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AI機能を強化した「Claris FileMaker Pro 2024」が登場! ブラッド・フライターグCEOが見据える戦略とビジョン

著者: 栗原亮

AI機能を強化した「Claris FileMaker Pro 2024」が登場! ブラッド・フライターグCEOが見据える戦略とビジョン

2024年6月5日 、Claris Internationalはローコード開発プラットフォーム「Claris FileMaker 2024」の提供を開始しました。最新版では大規模言語モデル(LLM)を活用したセマンティック検索のサポートなどの機能強化が行われましたが、その背景にある戦略やビジョンについて、同社CEOのブラッド・フライターク氏に話を伺いました。

ブラッド・フライターグCEO
Roambi、Hyperion Solutions、IBMなどで上級管理者を歴任したのち、2013年にFileMaker(現Claris International)のワールドワイドセールス担当バイスプレジデントとして入社、2019年より同社CEOに就任。

深まるAppleとのパートナーシップ

──昨年11月のClaris Engage Japan 2023で来日された際にもお話をお伺いしましたが、その後Clarisのビジネスは堅調でしょうか。

はい。成長が私たちの使命です。利益を伴う成長がビジネスを長続きさせるための鍵だと考えており、この目的を達成し続けていることに励まされています。実際にFileMakerのお客様からも長期の契約をいただくなど、経済状況が良くなっているポジティブなサインを受け取っています。私たちも、さらなる研究開発やプラットフォームの改善に投資を続けられます。

──Appleとのパートナーシップも変わりありませんか。

Clarisにとって、Appleとのパートナーシップはもっとも重要な戦略的関係として位置づけられます。可能な限りコラボレーションを増やしていて、たとえば「ASM(Apple School Manager)」の連係や、Apple Developer Academyでの開発者トレーニング、共有データセンターの利用など多岐にわたっています。今年2月には、テキサス州オースティンにあるAppleのブリーフィングセンターでClaris Engageイベントを開催することもできました。

──今回発表された最新版の「Claris FileMaker Pro 2024」では、生成AIに関する新機能が搭載されました。その狙いや目指すところは何でしょうか。

私たちの開発者は長年にわたって構築されたデータベースを活用し、ビジネスにさらなる力をもたらすことを目指してきました。Appleの機械学習フレームワークである「Core ML」や、ChatGPTとの連携については以前から対応していましたが、今回のアップデートで大規模言語モデル(LLM)のさらなる活用を可能とすることで、多様なAI技術から新たな価値を生み出すための最速の道筋を提供できるようになったと考えています。

「Claris FileMaker Pro 2024」は通常版が6万9696円、アップグレード版および学生・教職員向けのアカデミック版が4万1800円と価格据え置きで提供されます。

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AIを安全に利用するためのアーキテクチャ

──現状では、生成AIのような画期的なテクノロジーの導入にリスクを感じている企業も多くあります。Clarisとしては、AIのリスク管理についてどのようにお考えですか。

多くの企業がAIの採用に慎重であることは理解していますし、その利用に伴うリスクに注意を払う理由もわかります。しかし、企業経営の観点ではAIの革新性を無視するような行動のほうがリスクが高いと考えています。私たちはAIを責任を持って展開する方法があると信じていて、正確な情報の提供やデータ漏えいのリスクが発生しないようにデバイス上でデータを保持するなど、さまざまな努力を続けています。

──たとえば、どのような考えに基づいてAIの安全性と信頼性を確保されていますか。

もともとFileMakerのアーキテクチャはハイブリッドが基本であり、クラウドを活用することに価値がある場合はクラウドで利用できますし、顧客がオンプレミスの閉じたネットワーク内で安全に管理するための方法も提供しています。このアーキテクチャの原則はLLMに対しても適用されていて、LLMの種類がオープンソースなのかプロプライエタリなのかを問わずサポートしています。また、LLMの処理コスト自体をリスクと考える場合に備え、ローカル環境で動作させて処理の負荷を軽減するための新しいスクリプトや関数も提供しています。

──AIによって仕事が奪われるといったような倫理的な課題についても議論があります。

それも理に叶った話のように思えますね。ただ、私たちは1970年代から80年代にかけて銀行にATMが導入されたときと同じような見方をしています。当時は多くの人々がATMによって銀行員の仕事が奪われるのではないかと心配していました。しかし、実際にはATMが日常的な取引を処理するようになったため、銀行員の働き方はより生産的になり、投資やローンなど、より高付加価値なサービスの提供に取り組むことができるようになりました。これらのことから私たちはAIは仕事を奪うものではなく、仕事を強化しビジネスプロセス全体を改善するテクノロジーだと見ています。

Claris FileMaker Pro 2024では、LLMで検索単語に含まれる文脈を解釈するセマンティック検索やWebビューアでの「WebRTC」のサポートなどの機能が強化されています。

ローコード開発がすべての組織に革新をもたらす

──以前、FileMakerシリーズはデータベースのプラットフォームにとどまらず、ローコード開発ツールとしての価値が高いとお聞きしました。「Claris FileMaker Pro 2024」でもその考えは変わりありませんか。

最近は多くのソフトウェア企業がローコード開発の素晴らしさについて話すようになったため、以前ほど顧客にとって魅力的な言葉に思えなくなっているかもしれません。そこで、私たちはFileMakerシリーズのことを「プロフェッショナルローコード」や「洗練されたローコード」と簡潔に表現し、さらに説明する余裕があれば、迅速なアプリケーション開発が可能になることや仕事環境におけるOSとして機能することをお話ししています。

──巷で騒がれる「IT人材の不足」を補完する存在となり得るのでしょうか。

FileMakerのプラットフォームで開発できるようになるために必要な学習曲線を見ると、そのほかのフルスタック開発環境と比べてはるかに短期間での成長が見られます。新しく使い始めた人も、早期に成功を収めることでフィードバックによる改善に取り組むことができるため、成長のためのサイクルを長期間にわたって続けることができます。

──開発を支えるコミュニティも充実していますね。

はい。FileMakerの開発コミュニティの幅は広く、人々の学習を支えるためのサポートは大変充実しています。たとえば、東京オフィスが提供しているさまざまなカリキュラムやレッスン、開発パートナーが提供しているトレーニングやオンラインで利用できるヘルプ資料などのすべてが、FileMakerの学習の旅を進める手助けになってくれるでしょう。

Clarisは世界各地で開発者コミュニティとの交流イベントが開催しています。昨年11月にはClaris Engage Japan 2023が日本で開催されました。

若いクリエイターを支援することが責務

──FileMakerシリーズに興味を持ったすべてのAppleユーザに対して伝えたいメッセージはありますか?

かつてスティーブ・ジョブズはAppleの理念を「知的自転車︎(Wheels for the mind)」と表現しました。私はFileMakerのビジョンもこれに一致すると考えています。現代のテクノロジーの大きなリスクのひとつに、アプリをダウンロードするだけで誰もが簡単に「消費者」になってしまうというものがあります。もちろんそれにも価値はあるでしょう。しかし、FileMakerが推進しているのは、データベースのロジックを正しく理解して一人ひとりが自らの課題を解決できる「クリエイター」の育成です。約20億人以上のユーザーがいるとされるAppleのコミュニティにおいて、このようなクリエイターの役割はますます重要なものとなっていくでしょう。

──次の世代のクリエイターの育成が重要と考えられているのですね。

FileMakerのプラットフォームは、次世代のクリエイターになるための学習体験をさまざまな形で提供しています。しかし、実際に自らの持つデータを活用して作業を自動化し、多くのシステムと関連づけていく方法についてのメンタルモデルを構築する体験に優るものはありません。このようなロジックの構築は経験によってのみ得られるもので、実際にキーボードに触れながら学習することで次のステップへ進むことができます。『Mac Fan』で主催している「Claris FileMaker 2023 アプリ開発選手権」も、若い学生の皆さんや次世代の開発者の才能を発掘するための重要な機会だと考えています。さまざまなアイデアや独創的なソリューションを見ることはとても楽しいですね。

Claris FileMaker 2023 アプリ開発選手権は、FileMakerを用いて作成したオリジナルのカスタムAppを募集するコンテストです。

著者プロフィール

栗原亮

栗原亮

1975年東京都日野市生まれ、日本大学大学院文学研究科修士課程修了(哲学)。 出版社勤務を経て、2002年よりフリーランスの編集者兼ライターとして活動を開始。 主にApple社のMac、iPhone、iPadに関する記事を各メディアで執筆。 本誌『Mac Fan』でも「MacBook裏メニュー」「Macの媚薬」などを連載中。

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