周辺機器の接続や充電などでほぼ毎日使うのがUSB。しかし、iOSデバイスのライトニング(Lightning)端子に比べて、Macでは裏表があるタイプがまだ多い。しかも端子の種類がたくさんあって、いろいろ不便さを感じている人も多いのではないだろうか。なぜ、USB規格にはこうも悩まされるのか。これが今回の疑問だ。
USBの端子が複雑すぎる理由
世界中のデジタルユーザの共通した悩みのひとつに、USB端子の裏表問題がある。特にデスクトップMacでは顕著で、周辺機器のUSBケーブルを挿そうと思ったら入らないことがある。「裏表逆だったかな?」と思い、裏返して挿すと再び入らない。結局、顔を近づけて端子の内側をよく確認してみると、最初の向きが正しかったというパターンだ。iPhoneやiPadのユーザは裏表どちらでも挿せるライトニング端子に慣れてるので、余計にMacのUSBには翻弄されてしまう。
さらに、端子の形がA、B2種類あり、それぞれにミニ端子、マイクロ端子がある。必要なケーブルを探すのも一苦労だ。旅行や出張のときに使えないケーブルをカバンに入れてしまい、外出先の電器店で新しく買い求める経験をしたことがある人も多いはずだ。なぜ、USBはここまで私たちを苦しめるのだろうか。今回は、周辺機器メーカーであるバッファローの広報担当、浜岡航平氏にUSBの現状を教えていただいた。
当初は画期的だったUSB規格
「確かに、今の感覚からするとUSBにはいろいろ問題を感じます。しかし、USB規格が誕生した1996年当時は画期的なものだったのです」(浜岡氏)。当時からさまざまな周辺機器があったが、機器ごとに接続規格が異なっていた。プリンタはパラレルポート、HDDはSCSI、モデムなど通信系はRS232C、マウスやキーボードはシリアルポート、ADBなどだ。「これらがすべてUSBで接続できるようになりました。当時としては画期的なことでした」
今では忘れ去られているが、USBの当初の目的は周辺機器ごとに異なる接続規格を統一することにあった。この利便性は高く、あっという間にレガシーな規格は消えてUSBが普及したのだ。
この当時の感覚ではパソコンが「本体」であり、それに周辺機器を接続するというものだった。さらに、USB規格ではハブを使って枝分かれさせ、1台のパソコンからツリー構造にして何台もの周辺機器を同時に接続できるようになっていた。
このため、1本のケーブルでA端子とB端子という2種類を用意する必要があった。本体側がA端子で、周辺機器側がB端子である。わかりやすく言えば、ツリー構造の末端は必ずB端子で終わる。こうすることで、誤った接続をしてツリー構造が崩れないようにしたのだ。今の感覚から見ると、A端子とB端子の2種類があって、わずらわしく感じるが、当時としては何も考えずに接続をしても自然にツリー構造が作れる賢いアイデアだったのだ。
裏表が判別しづらいという問題も、当時の「本体と周辺機器を接続する」目的では大きな問題ではなかった。なぜなら、いったん接続したら、基本的に抜き差しはしないものと考えられていたからだ。
それに加えて、USBでは裏表を間違えないようにするためのルールが存在する。それは「自分側にマークがくるように挿す」というものだ。ケーブルの端子部分にはUSBのマークが刻印されているので、これが自分から見える方向で挿せば一回で挿せるのだ。
たとえば、ノートPCであればマークが必ず上にくる。iMacではUSBコネクタは背面右側に縦に並んでいる。この場合、右側からコネクタを見ることになるので、ケーブルのマークが右側、つまり自分側にくるように挿せばOKだ。この「自分側にマークがくる」ということを覚えておくだけで、裏表でイライラさせられることはほぼなくなるだろう。
モバイルの普及が端子を増殖させた
当時の要求を考えれば、USBはよく考えられた規格であることがわかる。ところが、時代とともにUSBの初期の前提である「本体と周辺機器の接続」が崩れてきてしまった。デジタルカメラや携帯電話などの小さな機器が登場し、モバイルで使うケースが急速に増えていったのだ。そのため、より小さな端子であるミニ端子、マイクロ端子が生まれた。
「コネクタの大きさだけ見ればあまり変わらないように見えますが、コネクタユニット自体の大きさがまったく違います。モバイル機器は少しでも小さくする必要があるので、ミニ端子、マイクロ端子を採用していったのです」
当然ながら、本体側のタイプA、周辺機器側のタイプBそれぞれにミニ端子、マイクロ端子が存在する。しかし、タイプAのミニ端子、マイクロ端子はほとんど使われることなく、現在もっとも普及しているのが、本体側が通常のタイプA端子で周辺機器側がタイプBのマイクロ端子のケーブルだ。
さらに、USBに大きな変化が起きる。USBは本来データ転送をするための規格だったのだが、データ転送は急激にワイヤレス化が進んだのだ。今では多くの人がプリンタをWi−Fiで接続し、外部スピーカはブルートゥース(Bluetooth)接続が増えた。身近なUSB接続機器は外付けHDDくらいではないだろうか。
このため、現在USBは充電ケーブルとしてもっぱら使われるようになっている。ところが今度は、ここに1A、2A問題が起きるようになった。一般的な機器は1Aで充電ができるが、iPadの充電やiPhoneの急速充電では2Aが必要になる。モバイルバッテリなどでは、電流の流れを測定しながら徐々に電流を上げていく制御回路が入っているものがあるが、シンプルなACアダプタでは1Aのみしか対応していないものがある。iPhone付属のACアダプタがそうで、iPadの充電には使えない。さらに問題なのは、2Aに対応しているが制御回路がないため、機器を壊してしまったり機器のバッテリを著しく劣化させてしまうというケースもごくわずかにあるようだ。
さらに、MacBookなどでも周辺機器を充電したいというモバイルでのニーズが高まってきた。
USBの諸問題はタイプCで解決
このように時代の変化で蓄積された多くの問題を一気に解決させるのがタイプCのUSBだ。端子はリバーシブルで裏表どちらでも挿せる。端子の形状も1種類。規格の世代によって転送速度の違いはあるものの、パワーデリバリーに対応しているので、充電関係も楽になる。2015年のMacBookにはすでにUSBタイプCポートが搭載され、ここでMacBookに充電ができるし、ここからMacBookのバッテリを使ってパワーデリバリー対応の機器に充電することもできる。
まだコストの問題があるので、すべての機器が一斉にタイプCに変わっていくのは難しいにしても、いずれ置き換わっていくのは間違いない。すべての機器がタイプCになれば、外出や旅行でもACアダプタ1つ、ケーブル1本だけ持っていけば済むようになる。現在は過渡期の不便さもあるが、今後デジタル機器を買うときにUSB端子の選択ができる場合は、積極的にタイプC対応のものを購入することをおすすめする。
iPhone付属のACアダプタは、上下がわかりづらいデザインだが、背面を見ると上下があることがあることがわかる。上下の位置関係を正しくすると、やはりUSBマークが自分側(上)にくる。家庭用コンセントは一般に低い位置にあるので、マークが上側にくるのは合理的だ。
iMacの背面には右側にUSBポートが縦に並んでいる。この場合、iMacの右側から覗き込むので、USBマークは右側、やはり自分側にくる。一般的なノートパソコンでは、USBマークが上側(自分側)にくる。
モレックス社のカタログから、基板に取り付けるUSBコネクタのサイズを整理してみた。最も小さなマイクロB端子の体積を1とすると、ノーマルB端子はその35.2倍にもなる。小さなモバイル機器を設計するためには、ミニ端子やマイクロ端子が必要だったのだ。
バッファローでは、AUTO POWER SELECT機能を搭載した最大2.4A対応のACアダプタなどを発売している。自動で充電対象機器に適切な電流に調整してくれるものだ。iPadの充電もでき、iPhoneを充電するときは急速充電になる。ポート内のガイド板に赤い樹脂パーツが使われているのでわかりやすい。
文●牧野武文
フリーライター。充電切れの心配がない人でも、外出や旅行の多い人は高容量モバイルバッテリをひとつ持っておくと便利だ。充電はモバイルバッテリから行い、夜はモバイルバッテリを充電しておく。こうすると、持ち歩くACアダプタとケーブルの数が減る。