Appleシリコンの登場でMacのコスパ認識がガラリと変わった
かつてのnoteにおいても、Macの「価格の高さ」は社内で議論の対象になっていたと今さんは振り返ります。
「Intel製プロセッサを搭載していた2020年頃までは、正直『Macは少しコスパが悪い』という話をしていました。とはいえ、社内の基盤的にWindowsへ移行する選択肢はなかったので、コストを下げるために『いっそエンジニアの端末をLinux PCにリプレイスすべきか』といった議論が真面目に持ち上がっていたほどです」
しかし、Apple自社製の「Appleシリコン」がMacに搭載されたことで、その見方が劇的に変わりました。
「現在、Windows PCでMacと同等の処理能力や堅牢性を確保しようとすると、パーツ構成的にもむしろMacのほうが安く上がるのではないか、という肌感すらあります」
Appleシリコンの登場によって、Macは「高い端末」ではなく、「性能まで含めれば十分に競争力のある端末」として評価されるようになったのです。
エンジニアはまずメモリ。職種別のスペック選定
同社では、全社で一律のモデルを配布するのではなく、職種ごとに重視する要件を変えています。
コーポレートやマーケティングなどの非エンジニア職に対しては、処理性能よりも持ち運びやすさとバッテリ駆動時間を最優先し、MacBook Airを選択。
一方で、エンジニア職には、基本的にMacBook Proを配付しています。その選定基準は明確です。今さんが最重視するのは、CPUのコア数よりも、なによりメモリ容量だといいます。
「最優先はメモリです。現代のWebアプリケーション開発やローカル環境でのコンテナ稼働は、驚くほどメモリを消費します。まず十分なメモリ容量を確保し、次にCPU、最後にストレージという順位で構成を組みます。昨今の円安の影響もあり価格は上昇傾向にありますが、グロスで1台あたり50万〜60万円のレンジに収まるよう、スペックを微調整しています」
なお、世間で比較対象になりやすい、高スペックWindows PCとの比較検討は行っていないといいます。
「WindowsのビジネスPCと比較検討したことは、正直ありません」
Macで開発環境を構築することを前提としている同社では、少なくとも現時点では、Windows PCとの価格比較を積極的に行う必要性は高くないと考えているようです。

購入からリース中心の体制へ
事業のスケールに伴い、端末の調達手法も変化してきました。初期の買い取りから、現在はエンジニア向け端末を中心にリースへと移行しています。
「最大の理由は、資産管理の工数を削減するためです。購入すると減価償却の管理や廃棄手続きなど、コーポレートIT側の見えない事務コストが膨らみます。リース料を払ってでも、運用のハンドリングのしやすさを優先しました」
現在、端末の更新サイクルは、要求スペックの変化が激しいエンジニア職が2年、非エンジニア職が3年と、一律ではなく職種ごとのライフサイクルで運用されています。
「開発環境の要求水準は年々上がっており、エンジニアにとっての2年はスペック的にかなり限界に近い感覚です」
しかし、リース運用にも特有の課題が存在します。リースの契約期間中であっても、現場のエンジニアから「開発効率のために最新機種に変えたい」と要望があれば、同社ではリクエストを承認します。結果として、契約期間が残った旧端末が社内に一時的に余ることになります。
しかし今さんは、それすらも織り込み済みだといいます。
「端末への投資は、エンジニアの生産性向上にもっともダイレクトに直結します。端末コストを惜しんで開発スピードが落ちる損失に比べれば、多少のリース費用の重複や管理の手間は、十分に許容できるコストです」
曖昧なROIではなく、GitHubの開発指標で投資を測る
では、端末投資の効果を、経営的にどう評価しているのでしょうか。同社では、「Macを導入したから売上が何パーセント上がったか」という、因果関係の証明が不可能なROI(投資対効果)の算出は行っていないといいます。その代わり、開発組織のパフォーマンス指標を注視しているそうです。
「端末投資の費用対効果をまったく見ていないわけではありません。我々が指標として追っているのは、ソースコードの変更履歴を管理するGitHub上でのコミット数(エンジニアがソースコードなどを変更した回数)が維持されているか、あるいは企画から実装・リリースに至るまでの開発時間が遅延していないか、という現場の開発スピードと生産性です」
開発の現場がストレスなく、最速のスピードでプロダクトを提供できているか。その状態が維持されていること自体が、端末投資が成功している証拠であるという思想です。
さらに今さんは、これからのAI時代を見据え、この投資基準はさらに引き上がる可能性があると示唆します。
「今後はローカル環境でのLLM(大規模言語モデル)の活用なども十分にあり得ます。用途によっては、将来的に1台100万〜200万円クラスのモンスターマシンをエンジニアに配備する意思決定も排除していません。基本的には、エンジニアが快適に作業できる環境を整えることが大切だと考えています」
Macの端末費用を単なるコストではなく、組織の生産性を最大化するためのインフラ投資として捉え直すと、その金額の見え方は180度変わるということでしょう。
次回は、急速に進化する「AI時代」において、同社がMacというデバイスをどのように活用し、次なるパラダイムシフトに備えているのか。その未来像に迫ります。

