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【WWDC2017】Technology Focus

【WWDC2017】Technology Focus

刷新されたCPU「Kaby Lake」

今回のモデルチェンジでは、iMacやMacBook、MacBook Proと、ほぼ全モデルで第7世代Coreプロセッサ「Kaby Lake」への移行が行われた。Kaby Lakeは前の世代となる第6世代Coreプロセッサ「Skylake」の改良型で、プロセッサアーキテクチャは基本的に据え置きのまま、製造プロセスルールが改良された14nm+が採用されており、ラインアップ全体の動作速度が引き上げられている。具体的にどのような特徴があるのか。チェックしていこう。

先述のMacに採用されたKaby Lakeは、大きく分けて4つのカテゴリに分類される。1つはMacBook 12インチモデルに搭載された「Kaby Lake Y」で、CPU自体の熱設計容量(Thermal Disign Power:TDP)を4.5Wと極めて低く抑えることでファンレス動作を可能としたものだ。MacBookではユニボディの放熱効果をうまく利用し熱設計を5Wに拡張することにより、Coreプロセッサが備えるTDPをカスタマイズするcTDP(ConfigurableTDP)機能を使ってKaby Lake Yの基本動作クロックをワンレベル引き上げて使用している。たとえばCore m3 7Y30プロセッサの定格動作速度は1.0GHzだが、cTDP機能を使ってこれを1.2GHzに引き上げており、上位モデルも同様に動作速度の引き上げによるパワーアップが施されている。

一方、MacBook Pro 13インチモデルにはライトモバイル向けのデュアルコアプロセッサ「Kaby Lake U」を採用している。同プロセッサの特徴は統合GPUに容量64MBのeDRAMを備えた強力なIris Plusグラフィックス(GT3e)を採用している点だ。これは外部GPUを搭載しない13インチモデルでRetinaディスプレイの能力を発揮するために必要不可欠な選択だと考えることができる。なお、Kaby Lake Yと同Uプロセッサには、チップセット機能「PCH(Platform Controller Hub)」も統合されており、基板の小型化や軽量化に大きく貢献していると言えるだろう。

MacBook Pro 15インチモデルには、ハイエンドモバイル向けのクアッドプロセッサ「Kaby Lake H」が採用されている。こちらはCPUのコア数がKaby Lake Uの2倍に強化されている一方で、統合GPUは同Uプロセッサに比べると非力だが、これを外部GPU「Radeon Pro」でフォローし、グラフィック負荷の変化に応じて両者を切り替えることで強力なグラフィックパワーと省電力の両立を図っている。

そして、iMacシリーズに採用されているのは、デスクトップ向けのクアッドコアプロセッサ「Kaby Lake S」で、ベースクロックが3GHz以上と非常に高速なのが特徴だ。一方でiMac 21インチのエントリーモデルにはMacBook Pro 13インチモデルと同じKaby Lake Uが採用されており、低価格化と省電力化に貢献している。

Mac各モデルに採用されたKaby Lakeの比較表。省電力化や高い処理性能など、求められるニーズに応じて多様なラインアップが用意され、Macの用途に合わせて最適なプロセッサが選択されていることがわかる。

Mac各モデルに採用されたプロセッサラインアップ。今回のモデルチェンジでMacBookシリーズ及びiMacシリーズのラインアップがKaby Lake世代にアップデートした。例外はBroadwellを採用するMacBook Airだけだ。

進化したMac向けGPU

iMacのRetinaディスプレイモデルおよびMacBook Pro 15インチモデルに採用されたRadeon Pro 500シリーズは、昨年リリースされたMacBook Pro 15インチモデルに採用されたRadeon Pro 400シリーズの後継ラインアップで、アーキテクチャはGCN第4世代(GCN 1.3)、コードネームはPolaris、14nmプロセスのFinFETを採用しており、Radeon Pro 400シリーズから若干高クロック化されたマイナーチェンジモデルだ。

Polaris(GCN 1.3)では従来(GCN 1.2以前)と比べていくつかの改良点がある。大きな部分ではコマンドプロセッサが命令のプリフェッチ(先読み)に対応し、スレッドの実行効率が改善している。これはインテルCoreシリーズなどのCPUでは早くから採用されている技術だが、CPUに比べて命令分岐の少ないGPUではより効果が大きい。さらにL2キャッシュメモリを倍増し、ビデオメモリへのアクセスが集中した場合のオーバーヘッドを低減している。これらの改良によりPolarisでは旧アーキティクチャに比べて最大15%の性能向上を実現したという。

Radeon Proのベースとなっているのはデスクトップモデル向けのRadeon RX 500シリーズで、これをモバイル用に省電力化したものがRadeon Pro 500シリーズとなる。同シリーズは従来同様演算ユニットおよびシェーダーユニット数の違いによって幅広いモデルバリエーションがあり、同時に上位モデルではメモリバス帯域が256ビット、下位モデルは同128ビットと明確に差別化されている。いずれのモデルもプロセッサ統合GPUに比べて大幅に高いグラフィック性能を発揮すると同時に、メインメモリとは独立した大容量かつ高速なビデオメモリ「GDDR5 SDRAM」を搭載しているのが大きな特徴だ。

一方、Kaby LakeではCPUに統合されているグラフィックスプロセッサ(GPU)の性能も強化された。中でも大きくメスが入れられたのがビデオエンジンで、主に動画処理を行うメディアエンジンの機能向上が図られている。メディアエンジンでは、ビデオストリームの圧縮伸張を行うビデオコーデック「MFX(Multi-Format Codec)」、デ・インターレース処理や画質補正を行うビデオクオリティ処理エンジン「VQE(Video Quality Engine)」、動画の拡大縮小処理やイメージ変換を行うスケーラ&フォーマットコンバータ「SFC(Scaler and Format Converter)」などに改良が加えられている。MFXでは従来の8bit階調に加えて10bit階調の処理に対応し、10bit HEVC(H.265)のハードウェアデコード・エンコードに対応した。VQEでは同様に10bit階調および2012年に策定された広色域ガンマ(Rec.2020)に対応し、同時にHDRをSDRに変換する機能も追加されている。これらメディアエンジンの改良によってプロセッサ統合GPUのみでの4K/HDR動画の再生が可能となっているのだ。

グラフィック高負荷時

グラフィック軽負荷時

MacBook Proには外部GPUとプロセッサ統合GPUを負荷に応じて自動的に切り替える機能が備えられており、グラフィック処理が軽いときには外部GPUとビデオメモリが自動的にオフロードされて消費電力が低減される。

各Macに採用されているGPUの比較表。上半分はRadeon Proを外部GPUとして採用しているモデル。下半分はKaby Lakeプロセッサの統合GPUを使用しているモデル。両者間には性能に大きな隔たりがあることがわかる。