AIコーディングエージェントが示すMacの快適性
AIが自動でプログラムを書き進めるコーディングエージェントの利用が日常化する中、今さんはMacの優位性がより明確になってきたと感じています。そこにはハードウェアとソフトウェアの両面で理由があります。
「1つは、CPUやGPU、Neural Engineなどが同じメモリ領域を共有しデータを効率的にやりとりできる、ユニファイドメモリというApple特有の設計です。これがAIの処理と非常に相性が良いと感じています。もう1つはソフトウェアの構造です。AIコーディングエージェントが内部で動かすツールは、ファイルの読み書きや検索を行う際、UNIXのコマンドを組み合わせて実行しています。そもそもこれら最先端のAIツールを開発しているエンジニアの多くがMac(UNIX系環境)を使っているため、ツール自体がMac上でもっとも精度が高く、高速に動くよう最適化されているのです。Windowsでも同様の動きを再現する仕組みはありますが、どうしてもオーバーヘッド(処理の無駄)が生じてしまいます」
ハードウェアの設計思想と、AI開発の潮流そのものがMacを前提にしていることから、今さんはAI活用の現場ではMacとの相性の良さがより際立つと考えています。
非エンジニアにも波及するAI活用
AIによる業務効率化の波は、エンジニア以外の職種にも急速に広がっています。
noteでは、最先端のAI開発ツールである「Codex」や「Claude Code」などを社内に広く展開。さらに、AIに指示を出して高速にプログラムを組み上げるバイブコーディングと呼ばれる新しい開発スタイルも推奨し、AIを前提とした働き方への移行を急ピッチで進めています。
「顧客向けのレポート作成や営業資料、さらには人事評価の作成支援にいたるまで、あらゆる業務のAI化を推奨しています。そのための社内教育プログラムやワークショップも定期開催しています。さらに最近では、AIと外部ツールをつなぐ接続規格である「MCP」を活用し、Googleの各種ツールとAIを連携させる試みも始まっています」
すでに現場では、具体的な成果が出始めています。
「MCPを利用して、過去のデータから営業資料や提案の骨子をAIに事前作成させ、商談に臨む営業メンバーも出てきました。今後は広告運用の自動化などにも挑戦する予定で、こうした事例を全社的にもっと増やしていきたいと考えています」
同社では今期から、全社員の目標設定の項目にもAIの活用を取り入れ、単なるツールの導入にとどまらない、組織の評価制度と連動した変革を進めています。

爆発するAI利用料への切り札はローカルLLM
しかし、全社員が熱狂的にAIを活用し始めたことで、経営上の新たな課題も浮き彫りになりました。それが、クラウドAIサービスの利用料の急増です。
CodexやClaude Codeには定額プランがありますが、契約形態や利用量によっては追加の従量課金が発生します。特にエンジニアが扱うソースコードは情報量が膨大なため、ツールを頻繁に動かすと企業の想定をはるかに超える金額へと跳ね上がります。
「これが今、最大の課題になっています。みんなが熱心に使えば使うほどコストが膨らみ、社員によっては月に50万〜60万円分の利用料を消費するケースも出てきています。他社のCTO仲間と情報交換をしても、どこの会社も同じ悩みを抱えている状況です」
外部のクラウドAIサービスに依存する限り、利用料は青天井の変動費として会社に重くのしかかります。そこで今さんが目をつけたのが、第3回記事でも触れたローカルLLM(手元の端末内でAIを自律稼働させる仕組み)へのシフトです。高性能な端末は一過性の固定費であり、一度導入すれば長く使い回すことができます。
「手元の端末で動くローカルLLMが、実際の業務でどこまで実用的に使えるようになるかを非常に注視しています。もしそれが実現するなら、エンジニア用に1台100万〜200万円クラスの超高性能端末を配備することになっても、私は迷わず購入します。毎月膨大なクラウド利用料を払い続けるよりも、端末側に投資して社内でAIを回したほうが、トータルコストは圧倒的に安く抑えられるからです」
さらに、こうした無数のAIツールの管理工数という側面からも、Mac統一のメリットが活きているといいます。
「社内にAIツールを配り、それぞれの利用コストを管理するだけでも、日々のアップデートが激しすぎてIT管理部門の負担は膨大です。もしここで社内のOSがMacとWindowsで二分されていたら、管理の複雑さは限界を超えていたでしょう。Mac一本に絞っているからこそ、この激変期の手間を最小限に抑え込めています」
トレンドには踊らされない慎重な判断
一方で、AppleがOS標準の機能として提供を開始しているApple Intelligenceについては、意外にも慎重な姿勢を崩していません。
「現時点の仕様を調べる限り、企業がビジネス用途で組織的に使うための設計にはまだなっていない印象です。どちらかといえば個人向けの便利機能という色合いが強いため、現段階ではそこまで深くコミットしていません」
同社では、必要に応じてこれらの機能をMDM経由で一括して無効化できる体制を整えています。トレンドに盲従するのではなく、セキュリティとガバナンスの観点からコントロール可能な状態を維持し、静観する構えです。
「他社のCTOとの議論でも、やはり一番の関心事はAI運用のコストコントロールとセキュリティの担保です。制限しすぎると組織の生産性が落ち、利用しすぎるとコストが跳ね上がる。このバランスの最適解をどこに落とすかは、今も四苦八苦しながら議論を重ねています」
BYODの廃止から始まったnoteの端末戦略。AI時代の端末選びにおいて、表面的な端末価格だけを比較するアプローチは、もはや意味をなしません。
AIをいかに安全に組織へ溶け込ませ、急増するクラウドコストをどうコントロールするか。企業における端末選定の基準は、目先のコスト最小化のフェーズを終え、組織全体の生産性を加速させるための高度な投資戦略へと進化を遂げています。

