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AppleとMicrosoftの「コンピュータって何?」

著者: 山下洋一

AppleとMicrosoftの「コンピュータって何?」

機械式計算機からスマートフォン、ゲーム機はもちろん、家電製品、そして自動車にもコンピュータが内蔵されている時代。AppleとMicrosoft、両巨頭のコンピュータを巡る発言が論争を呼んでいる。MicrosoftはPCこそ「リアルなコンピュータ」と断言する。しかし、Appleの見方はまったく異なっている。

マイクロソフトとアップル

iPadプロが着実な進化を遂げ、iPadの生産性を高めるアップデートが施されたiOS11が登場し、「iPadがノートパソコンを超えた」と断言するユーザも少なくない。その一方で、「生産性を追求したらタブレットはパソコンに及ばない」という人もいる。その代表的な存在がマイクロソフトである。パソコンこそが本物のコンピュータという同社に対して、アップルは次のように述べた。

「コンピュータって何?」

コンピュータの歴史を築いてきた2つの企業が、偶然にも同じタイミングでコンピュータに関して対立するような見方を示し、その波紋がネットでの論争へと広がっている。

発端は著書の宣伝でインドを訪れていたマイクロソフトCEOのサトヤ・ナデラ氏が2人の記者に述べた言葉だった。記者がiPadを使っているのを見てナデラ氏は「君たちはリアルなコンピュータを持つ必要がある」と声をかけた。それは、ウィンドウズをアピールするポジショントークだったと思う。このコメントだけだったら、大した論争にはならなかっただろう。ところが、この出来事が報じられた日に、アップルが「What's a computer」という1分間のビデオをユーチューブで公開した。

その内容は、iPadプロを持って出かけた女の子の1日だ。骨折した友だちとビデオチャットし、スクリーンショットを撮って友だちのギプスの上にアップルペンシルでメッセージを描いて送る。大きな葉っぱの上にカマキリがいるのを見つけて、写真を撮って宿題のレポートに使う。移動中のバスでiPadの画面でコミックを読み、家に帰ったら宿題の続きをする。そこに現れた母親が「コンピュータで何やっているの?」と聞くと、女の子は「コンピュータって何?」と聞き返す。

PCこそリアルなコンピュータと主張するマイクロソフト。それにピンとこないモバイル世代を描いたアップル。ナデラ氏の発言とアップルのビデオ公開が重なったことで、PC時代とポストPC時代が混じり合う今がうまく表現されたのだ。

変化を恐れないアップル

マイクロソフトに言わせたら、宿題のレポートを作成するなら「PCを使うべき」だ。でも、ビデオの中で女の子は、iPadプロでマイクロソフト・ワードを自由に使いこなしている。この女の子のライフスタイルを実現しているのは、リアルなコンピュータではない。ビデオでは、ルイス・ザ・チャイルドは「何を知りたいんだい」「どこに行きたいんだい」と歌っている。「iPadはノートPCの代わりになるのか?」とか、「何がリアルなコンピュータか?」なんて関係ない。女の子はiPadプロを持って行きたいところに行き、知りたいことを知って自分の世界を広げている。

たとえば、料理は美味しいものの情報を集めたり、レシピを調べて、いろいろ工夫して作る体験が楽しい。レンジでチンで手間を省いたって良いのだ。昔ながらの料理道具を使うのだけが料理ではない。

もちろん、iPadプロが究極のデバイスというわけでもない。アップルの強みは変化を恐れないところだ。デバイスを売って収益を上げている企業だが、ほぼ独占状態だったiPodの市場を危うくしてもiPhoneを投入するし、Macと市場を奪い合うことを承知でiPad市場を作り出す。ポストiPhone市場など今は想像できないが、より良い体験を実現できるならそれすらも犠牲にするだろう。アップルなら「リアルなスマートフォンを使うべき」と主張し続けることはない。

「What’s a computer」

【URL】https://www.youtube.com/watch?v=sQB2NjhJHvY