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GUIをもっとも早くから採用したMac。そのグラフィック環境の歴史と、GPUの登場がもたらしたもの。

著者: 今井隆

GUIをもっとも早くから採用したMac。そのグラフィック環境の歴史と、GPUの登場がもたらしたもの。

※本記事は『Mac Fan』2023年11月号に掲載されたものです。

– 読む前に覚えておきたい用語-

グラフィックアクセラレータdGPU(Discrete GPU)eGPU(External GPU)
グラフィック処理をCPUに代わって実行するチップのこと。QuickDrawやOpen GL、MetalなどのグラフィックAPIをドライバソフトウェアと連係しハードウェアで処理することで、より高速な描画処理の実行と、CPU負荷の大幅な低減を実現する。単体チップで提供されるGPUのこと。主にPCIe(PCI Express)を介してCPUに接続され、専用のビデオメモリを備える。一方、Intelプロセッサの統合グラフィックスや、Appleシリコンの内蔵GPUはiGPU(Integrated GPU)と呼ばれる。dGPUをパソコンに内蔵するのではなく、Thunderboltポートを介して外付け接続する方式。OSやソフトウェアからはPCIe接続のdGPUと同じに見えるのが大きな特徴で、とくにMacBookなどノート型パソコンのGPU性能を強化するのに有効。

Macのグラフィック技術の歴史

Macはその前身であるLisaを含め、もっとも早くからグラフィカル・ユーザ・インターフェイス(GUI)のOSを採用したパソコンである。当時の主流だったIBM PCを含むほとんどは、グラフィックを持たないか、持っていてもキャラクター・ユーザ・インターフェイス(CUI)のOSを採用していた。

グラフィック表示は1984年に登場した初代Macintoshのモノクロディスプレイ(512×342ピクセル/1ビット)ではじめて搭載されたが、CPUのみで処理するには荷が重いため、メモリの一部領域(ビデオメモリ)をディスプレイに表示する処理のためにグラフィックコントローラを搭載していた。しかしビデオメモリに描画を行うのは、長らくCPUの役割だった。

状況が変わったのは、1987年にリリースされたMacintosh IIだ。新たに採用した拡張スロット「NuBus」にグラフィックカードを搭載したことで、Macに初めてカラーグラフィックスがもたらされる。さらにTrueColorと呼ばれる24ビットカラーがサポートされ、モノクロ表示ではわずか22KBだったビデオメモリサイズが1MB以上に増大し、グラフィックの描画処理はCPUにとって大きな負担となった。

初期のMacintoshにはグラフィックアクセラレータは搭載されておらず、CPUが直接グラフィックを扱っていた。LC475の基板の一番右にはデュアルポートVRAM SIMMスロットが2基備えられ、その左にメインメモリが搭載されている。

そこで登場したのが、グラフィックアクセラレータと呼ばれるグラフィック描画専用チップと、それを搭載したグラフィックカードである。グラフィックアクセラレータはグラフィック処理を専門に行うコプロセッサで、macOSのグラフィックAPIであるQuickDrawをCPUに代わり処理することで、描画の高速化とCPU負荷の低減を実現するチップだ。同時期に、Apple純正のみならず、Radius、SuperMac、Raster Ops、Interwareなど、国内外各社からクイックドローアクセラレータカードが登場した。

1995年に入ると3Dゲームが各社からリリースされ、テクスチャ処理を実行する3Dグラフィックアクセラレータが登場する。MacでもATI 3D Rageを搭載するモデルが登場し、クイックドロー3Dもリリースされた。1999年にはDVD-ROMドライブを搭載したPowerMac G3(Blue & White)が登場し、DVDビデオ再生のためにMPEG2デコーダを搭載したATI Rage 128カードが採用される。

PowerMac G4 CubeのAGPスロットに搭載されたグラフィックアクセラレータ「Rage 128 Pro GL」カード。DVD-ROM搭載モデルが用意されており、Rage 128 Pro GLに内蔵されたMPEG2デコーダを使ったDVDビデオディスクの再生が可能だった。

“初”のGPU「NVIDIA GeForce 256」 の登場と、その画期的な進化

グラフィックアクセラレータが初めて「GPU」を名乗ったのは、1999年に登場したNVIDIAの「GeForce 256」で、パソコン用途向けでは初となるジオメトリ(ハードウェアT&L)エンジンを2基搭載した。従来CPUが担っていたジオメトリ処理(3Dオブジェクトの座標を2D座標に変換する処理)機能を搭載し、3Dグラフィック処理におけるCPU負荷を低減するのが特徴だ。しかもGeForce 256は、その処理を「アセンブラ」と呼ばれる言語でプログラムできた。

そして2007年、新しい時代を告げる画期的なGPUが登場する。NVIDIAが発表したGeForce 8シリーズ(G80)はGPU内部の演算ユニットを共通(ユニファイドシェーダ)化し、かつC++言語でプログラム可能な汎用並列プログラミングモデル「CUDA」をリリースした。これにより、GPUはグラフィック処理専用のコプロセッサから、汎用プロセッサへの一歩を踏み出した。

GPUの歴史は単純なディスプレイコントローラ(表示回路)から始まり、グラフィック処理に関するさまざまな機能が強化されてきた。GPUがプログラム可能になったことで、機械学習などグラフィック以外の用途にその威力が発揮されることになった。

自動運転や生成AIなど、グラフィック処理の枠を超えて活躍するGPU

もともとGPUは数千個におよぶ膨大な演算コアを搭載し、グラフィック処理という超並列演算を高速にこなすプロセッサだ。さらに、そのビデオメモリはCPUのメインメモリより1〜2世代先の高速エスジーラム(SGRAM)を256〜768ビットと広帯域で接続し、CPUの10倍近いメモリ帯域を持つ。つまり、データの並列処理という用途では、CPUによるSIMD演算処理の数倍から数十倍もの性能を発揮する。これをグラフィック処理以外の用途に活かそうというのがGPGPU技術だ。

当初、GPGPUは科学技術演算などのシミュレーションに用いられたが、2010年に入るとビッグデータや仮想通貨の処理に使われるようになり、2010年代後半には機械学習(ディープラーニング)処理に用いられるようになった。とくに自動運転や生成AIなどの分野ではGPUの高性能で高効率かつ低価格という特長を活かし、さまざまな用途で開発や実用化が進められた。NVIDIAはグラフィック用GPU「GeForce」および「Quadra」シリーズ以外に、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)向けの「Tesla」、自動運転機能を実現するための車載SoC「DRIVE Orin」なども提供している。

一方、グラフィック機能では2018年にNVIDIAからリリースされたGeForce RTXシリーズが、GPU初のリアルタイムレイトレーシングを実現した。レイトレーシングは光線追跡法とも呼ばれ、文字どおり視点から光線を追跡することで3Dグラフィックをレンダリングする。3D空間のすべてのオブジェクトに対して光の反射や屈折をシミュレートすることでリアリティに富んだグラフィックを実現できることから、従来より映画のCGなどで利用されてきた。

2018年に発表されたNVIDIA RTXによるリアルタイム・レイトレーシングのデモ。リアルな反射や透過をともなう複雑な形状のオブジェクトがパソコン上でリアルタイムかつスムースに動かせる時代が来たことに驚かされた。
写真:NVIDIA

しかし、その膨大な計算量から従来は主にスーパーコンピュータを使って制作されてきたが、GeForce RTXはこれをGPUのみでリアルタイム生成するのが最大の特徴だ。これによって、ゲームなどの画像のリアリティを大幅に向上させることに成功した。

Appleシリコンの登場とGPU戦略の転換点

AppleはPower PC世代の後期からIntelプロセッサ世代のMacにおいて、上位モデルを中心にATI(現AMD)やNVIDIAのdGPUを採用してきた。また、MacBookシリーズにThunderbolt接続できるeGPUをサポートした。この状況が一変するのは、2020年11月にリリースされたAppleシリコン搭載Macからだ。

総合映像機器メーカーBlackmagic Designは、AMD Radeon RXシリーズを搭載したeGPUシリーズをリリースし、Apple Storeなどで販売した。これをThunderboltポートに接続することで、GPU性能の強化と外部ディスプレイのさらなる増設が可能になった。
写真:Apple

Appleシリコンは従来のdGPUに匹敵する強力なGPUをその内部に統合する一方、dGPUやeGPUのサポートを打ち切った。こちらの記事では、Appleシリコンが社外GPUのサポートを廃止した真意に迫っていく。

著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

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