※この記事は『Mac Fan 2019年10月号』に掲載されたものです。
iPhoneのコントロールセンターからWi−Fiをオフにすると、「明日まで近くのWi−Fiとの接続を解除します」というメッセージが表示される。しかし、わずか数十分後に別のWi−Fiに自動接続を試みようとすることがある。
なぜ「明日まで解除」なのに、すぐにまた自動接続してしまうのだろうか。これが今回の疑問だ。
iPhoneあるある。使えないのにつながってしまうフリーWi−Fi
Appleユーザにとって、公衆無線LAN(パブリックWi−Fi、フリーWi−Fi)は鬼門だ。iPhoneを使おうとすると、なぜかまったく通信ができない状態になってしまうことがあり、よく見るとどこかのフリーWi−Fiをつかんでいる。
iPhoneは、モバイル通信よりもWi−Fiを優先する仕組みだ。しかし、そのフリーWi−Fiにはどうやっても「接続が確立」できず、挙げ句の果てに「セキュリティ保護されていないネットワーク」などと言われてしまう。iPhoneユーザにとって「あるある」話になっていると思う。
そこで誰もがコントロールセンターを表示して、Wi−Fiアイコンをタップしてみる。すると、「明日まで近くのWi−Fiとの接続を解除します」というメッセージが表示され、Wi−Fiがオフになり、再びモバイル通信でアクセスができるようになる。
ところが、「明日まで」と言っていたのに、しばらくするとなぜか再び別のフリーWi−Fiをつかんでしまう。そうならないよう、自宅やオフィスなどWi−Fiを使う場所を出るときにあらかじめWi−Fiをオフにし、帰ってきたら再びWi−Fiをオンにするのを習慣にしている人もいるのではないだろうか。
Wi-Fiの仕組み。セキュリティ不足のネットワークは使用を避けたい
なぜこんな面倒なことになっているのだろうか。これはiOS 10からWi−Fiのセキュリティが強化されて、暗号化されていないWi−Fi(SSIDリストで鍵マークがついていないもの)には警告を表示するか、あるいは接続を確立しないようになったからだ。しかし、電波はつかんでいるため、モバイル通信よりも優先され、ネットが利用できない状態になってしまう。
これはAppleのお節介ではなく、ありがたい親切だ。暗号化されていないWi−Fiだけではなく、WEP(Wired Equivalent Privacy)方式の暗号化がされているWi−Fiも接続できない。なぜなら、WEPは脆弱性が発見され、ネットで拾えるツールを使って暗号を簡単に解読できてしまうからだ。
Wi−Fiというのは、いわば電波で放送をするようなもので、そのアクセスポイントを使っている全員分のデータが放射される。iPhoneはこの中から他人の分を捨てて自分の分だけを拾い、暗号化を解除して通信をしている。特殊なツールを使って全員分のデータを受信することも難しくはない。暗号化をしていないWi−Fiであればそのまま中身を見ることができるし、WEP方式であればツールを使って簡単に暗号化を解除できる。
フリーWi-Fiには要注意。WPS方式かどうか、使う前に確認しよう
強固な暗号化をしていたとしてもフリーWi−Fiは安心できない。たとえば、喫茶店などで「SSIDとパスワード」が掲示してあって、それを利用できるようにしているところは多い。しかし、そのWi−Fiを使っている人は全員同じパスワードを使っていることになる。
このパスワードは、正確にはパスワードではなく暗号解除キーのことだ。よって、いくら強固な暗号化がされていても、暗号解除キーが知られているのだから、暗号解除するのは簡単なことだ。このため、パブリックWi−Fiでは、業務関連の通信やカード情報、ログイン情報などをやりとりしてはいけないと言われている。
このような問題を解決するため、現在ではWPA(Wi-Fi Protected Access)と呼ばれる方式が使われるようになった。より強固な暗号方式が採用されているだけでなく、一定時間ごとに暗号解除キーを個別に送信をして自動的に変更をしていく。つまり、同じWi−Fiを使っていても、最初は同じでも、以降はそれぞれ別の暗号解除キーを使う。これを盗聴するのは簡単ではない。iOSはこのようなセキュリティ保護されているWi−Fiだけに接続をする仕様になっているのだ。
“明日まで…”は「明日の午前5時まで」。“近くの…”は「この近くの」という意味
結論としては、世の中のフリーWi−FiがすべてWPA方式を採用してくれればいいのだが、なかなかそうはいかない。そのため、私たちiOSユーザにとってはセキュリティ保護されていないフリーWi−Fiが邪魔な存在になっている。
このようなときは、コントロールセンターからWi−Fiアイコンをタップして、「明日まで近くのWi−Fiとの接続を解除します」をしておくのが正しい。
しかし、この「明日まで…」の文言は、やや言葉足らずだ。「明日まで」というのは次の午前5時までのこと。そして「近くの」というのは「この近くの」「この付近の」の意味だ。つまり、場所を移動すると、自動的にWi−Fiはオンに戻る。
だから、再びセキュリティ保護されていないWi−Fiをつかんでしまうことがある。iPhoneは一度接続したWi−Fiを接続が確立していなくても記憶してしまい、自動的に接続しようとするからだ。この煩わしさを防ぐには、接続した履歴を「設定」アプリから削除すればいいのだが、iPhoneではこの履歴は全削除しかできない。
“危ないWi−Fi”は接続履歴を削除しよう。Macの「システム設定」からの操作が簡単です
そこでMacの登場だ。もちろん、同じApple IDでアイクラウド共有をしていることが前提だが、Macの「システム環境設定」→[ネットワーク]→[Wi−Fi]→[詳細]と選んでいくと、接続したWi−Fiの履歴、しかもMacだけでなく、iPhoneなどが接続したものもまとめて表示される。しかも、ありがたいことに「セキュリティ」も確認可能だ。接続してはいけないのは、これが「なし」「WEP」になっているWi−Fiである。ここで個別に「自動接続」をオフにするか、削除しよう。iPhoneの履歴にも同期されるので、自動接続しようとしなくなる。
削除する前に、この履歴をよく観察していただきたい。有名な大手企業が運営しているフリーWi−Fiであっても、セキュリティが「なし」「WEP」になっている例がかなりある。これはiPhoneからは利用できないWi−Fiであるし、万が一接続できたとしても利用することはおすすめできない。
日本の都市は、インバウンド対策のひとつとしてフリーWi−Fiの整備を進めているが、結構な割合でセキュリティ保護がなされていない。海外に向かって「日本はWi−Fiが充実している」とあまりに宣伝してしまうと、来日したiPhoneユーザは接続できるWi−Fiが見つからずに困惑をすることになるのではないだろうか。いっそのこと、「Wi−Fiセキュリティ環境はプアなので、ローカルSIMかポケットWi−Fiのご準備を」と言われたほうがまだマシだ。
このようなセキュリティ保護がされていないフリーWi−Fiの運営者は、利用統計を取ってみれば、iOSユーザの利用率あるいは利用時間が異常に少ないことに気がつくはずだ。そうなれば、普通は原因を特定して対策をする。確かに、Wi−Fiルータをリプレイスするには費用がかかるが、ルータの暗号化設定を変えるだけ済むケースも多いはずだ。それとも、利用統計すら取ってみないほど放置されているのだろうか。だとしたら、運用面からも、そのフリーWi−Fiは絶対に利用してはいけない。
おすすめの記事
著者プロフィール
牧野武文
フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。