iPhoneなどのスマートフォンを置くことで、リアルタイムで微生物の有無を確認できるバクテリア・セルフチェッカー。専用アプリなどは利用せず、iPhoneのカメラをそのまま利用する。従来の顕微鏡に必要だったスライドガラスなどのガラス製品を使用しないため、飲食店舗や食品工場、飲料・製薬工場内にも持ち込み可能。一般的なコンシューマも購入可能だが、基本的にBtoB向け製品として日本国内のみで展開中。
スマートフォンの画面上を、うようよと菌が動き回っている。これは、合成でも録画された動画でもない。今まさに、あなたが手を載せているキーボード上の状態だと言われたら? こんなふうに、菌の状態を見たい箇所を手軽にサンプリングして、スマホで確認できる製品が「ミルキン(mil-kin)」だ。
使い方は簡単。菌の状態を見たい場所を、綿棒でこすってサンプリングする。それを水に溶かし、その水をミルキンの試料ステージに乗せる。あとはLEDを点灯させ、スマホスタンドに空いた穴の位置に、スマホのカメラレンズを合わせて置くだけだ。
専用スマホスタンドの上にiPhoneを置くだけでOK
iPhoneのカメラを使って細菌をリアルタイムでチェックできる「mil-kin」。iPhoneなどを載せる同梱のスマホスタンドには、マルチ対応調整穴が搭載されているので、スマホの機種に問わず、さまざまなカメラ位置のデバイスで菌を可視化できる。
サンプルを採取し試料ステージの上にたらす
菌を見る際は、菌の有無を調べたい場所から濡れた綿棒などでサンプルを採取し、試料ステージの上に塗りつける。付属品として、ピペットやマイクロチューブ、綿棒などがセットになっており、開封後すぐに利用できるのもうれしいところ。試料ステージは、サンプルを乗せやすく拭き取りやすいワイドでフラットな設計のため、クリーニングも簡単だ。
開発元のアクアシステム株式会社は、もともと殺菌効果のある電解水(次亜塩素酸水)を、食品工場や飲食店などに導入する販売施工会社だった。代表の狩野清史氏は、電解水の殺菌効果を説明する際に、「手軽に持ち運びできる顕微鏡があれば」と常々思っていた。菌が動いているところに電解水を垂らし、少しずつ菌が動かなくなる様子を見せることほど、殺菌効果を実感させる方法はないからだ。しかし、かつての光学顕微鏡はケースも含めて20キロほどもあった。また、食品工場などには、安全の観点からガラスを用いたプレパラートも持ち込めなかった。
転機となったのは、iPhoneの発売だ。「iPhoneのカメラと画面を利用して、菌を映し出すことはできないだろうか」。そう考えた狩野氏は、“持ち運びしやすく”“プレパラートが要らず”“覗き込まなくても見える”顕微鏡の開発に着手した。アクアシステムはハード開発の会社ではない。そのため、製品コンセプトや仕様などを決めたあとは、委託先の工場に任せるかたちで製造を始めた。しかし、「菌が見える」という感覚を共有するのが難しい。普段から衛生管理に携わっている狩野氏は、1ミクロンほどの菌や細菌が動いている様子が見えるレベルを期待していた。一方、製造側の技術者はぼんやりと菌の存在が確認できれば、「見える」だと思っていたのだ。
倍率1000倍で1μm以上の細菌を可視化できる
本製品は倍率1000倍で、1μm(ミクロン)以上の細菌や汚れをその場で確認できる。スマートフォンのカメラをそのまま使うため、拡大/縮小も自由に行え、ピントも自動でフォーカスされる。これまで目に見えなかった細菌がその場で可視化されるため、食品工場などの衛生管理が必須の現場では絶好の教育ツールとしても役立ちそうだ。
「ピントを固定でしっかり合わせ、ハッキリ見えるようにしたかったんです。何度も試作と話し合いを続け、最終的にスマホの画面にくっきり菌が映ったときには、その場にいた全員から『おお!』と声が上がりました」
完成したミルキンを食品工場や飲食店に持っていくと、「ぜひこれを使いたい」という声があちこちから聞かれた。自社の営業用に作ったはずのミルキンには、さまざまな用途があったのだ。たとえば、食品加工現場での教育ツール。品質管理部門には日々衛生管理や菌の情報が数値として入ってくるけれど、現場スタッフがそれを逐一追うのは難しい。「◯◯という細菌が検体1グラムあたり、10の6乗ありました」と報告があっても、それがどういう状態なのか、感覚的に実感できない。しかし、ミルキンで作業台の状態を確認できれば、「見えないけれど、こんなに菌がいるのか。手洗いや洗浄を定期的にやらないと」と気をつけるきっかけになる。
ほかにも、海洋学の大学教授から「海の色が赤っぽいときに、それが赤潮なのかどうか現場で確かめたい」といった相談を受けるなど、活用法は狩野氏の想定を超え、多岐に渡っている。現在は、菌の存在を確認できるだけだが、今後は専門機関と連携して、菌の数や種類まで特定できるようにする予定だ。スマホのカメラ機能で菌の状態を写真や動画で撮影し、それを専門機関に送ることで素早い検査が可能になると考えている。
「将来的に、蚊が媒介するマラリアなどの感染症を、蚊をその場で捕まえて検査し予防することや、未知の菌の発見に寄与することなども、あり得ると考えています」
「その場で菌が見える」ということには、想像以上の可能性が秘められている。
単3形乾電池を使うためランニングコストが低い
本製品は単3形乾電池を2本使って稼働するため、ランニングコストが低いのも特徴だ。また、電源が必要な設計では、工場などの現場内で利用できる環境が限定されてしまう。そのため、ミルキンは場所を選ばず使えるように作られている。
携帯性の高い設計でいつでもどこでも使える
重さ約450グラムと、携帯性にもこだわっている。本体の重量だけでなく、専用のスマホスタンドは2つ折りにできる設計になっており、これまでの顕微鏡と違って携帯性・収納性は抜群。まさに”いつでもどこでも”使える携帯顕微鏡になっている。