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Mac Fanとともに歩んだ33年。創刊からアートディレクターを務めたデザイナー・米谷テツヤ氏インタビュー。雑誌デザインの真髄と今後

著者: 牧野武文

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Mac Fanとともに歩んだ33年。創刊からアートディレクターを務めたデザイナー・米谷テツヤ氏インタビュー。雑誌デザインの真髄と今後

写真●黒田彰

Mac Fan本誌の読者であれば、「米谷テツヤという名前を何度も見ているはずだ。奥付けを見れば、1993年4月の創刊号からずっと、「カバーディレクター」「アートディレクター」の欄に米谷テツヤ氏の名前があり続けた。ほかのクレジットが時代とともに入れ替わる中、もっとも長くMac Fanを見てきた人だと言える。

※この記事は『Mac Fan 2026年5月号』に掲載されたものです。

エディトリアルデザインとは何か。米谷氏が語るその真髄

米谷氏の肩書はさまざまあるが、中心となるのはエディトリアルデザイナーだ。しかし、そもそもエディトリアルデザインとは何をする仕事なのだろうか。

「どういうことをしているんでしょうねえ…改めて聞かれるとよくわからない(笑)」

その仕事を教科書的に説明すると、誌面の設計図を作り、組み立てる専門家ということになる。本文のフォントに何を使うか、大きさはどうするのか、余白はどうするのか、そういったことを決めていく。

「僕の仕事は読みやすくすることですね。それ以外にはないと思う。Mac Fanは実用的な雑誌ですから、読んでわからなければダメなんで、いかに読みやすくするかがすべて。読者に読んでもらえないとお話にならないんです」

1989年、デザイン事務所PASSを設立。雑誌、書籍のエディトリアルデザイン、装丁を数多く手がける。デザイン界ではバイブルとされる『ノンデザイナーズ・デザインブック』の日本語版では、監訳・解説を担当するだけでなく、タイポグラフィデザインを日本向けにローカライズする作業も担当。紙とデジタルの両方で、エディトリアルデザインの基本原則を広めることに大きく貢献した。




時代とともに変化してきたMac Fanのフォントサイズ

たとえば、数年前から本誌の本文フォントはやや大きくなっている。これも米谷氏の仕事だ。

「以前は本文のフォントサイズは12級でしたけど、数年前から13・5級や14級とやや大きくしています。読者層や読まれ方の変化を鑑みてのことです。iPhoneやiPadなど、電子端末でMac Fanを読む人も増えていましたしね」

Mac Fanの紙面は約21×28センチメートル(A4変形版)。一方、iPad(11インチ)のディスプレイは約16・5×21・5センチメートルと小さい。紙面を全面表示した場合、かなり縮小されてしまう。もちろん必要な部分だけ拡大して読むこともできるが、それでは雑誌を読む体験としては快適と言えない。iPadで全面表示をしても読めるように、と本文のフォントサイズを大きくしたわけだ。

こういった読者があまり気づかない部分で、読書体験を作っていくのが米谷氏の仕事である。

都内某所に事務所を構える。デザインワークに使用しているのは、Mac ProとMac miniだ。

米谷氏がデザイナーになるまで。憧れた「rock magazine」の世界

米谷氏は兵庫県西宮市出身。元々はイラストレーターになろうと考え、デザイン系の専門学校に通っていた。米谷氏には忘れられない雑誌がある。関西地区で発行されていた音楽雑誌「rock magazine」だ。今日では、パンクロックをはじめて日本に紹介した音楽雑誌として伝説になっている。

「もうね、マニアックすぎて大好きでした。当時から、ノイズミュージックを取り上げたりしてましたからね。ピーとかガーとかいうあの雑音です。そんな雑誌売れるわけないじゃないですか(笑)」

rock magazineが好きすぎるあまり、米谷氏は自分で描いたイラストを持参し、編集部を訪ねた。いわゆる持ち込みだ。すると、応対してくれた編集者はイラストの評価はせず「忙しいからちょっと手伝って!」と言う。その流れのまま、米谷氏は生まれてはじめての版下制作(DTPのない時代の誌面の原版作成作業)を経験した。

「とにかく忙しくて、そのまま数日寝かせてもらえなかったくらいです。でも、それがめちゃめちゃ楽しかった。だって、本物のrock magazineを僕が作っているんですよ」

スピッツ、布袋寅泰、GLAYのTAKURO、EXILEのATSUSHI、SID、水樹奈々、北野武など、日本を代表するアーティストや著名人のエッセイの装丁も手がけてきた。




DTP時代へのベット。総額600万円でMacintosh Ⅱ ciを購入

雑誌制作の面白さにハマった米谷氏は、専門学校を卒業後、デザイン会社に入社した。しかし、その仕事にあまりピンとこなかったようだ。そして一大決心をする。会社を辞めてフリーランスのエディトリアルデザイナーになろうと心に決め、東京に出てきたのだ。「東京には出版社がたくさんあるからなんとかなる」と、大きな冒険に踏み出した。

さらに、米谷氏は無謀なことをする。当時、雑誌や書籍の原版作りは活字印刷から写真植字へと移り変わっており、さらにはDTP(Desktop Publishing)が制作の一部に活用されつつあった。そこで米谷氏は、Macintosh Ⅱciを中心にして、レーザープリンタなど、DTP制作をするのに必要な機器とソフトウェアを買い揃えた。画材店の「いづみや」で、なんと総額600万。10年ローンを組んだ。ちなみに、この「いづみや」というのは現在の株式会社Tooのことである。

しかし現実はそう甘くはなかった。

「A4サイズの写真にPhotoshopでフィルタをかけようと思ったら、2時間とか3時間とか、余裕でかかっていましたね。プリントアウトなんかもものすごく時間がかかります。夜に出力して、翌朝確認する感じです。しかも、朝見てみたらポストスクリプトエラーが出ている。そんなことばかりで、もう泣きたくなってましたよ」

Mac Fanとの出会い。写真植字の技術と美しい組版の関連性

それでもデザインができてDTPまでできるということで、少しずつ仕事が増えていったという。そしてその仕事の中に、マイナビ出版の前身である毎日コミュニケーションズから受けていた入社案内のDTP作業があった。

そして1993年、毎日コミュニケーションズがMacの専門誌「Mac Fan」の創刊準備を進めており、しかも全編DTPにするという話を耳にした。しかし、すでにデザイナーは別の人に決まっていたのだという。だが、米谷氏が滝口直樹創刊編集長と別件で話をしているとき、滝口氏が「ちょっと見てもらえないかな」と言ってデザインシートを見せてきた。それがMac Fanのデザインシートだった。

「ひと目見て、全然ダメだったんです。背景事情はわかりませんが、とにかくひどかった。おそらくですけど、DTPしか知らない人がデザインまで担当していていたんじゃないかなと思います。やっぱり写真植字の技術を知らないと、美しい組版の基本がわからないんですよね。DTPにはDTPの美しさがあるのかもしれませんが、読者が紙の雑誌を開いて見る、というのは同じですから」

そんな話をしていると、滝口氏が「じゃあ米谷くん、やってよ!」と言った。これが米谷氏とMac Fanの33年の付き合いの始まりである。

33年に渡り、刊行されてきたMac Fanは500冊以上。米谷氏はそのすべてのデザインを手がけてきた。




紙(エディトリアル)とWebの違い。知識、経験、仕事のリズム

この度、Mac Fanは紙での定期刊行を終了し、軸足をWeb「Mac Fan Portal」に置く。米谷氏はMac Fan Portalでもデザイナーとして力を貸してくれるのだろうか。そう思い聞いてみた。

「ごめんなさい、僕にはできないんですよ。Webとエディトリアルって似ているようで全然違うんです。僕たちは印刷に関する知識が必要で、それが基本になっています。でも、WebはHTMLとかが基本の知識になりますよね。依って立つところがまったく違う。僕はWebはほとんどやってきませんでしたし、できないと思っています」

また、仕事のリズムにも違いを感じるという。紙の雑誌、単行本は完成させて書店に並べる。「あそこはこうしたかった」と後悔しても、もう取り返しがつかない。そういう厳しさがある。

一方Webであれば、直そうと思えばいつでも直せるので終わりがない。一つの仕事が無限に続くわけだ。ここが米谷さんのリズムに合わないと話す。

「区切りがつかない仕事は苦手なんです。振り返るのも嫌いだし。これからしばらくの間は、のんびりと酒を飲みたいですね。まあ、いろいろなことに興味は持つとは思いますよ。でも、僕の場合は映画を観ながら酒を飲むとか、音楽を聴きながら酒を飲むとか、何をするのでも酒がついてくるんです。ですから、これからは酒を飲むことになると思います。酒以外に何をするかは、酒でも飲みながらじっくり考えます(笑)」。

ご本人はそう否定しているものの、今後Mac Fan Portalで米谷氏の名前を見かけることは出てくるはずだ。しかしここはひとまず…米谷テツヤさん、33年間お疲れ様でした!

事務所内には、米谷氏がデザインを手がけてきた書籍、そしてMac Fanを筆頭とした雑誌などがズラリと並ぶ。小説、エッセイ、ハウツー本、学習教材と、そのジャンルもさまざまだ。書籍は特に、棚差ししたときに目に留まる背のデザインも重要だと米谷氏は語る。

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著者プロフィール

牧野武文

牧野武文

フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。

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