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第20話 病を治す医者、やり方を正す医者

著者: 三宅 琢

第20話 病を治す医者、やり方を正す医者

※本コラムは「Mac Fan 2022年4月号」に掲載されたものです。

私は産業医として、企業で働く人々に対し、業務上のコミュニケーション課題を解決するための助言から、パフォーマンスを低下させないためのスキル紹介まで、さまざまな悩みごとに関するアドバイスを行ってます。そうした日々の面談の中では、特異な脳を持つ優秀な働き手に遭遇することも珍しくありません。今回は彼らに教えると喜ばれる、とあるマニュアルを紹介します。以下は、「テクノロジーを活用した発達障害のある人の就労マニュアル」の冒頭に記載された松矢勝宏氏の言葉を抜粋したものです。 

高い能力をもっているにもかかわらず、学業や就労において十分に実力を発揮できない人びとがいます。アスペルガー症候群に代表される高機能自閉症、学習障害、注意欠陥/多動性障害など、発達障害のある方々にそのようなことが見られます。
このマニュアルは、企業に雇用されている発達障害のある方々の事例を収集しながら、わが国で工夫されてきた発達障害のある人の支援の方法と国際的な知見を活用して作成されました。企業における雇用管理者の皆さまのみならず、学校や職業能力開発機関・施設の支援者の皆さまにとって有用な参考書になれば幸甚と存じます

テクノロジーを活用した発達障害のある人の就労マニュアルより

本マニュアルの中では、注意欠陥で忘れっぽい人はスマホのリマインダーを活用したり、音が気になる聴覚過敏の人にはノイズキャンセルのヘッドフォンを勧めたりと、身の回りにあるテクノロジーを活用した、脳特性に合わせた業務上の困難さの軽減方法が紹介されています。

大切なことは「障害があるかどうか」ではなく、「困りごとに対する対処の方法を知っているかどうか」で働き方や学び方は大きく最適化されるということです。世の中には医療で治る病気もありますが、医療では治せない脳の特性もあります。私はこれらの特性に対して、無理に矯正するのではなく、特性を気にしなくて済む方法を紹介して、頑張らなくても働けるテクノロジーの活用法を教えています。

ちなみに、私の脳には重度の方向認識の障害と氏名記憶の障害があり、通い慣れた街でもすぐに迷ってしまったり、顔と名前が一致しないことは日常茶飯事です。しかし「マップ」アプリにより知らない街にも迷わず出掛けられるようになりましたし、現在は利用できなくなりましたがFacebookの顔認証によるタグ付け機能のおかげで、知り合いの顔と名前が一致するようになりました。私の障害は一向に治る気配はありませんが、今後の人生には大きな問題にはならなそうです。頑張るよりも「やり方を変える」という視点を持ってみるも悪くはないと思います。

好奇心のコンパスで、人生の旅をはじめよう。

著者プロフィール

三宅 琢

三宅 琢

医師・医学博士、眼科専門医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者。株式会社Studio Gift Hands 代表取締役。医師免許を持って活動するマルチフィールドコンサルタント。主な活動領域は、(1)iOS端末を用いた障害者への就労・就学支援、(2)企業の産業保健・ヘルスケア法務顧問、(3)遊べる病院「Vision Park」(2018年グッドデザイン賞受賞)のコンセプトディレクター、運営責任者などを中心に、医療・福祉・教育・ビジネス・エンタメ領域を越境的に活動している。また東京大学において、健診データ活用、行動変容、支援機器活用関連の研究室に所属する客員研究員としても活動中。主な著書として、管理職向けメンタル・モチベーションマネジメント本である『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)や歌集・童話『向日葵と僕』(パブリック・ブレイン)などがある。

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