※この記事は『Mac Fan 2019年9月号』に掲載されたものです。
シリコンバレーのIT企業では、面接試験のときに難問奇問が出題される。そのため、一部ネットで拡散されたり、書籍になってパズルとして楽しまれることもある。
また、就活サイト「Glassdoor」には、実際に面接を受けた人が問題を投稿し、情報交換がされているようだ。Appleでは、いったいどのような難問奇問が出題されるのだろうか。これが今回の疑問だ。
Appleの入社試験で聞かれる質問は? 就活ポータルサイト「Glassdoor」で調べてみる
時折り、IT企業の入社試験問題が話題になる。その中でももっともよく知られているのはMicrosoftの入社試験問題で、「富士山を移動させるにはどのくらい時間がかかるのか?」だ。さまざまな人がブログなどで試算しているが、正解があるというわけではない。考えていく思考プロセスを説明することが重要で、面接官はそこを評価する。概算見積を手際よくできる能力があるかどうかを見ているのだ。
では、Appleはどのような入社試験問題を出し、どのような人材を求めているのだろうか。
これを知るには、米国の就活ポータルサイトの「Glassdoor」が参考になる。実際に企業の面接試験を受けた人が、どんな問題が出題されたかを投稿しているほか、どのくらいの給料をもらえることになったか、面接試験の印象はどうだったかなども情報交換している。どこまで正確なのかは割り引いて考える必要があるものの、米国で仕事を探したい人には役立つサイトだ。
平均年収は約13万ドル。主要IT企業の中でも高給取りなAppleのソフトウェアエンジニア
Glassdoorによると、Appleのソフトウェアエンジニアの平均年収は13万3612ドル(約1450万円)。米国の主要IT企業の中ではまずまず高いほうだ。また、Apple Storeのスペシャリストや「Genius」の時給も掲載されていて、それぞれ平均時給は17ドルと23ドルになっている。
Glassdoorには、利用者が各社の面接を評価したデータも掲載されている。主要IT企業のこの評価を比べてみると、Appleはほかの企業よりも評価が高い。ポジティブと評価した人が72%もいる。
また、Appleの場合はほかの企業に比べてネットからの応募が多いこともわかる。75%がネット応募で17%が従業員の紹介だ。一方、Microsoftは学校でのリクルート活動、Googleは従業員の紹介、facebookやAmazonはリクルート活動の率が高い。この統計にはApple Storeのスタッフの募集も一緒になっている可能性があるが、Appleはリクルート活動やエージェントを使った募集にはあまり積極的ではなさそうだ。
「あなたが使っているApple製品は?」「今日のAppleの株価は?」“Apple愛”を試される質問
では、Appleの面接ではどのような問題が出されるのか。Glassdoorに投稿された内容からいくつか紹介していこう。まず、いかにもAppleらしい質問から。
「今日、ここに何を持ってきましたか?」
iPhoneやiPad、Macと答えるのが正しい答えに違いない。もしここで、Chromebookなどと答えたら、その時点で面接は打ち切られるのだろうか。このほか、「あなたが使っているApple製品は何ですか?」「今日のAppleの株価はいくらですか?」などという質問もある。
やや子ども染みた質問に感じるかもしれないが、これは「Apple愛」を試している。当然、Appleへ入社するにはApple製品に対する愛情が普通よりは高くなければならないからだ。ほかの企業でも、自社製品に対する関心度を確かめるような質問をされるようだが、ここまで強いのはAppleならではと言える。
Appleが出題した“IT企業特有”の奇問。重視されているのは、回答よりも思考プロセス
Appleでも、IT企業特有の難問奇問が面接で出題される。
「テーブルの上に100枚のコインがあります。10枚が表になり、90枚が裏になっています。ただし、表か裏かを確かめる手段はありません。表を向いたコインの数が同じになるように、2つの山に分割するにはどうしたらいいですか?コインの裏表をひっくり返す操作は自由に行えます」
「卵が2つしかありません。ビルから落として、卵を割らずに落とすことができる最上階を知りたいのですが、どのようにすればいいでしょうか?」
「3つの箱があり、1つにはリンゴ、1つにはオレンジが入っていて、もう1つの箱にはリンゴかオレンジのいずれかが入っています。それぞれの箱には内容を示すラベルが貼られていますが、どれも間違っています。1つだけ箱を開けて、残りの箱の果物を当てることができますか?」
「あなたは朝7時に山を登り始め頂上に着きました。翌日、朝7時に同じ道を下山しました。同じ時間に同じ地点にいたことはあり得るでしょうか?」
このような問題は難問奇問としてネットなどでも紹介され拡散されやすいが、個人的にはあまりいい問題だとは思わない。いずれも有名な論理パズルであり、ネットで簡単に解答を見つけることができる。面接官は、このような問題を出して正解を聞きたいわけではなく、その人がどのような思考プロセスで解答にたどり着こうとするかを見たいのだ。
中には、答えを知っているのに、知らないふりをして、その場の試行錯誤で正解にたどり着く演技をする人も出てきてしまうだろう。Glassdoorでも、このような論理パズル的な質問の報告は多くなく、いずれも「例のやつが出たよ!」というニュアンスで報告されている。
Appleらしい、発想や性格、知識や表現力を試す質問も
一方で、シンプルで非常にいい問題だと感心させられるものも多くある。
●5歳の子どもに、RAMとは何かを理解させてください
●ここにペン立てがあります(実際に渡す)。このペンをあなたの基準で分類してください
●車のガソリン残量を測定する方法を5種類述べてください
●冷蔵庫の中に、熱いコーヒーと冷たいミルクを入れました。どの段階で混ぜると一番おいしいカフェオレになりますか?
いずれも素晴らしい質問だ。正解がないだけにその人の発想や性格を知ることができ、知識や表現力まで試すことができる。また、人間性についても、Appleは素晴らしい質問が多い。
●誰かがあなたを激怒させたときのことを教えてください。あなたはそれにどう対応しましたか?
●あなたが上司の命令に従わなかったときのことを教えてください。今から見て、その行動をどう評価していますか?
●この4年間で、最高に楽しかった1日はいつですか?
●Appleに入社したら、あなたは自分をどう変えますか?
●今日、あなたはここに何をしに来ましたか?
たとえば、最後の質問は「面接をしに来ているんですが…」という答えはその通りなのだが、そういう答えをする人と一緒に働きたくないとAppleは判断するに違いない。コミュニケーションは相手が求めていることを察知し、それを念頭に置きながら自分の考えを伝えることが大切だからだ。
Appleの面接試験問題をいくつか見てきたが、採用関係の仕事をしている人にはかなり参考になるのではないだろうか。また、転職を考えている人にとっても、このような質問が実際に出されるかどうかは別として、想定問答を考えておくと、自分が何のために転職をして、何のために働くのかが明確になっていくのではないかと思う。
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著者プロフィール
牧野武文
フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。