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Appleが“過去最高売上”を記録。世界中で問題を抱えているのになぜ? その要因は、iPhone 16 Proシリーズの好調・圧倒的な販売額シェア・サービスの成長の3本柱

著者: 牧野武文

Appleが“過去最高売上”を記録。世界中で問題を抱えているのになぜ? その要因は、iPhone 16 Proシリーズの好調・圧倒的な販売額シェア・サービスの成長の3本柱

2024年、Appleの決算は絶好調だった。

Appleは世界各地で難題に直面している。それでも、2024年12月には四半期ベースでの過去最高売上を記録した。企業の業績は絶好調なのだ。

その理由は高価格帯のProシリーズが好評であること、そして利益率の高いサービス事業が伸びていることにある。

業績好調のApple。2024年の売上は、通年でも過去最高の2022年に迫る勢い。…だがなぜ?

Appleの決算が好調だ。中国市場での不振が報じられる中、2024年12月期(2025Q1)では、四半期ベースで過去最高の売上を達成した。また、2024年度通年でも、3910.4億ドルの売上となり、過去最高の2022年の3943.3億ドルに迫る勢いだ。

Appleの2024年12月期(2025Q1)の売上高は1243億ドルとなり、過去最高となった。Apple四半期報告書より作成。
年ごとの業績でも3910.4億ドル(約58.9兆円)の売上となり、過去最高の2022年に迫る勢いだ。Apple年度報告書より作成。

なお、中国市場での不振を含めたAppleが抱える“問題”については、別記事「iPhoneが販売禁止、返品多発、そして反トラスト法違反で提訴…。2025年のAppleは“前途多難”。世界各国で問題が山積み」にまとめている。

該当記事はコチラから。

なぜ、「iPhoneの売上は頭打ち」「MacとiPadの売り上げ減少」」「Vision Proの不発」とさまざまな問題を抱えながら、Appleは過去最高水準の売上を達成できたのだろうか。

その理由は3つある。

Appleの業績が好調な理由(1):iPhoneの“Proシリーズ”の成功

Proシリーズの動画撮影性能がヒット

iPhoneのProシリーズは、確実に成功している。中国ではiPhoneの販売が不調だが、Proシリーズは売れている。中国メディア「中関村オンライン」の報道によると、2024年第4四半期のiPhone 16の機種別販売台数の統計では、Proシリーズが80%を超えるという異常事態だ。

中国市場における、iPhone 16シリーズの販売数の割合。中国市場でiPhoneの販売は不調だが、iPhone Proシリーズは売れている。そのため、Proシリーズの割合が82.5%になるという異常事態になっている。「中関村オンライン」の報道より作成。

中国では、Proシリーズの動画撮影性能が高く評価されている。ライブコマース、SNSでの動画による情報発信が盛んなため、多くの企業が動画撮影チームを置いている。

また、個人でも副業としてSNSで情報を発信し、商品を販売する人は多い。そして、その多くがiPhone 16 Proシリーズか、DJIのポケットジンバルカメラ「Osmo Pocket」を使用している。iPhone 16 Proはスマートフォンというより、撮影機材として人気があるのだ。

iPhone 14 Pro、15 Proの人気も継続

また、関係者によると、型落ちのiPhone 14 ProやiPhone 15 Proシリーズへの需要も強い。そのためProシリーズに限れば、iPhoneは確実に販売台数を伸ばしているという。

つまり、中国で「iPhoneが売れない」という話の実態は、バッテリ周りの性能で遅れをとったiPhone 16およびiPhone 16 Plusの販売台数が急落したということなのだ。

この傾向は世界的にも共通している。世界市場での機種別割合を調査したCIRP(Consumer Intelligence Research Partners)によると、Proシリーズの割合が47%にも達した。

世界市場における、iPhone 16の機種別割合。世界市場でもProシリーズの割合が47%となっている。iPhoneのProシリーズは、消費者に受け入れられているのだ。CIRPのデータより作成。

iPhoneのProシリーズは意外と“買い求めやすい”

高額な機種であるがゆえに、Proシリーズはリセールバリューも高い。2年ごとに売却し、新機種に交換をしても、その差額は意外に小さい。

iPhone買取価格推移」で、iPhone 14、iPhone 14 Pro Maxの2025年2月16日時点での買取価格を調べ、発売時の販売価格との差を計算すると、iPhone 14は6万752円、iPhone 14 Pro Maxは6万9371円となり、その差は8000円強しかない。

2年ごとに新機種に交換をしていくのであれば、ほぼ同程度の負担で使うことができる。iPhoneのProシリーズは、意外に買い求めやすい価格設定なのだ。

Appleの業績が好調な理由(2):圧倒的な“販売額シェア”

Counterpointの2024年の世界市場でのシェア調査では、Appleは18%。かろうじて1位を維持したが、第2位のSamsungとの差はわずかだ。

ところがこれは販売台数シェアであり、販売額シェアで見ると、Appleは46%で圧倒的な1位である。平均販売単価も、903ドル(約13万6000円)と圧倒的だ。2位のSamsungはエントリーモデルも多数販売をしているため、15%でしかない。

いわゆるハイエンド機と呼ばれるのは、AppleのほかにSamsung、HUAWEI、Xiaomiなどがある。さらにはOPPOやVivoもハイエンド機に果敢に挑戦している。しかし、“ハイエンドブランド”と呼べるのはAppleだけなのだ。

iPhone販売台数シェア(最下部のグラフ)は、18%でかろうじて1位。しかし、販売額シェア(最上部のグラフ)では46%で圧倒的な1位だ。また、平均客単価(中央のグラフ)も903ドル(約13万6000円)で、ハイエンドブランドと呼べるのはAppleだけという状態である。Proシリーズの成功によるものだ。引用元●Counterpoint

Appleの業績が好調な理由(3):粗利率の高いサービス事業が好調

Appleは、製品、サービスともに驚異的な粗利率を実現

Appleの売上は、iPhoneやMacといった製品のほか、App StoreやApple TVといったサービスの2つからなっている。製品の売上は2021年に大きく伸びた(M1チップによる貢献)が、その後はジリジリと減少している。しかし、それを補うようにサービスの売上が伸びているのだ。

Appleの製品売上とサービス売上の変化。製品売上は2022年から頭打ちになっているが、その分サービス売上が増えている。Apple年度報告書より作成。

しかも、製品の粗利率(売上ー原価)も高い。製品では37%程度だが、サービスでは70%を超える。この、粗利率の高いカテゴリが成長している、という点は非常に大きい。そもそも、製品の粗利率37%というのも驚異的だ。通常の製造業では25%に達すれば優秀といわれる。

Appleの製品とサービス、それぞれの粗利率(売上から原価を引いた利益の割合)の変化。製品の粗利率は頭打ちだが、サービスの粗利率は高く、しかも上昇している。サービス売上が伸びていることで、Appleの財務状況は改善しているわけだ。Apple年度報告書より作成。

綿密に整備されたサプライチェーンと物流

粗利率は部品代、製造代の原価のほか、店舗までの配送物流にかかる費用も考慮される。Appleは、この配送物流を効率化し、粗利率を上げることに成功している。米国の調査会社ガートナーの「サプライチェーン・トップ25」ランキングでは、2008年から2013年まで、連続6年Appleが1位に選ばれているほどだ。

Appleには倉庫と呼べる施設がないといわれる。サプライチェーンが効率化され、必要な分だけを製造し、国際物流で店舗へ配送をする体制が整っている。そのため、宅配企業の集積センターや店舗などで十分吸収でき、倉庫を作ってまで大量の在庫を持っておく必要がない。

Appleが毎年9月に新型iPhoneなどを発表するのも、物流との関係が大きい。発表日を恒例化することで、9月から10月、物流企業がAppleのために国際貨物便などを空けて準備できるのだ。

そのため、他社がAppleに対抗して同時期に新製品を発表しても、物流の確保が極めて難しい。結果、9月はAppleだけが新製品を発表することになり、マーケティング面での優位性も出ている。

このようなサプライチェーンを構築していったのは、COO時代のティム・クックだ。スティーブ・ジョブズのあとを継いだのも当然だと、誰もが納得している。

スティーブ・ジョブズからティム・クックへ。バトンを受け取り大きく飛躍したが、次なる課題も存在する

ティム・クックCEOは、数々の問題に直面しながら売上の最高記録を更新した。スティーブ・ジョブズ前CEOのようにテクノロジー志向の人ではないことから、ことあるごとに「ジョブズ亡きあとのAppleは…」と言われがちだ。しかし、企業経営者としては歴史に残る偉業を成し遂げた人だといえる。

しかし現在のAppleは、「次のデバイス」を提案できていないという最大の課題を抱えている。Vision Proの空間コンピューティングは非常に魅力的だが、その価格もあり、製品として成功したとは言い難い。

これをどのように軌道に乗せていくのか、あるいはまた別の「次のデバイス」が登場するのか。そして、Apple Intelligenceで、AIをどのように社会に浸透させるのか。2030年までに全製品でカーボン・ニュートラルを達成するという、無謀ともいえる挑戦は成功するのか。ティム・クックCEOの仕事はまだまだたくさんある。

ジョブズはデバイスを育て、クックはブランドを育てる。そんなバトンタッチをしたのかもしれない。

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著者プロフィール

牧野武文

牧野武文

フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。

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