IT業界の最近のバズワードといえば、「AI」(人工知能)でしょう。ドメインの終わりに「.ai」を使う企業の数は増えており、AI関連の非上場企業への投資額は過去最多になる見込みだとか。そんなAIやロボットを使ったオートメーション(自動化)の普及にともなって聞こえてくるのが、「人間の仕事が代替されるのではないか」と危惧する声です。
自動運転車が街を駆け巡り、ファストフード店ではAIロボットがハンバーガーを調理し、3Dプリンタロボットが家を建てる未来。それはさほど遠いものではありません。自動運転車の開発にはメルセデス・ベンツやテスラ、グーグル関連企業のウェイモ(Waymo)などがこぞって取り組んでいますし、調理用のAIロボ、3Dプリンタロボはそれぞれ、ミソ・ロボティクス(Miso Robotics)社とMIT(マサチューセッツ工科大学)が開発中です。AI技術を用いたIBMの「ワトソン(Watson)」は、映画トレーラーの製作期間を従来の1カ月から24時間に短縮。AIは、いよいよクリエイティブな領域にも進出し、その勢いはとどまることを知りません。
2013年に発表されたオクスフォード大学の調査は、北米の全雇用(約700種類の職種)の47%が自動化の危機にあると指摘。最近も、2032年までの15年間で、北米の雇用の約40%が自動化されるという調査結果が発表されました。その他の先進国の比率は、ドイツが35%、イギリスは30%、日本は21%という結果に。AIやロボットによる仕事の代替率が北米で一番高いのは、書類の記入などのルーチンや単純作業が多いためだと分析しています。
日本の代替率が低い理由は、飲料水を含む自動販売機(北米では窃盗のリスクが高いため外に自動販売機はない)、ラーメン屋など回転率の高い飲食店が取り入れる食券販売機など、自動化が他国より進んでいること。また、接客業などサービス業全般においてそのクオリティが他国を上回るため、その分のトレーニングやスキルが必要。「やることは決まっているのだから、ロボットで置き換えればいい」という単純なやり方が当てはまらないとしています。
確かに、これまでは自動化に脅かされるのはルーチン仕事だというのが定説でした。ところが最近は、管理職など人をまとめる仕事を除いては、どんな仕事も自動化に無縁ではないという見方が広まっています。パターンを導き出せるだけの膨大なデータさえあれば、単純作業だけでなくあらゆる仕事を機械に任せられるからです。すでにがん患者の治療プランを作成するために、医学雑誌や患者の診察データをAIに学習させるようなことが起きています。
また、生身の人間でなければ難しいと思われる分野でも、AIを活用したソリューションが登場しはじめました。たとえば、ニュージーランド発の「ソウルマシーンズ(Soul Machines)」は、カスタマーサービス専用のチャットボット(自動会話プログラム)を開発。画面に映し出される相手は、人と間違えてしまうほどリアルです。頭ではロボットだとわかっていても、コロコロ変わるその表情を見ていると、まるで人と話しているように錯覚するから不思議です。
「The Future of Jobs」というレポートは、2020年までに、今重要だとされている労働スキルの3分の1が置き換わるだろうと予測しています。2015年時点で評価されていた「交渉力」や「柔軟性」以上に求められるのが、「クリエイティビティ」です。
ここでいうクリエイティビティは、専門的なデザイン能力や表現能力のことではなく、「自分の仕事を自分で作り出す」力のこと。言われたことをそのまま実行するだけならロボットに任せればいい。仕事をロボットと対抗する時代だからこそ、相手のニーズを汲み取り先回りして対処する能力、そして姿勢はいっそう重要性を増すでしょう。
Yukari Mitsuhashi
米国LA在住のライター。ITベンチャーを経て2010年に独立し、国内外のIT企業を取材する。ニューズウィーク日本版やIT系メディアなどで執筆。映画「ソーシャル・ネットワーク」の字幕監修にも携わる。【URL】http://www.techdoll.jp