルも、再起動のタイミングで自動的に削除されるようにシステム側で設定されています。従業員は普段からクラウド上のデータを直接扱うことに慣れているため、ローカルのファイルが消えてしまっても、業務において困ることはほとんどないと言います。

AIのために全員の業務端末を高性能化する必要はない
近年注目を集める生成AIの活用において、同社ではGoogle Workspaceに含まれる「Gemini」や、コラボレーションツール「Confluence」に搭載されたAIエージェント「Rovo」を中心に利用しています。これらをチャット形式で日常業務に取り入れつつ、より複雑なコーディングなどの作業には「Claude Code」なども活用。同時に、情報の機密性レベルに応じて「各サービスへ入力してよい情報・いけない情報」のルールを細かく定め、社内へ周知徹底しています。
では、日常的な業務にまで生成AIの利用が広がれば、社員の業務端末も一斉に高性能なモデルへ置き換えていく必要があるのでしょうか。常峰さんは、現時点で全社的なスペックの引き上げは急務ではないと見ています。
「私自身は現在、M2チップ搭載のMacBook Proを使っていますが、日々の業務はごく普通にこなせています。AIの利用機会が増えたからといって、急に全員へ特別なハイスペック機を用意しなければならないとは考えていません」
その理由の1つは、職種によって「AIの使い方」が大きく異なる点にあります。ビジネス職の業務は、顧客管理ツールの操作やスプレッドシート、スライド作成などが中心であり、AIを使うといってもクラウドベースの処理が多いため、端末そのものの処理能力に対する要求はまだそれほど高まっていません。
一方で、コーディングエージェントなどをローカル環境で積極的に動かすエンジニア層からは、「より多くのメモリを積んでほしい」という声も一部で上がっています。これに応える形で、現時点でのエンジニア向け標準端末としては、メモリを48GB/M5 Proを搭載したMacBook Proを採用しています。ただしこれは「AIを動かすためだけ」ではなく、開発業務全体を快適に行うために必要な性能として用意したものです。
AI時代も、端末選びの起点は業務にある
全4回にわたる記事を通して見えてきたのは、freeeが「Macを導入すること」自体をゴールや目的にしていないことです。社員は自分の使い慣れたOSを自由に選べますが、その裏側では、情報システム部がクラウドサービス、Webブラウザ、端末管理システム、そして強固なセキュリティの仕組みを徹底的に整備し、「どの端末を選んでも等しく仕事が進められる環境」をつくり上げています。
これから本格的なAI時代を迎えても、この根本的な考え方は変わりません。トレンドに流されて全員へ一律に高性能な業務端末を配るのではなく、クラウド上のAIツールをメインで使う人、ローカル環境での開発で高い処理性能を必要とする人など、「実際の業務内容」を起点にして最適な端末を見極める。
単なるデバイスの新しさやカタログスペックに目を奪われることなく、「社員がいかに安心・安全・快適に働けるか」をブレない基準に据え続ける姿勢こそが、同社の柔軟で合理的なPC運用を支えているのです。
写真●黒田彰

