High Sierraのポイント
Macの将来を見据えた改良
WWCD2017の基調講演で、新型Macに続いて紹介されたのが、macOSのメジャーバージョンアップとなる 「ハイ・シエラ」だ。アップル本社がある米国カリフォルニア州東部にそびえるシエラネバダ山脈でも、特に高山地帯を意味するこの単語は、現行のmacOSシエラをさらなる“高み”へ導く意思が秘められている。
現在のmacOSは、UNIXベースのNeXTSTEPから発展したモダンなOSだが、前提としているハードウェア構成は数十年前を基準としたままである。ところどころで新しいハードウェアに対応するように手が入れられてはいるが、今後のコンピューティング環境の真価を引き出すためには、根本的に作り直す必要がある。
そこでハイ・シエラでは、将来のMacで採用されるテクノロジーをも視野に入れ、システムの各コンポーネントが、最新のハードウェアに最適化される。基調講演でハイ・シエラの紹介を行ったソフトウェア担当上級副社長のクレイグ・フェデリギ氏は、これらの改善を「Refinement(改良)」という言葉で総括したが、外見上よりも、内部的にはドラスティックな変化を遂げているのだ。
アップルが唱える3つの重点
具体的な変更点として、基調講演では「ファイルシステム」「ビデオ機能」「GPUコンピューティング」の3つに重点を置いて紹介された。ファイルシステムはデータの読み書きを司る重要な機能だが、これまで使われて来た「HFS Plus」は約20年前に登場したもので、今となっては処理速度の遅いハードディスクを前提としており、機能面でも不足が多かった。そこでハイ・シエラでは新しい「Apple File System(APFS)」が導入される。これはSSDに最適化された64bitファイルシステムで、高速なデータのハンドリングと安全性、暗号化によるセキュリティなど、現代のコンピュータに求められる機能を備えたものになる。メインメモリと比べるとストレージは非常に遅く、コンピュータ全体の処理のボトルネックの1つになっているが、APFSの登場でデータの読み書きが高速化することにより、ムービーなどGB単位のデータもサクサクと扱えるようになるはずだ。
ビデオ機能については、従来のH.264コーデックに加え、4K放送などで使われる「H.265(HEVC)」をサポートする。H.265はデコードにもパワーが必要だが、同じ画質なら約40%高い圧縮率を実現するため、ストレージの容量節約にも一役買うことになる。ハードウェアデコードもサポートするため、H.265で配信される4Kストリーミング動画なども快適に見られるようになるだろう。
昨今のトレンドであるGPUコンピューティングについては「Metal 2」で対応。3Dグラフィック処理の高速化だけでなく、GPUの演算力を活かして機械学習やVRにも利用できるようになるという。VRについてはウィンドウズPCにかなり遅れをとってきた分野だが、ようやくアップルが本腰を入れてサポートを進めるようだ。また、サンダーボルト3(Thunderbolt 3)接続による外部GPUもMetal 2でサポートされる。これまでゲームなどに不向きだったMacBookやMacミニといったハードに外付けのGPUをつなぐことで、ハイエンドのグラフィックスを必要とするゲームやVRコンテンツを楽しめるようになる。
命名の由来は…
いずれもユーザにとってこのうえないアップデートであることは間違いないが、それらは内部的な変化であるだけに体感してみないことにはなかなか実感がわかないのが現実だ。ここでは、まず純正ソフトのアップデートや新機能について見ていくことにしよう。こちらの改良点は見た目にわかりやすく、その利便性を容易に想像できる。多くの面で従来より使いやすく、強力なものになっているようだ。その便利さをまずは実感してもらいたい。その後、内部構造の進化についても詳しく解説していく。
ところで、シエラからハイ・シエラという小さな名前の変更だが、かつてOS Xが「レパード(Leopard)」から「スノーレパード(Snow Leopard)」になったときはPowerPCからインテルCPUへの移行が、また「ライオン(Lion)」から「マウンテンライオン(Mountain Lion)」になったときには32bitカーネルから64bitカーネルへの移行が行われてきた。名前の変化が小さなときにこそ、内部では大きな変化を遂げているというのが、アップルらしいこだわりだといえそうだ。