“変化しない”虹彩を活用する
人間の目は白目と呼ばれる表面の膜状の「強膜」と、黒目と呼ばれるレンズ状の「角膜」で構成されています。また、その角膜は中心部の「瞳孔」とそれを取り巻く「虹彩」からなります。虹彩は周りの明るさに合わせて瞳孔の大きさを調整する筋肉を備え、そこに含まれるメラニン色素やその量で瞳の色彩が決まるのです。
さらに、虹彩の模様は一人ひとり異なっていて、たとえ一卵性双生児でもあっても同じ虹彩のパターンを持つことはないとされています。また同一人物でも左右の目ではパターンが異なり、2歳以上の年齢になると生涯をとおしてほとんど変化しないという特徴があります。この唯一無二の虹彩模様を利用して生体認証を行うのが、Vision Proにも搭載される虹彩認証技術「Optic ID」です。
虹彩認証では、角膜を含む目全体を高解像度カメラで撮影し、そのイメージデータの中から虹彩部分のデータを抽出します。そして、そのデータに数学的処理を行うことでテンプレート(個人固有の特徴データ)を取り出し、そのテンプレートを使って個人の特定(認証)を行う仕組みです。
虹彩認証は、怪我や表面の状態などの影響を受ける指紋認証「Touch ID」や、顔認証「Face ID」などとは異なり、「生涯を通じて変化の少ない部位で行う」、「非接触で衛生面で優れた方式である」、「認証に要する時間が短い」、「誤認識率が極めて低い」といった複数のメリットを持っています。ただし、顔の向きや視線の方向、外来光など、環境の影響を受けやすいというデメリットもあります。
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ゴーグル型に最適な認証技術
虹彩認証は、Vision Proの登場以前にもさまざまな用途で利用されてきた技術です。たとえば、イギリスやシンガポール、アラブ首長国連邦などでは出入国管理に虹彩認証技術が使われています。
また、2015年には一部のAndroid搭載スマートフォンに虹彩認証を採用した製品も登場しましたが、そのいずれも現在は販売されていません。前述のような外的要因の影響を受けやすいデメリットは、さまざまなシーンで利用するスマートフォンには向かず、また認証に利用するセンサ類が高価なことなどが原因とされています。
一方、Vision Proは顔に直接装着するゴーグル型のデバイスなので、認証を行う際に周辺光など環境の影響をほとんど受けません。さらに、Vision Proには高精度なアイ・トラッキングを実現するためのセンサが多数搭載されており、それは虹彩認証で必要とされる条件を満たしています。このように、虹彩認証技術「Optic ID」はVision Proにとって最適な生体認証技術として採用されているのです。
※この記事は『Mac Fan』2024年5月6月合併号に掲載されたものです。