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新規格「USB PD」が電源供給に起こす革命

著者: 今井隆

新規格「USB PD」が電源供給に起こす革命

読む前に覚えておきたい用語

USBバスパワー

USBの電源供給機能のこと。USBはバスパワーによって、ケーブル1本で信号と電源の両方を供給できる。ホストのUSBポートにデバイスを接続すると、まずローパワーモード(最大100mA)で電源供給が開始される。さらに認証手続きを行うことにより、ハイパワーモードに移行して最大500mA(USB 3.0以降は最大900mA)までの電力を供給できる。

USB充電規格

急速充電の規格は、USBバスパワーのほか、さまざまな独自規格が存在する。クアルコム社が提案する「クイック・チャージ」、アンカー社が開発した「パワーIQ」、メディアテック社の「パンプ・エキスプレス」などがある。電圧は5Vのまま電流だけを増強するタイプ(パワーIQなど)と、供給電圧も切り替えるタイプ(クイック・チャージなど)が存在する。

Thunderbolt 3

MacBookプロのサンダーボルト3ポートにはUSB3.1との互換性があり、かつその電力供給にはUSBの電源供給の仕組みである「USB PD」を取り入れている。ただしUSB3.1とUSB PDは別の規格なので、サンダーボルト3を搭載する製品が必ずしもUSB PDに対応しているわけではない。サンダーボルト3対応製品を購入する際には注意が必要だ。

USBの辿った道とスマホ時代の新たな課題

現在もっとも普及しているインターフェイス接続規格「USB(Universal Serial Bus)」は、1994年よりコンパック、DEC、IBM、インテル、マイクロソフト、NEC、ノーテルネットワークスの7社によって開発が進められ、1996年1月にUSB1.0規格としてリリースされた。普及が加速したのは1998年、初代iMacの発売からだ。iMacは従来使われていたシリアルポートやADBポートなどをすべて撤廃、USBポートとイーサネットポートのみを搭載したことで、周辺機器のUSB対応を半ば強制的に後押しすることになった。

USB1.0の最大転送速度は12Mbpsと貧弱だったため、後続規格として2000年4月にリリースされたUSB2.0では、最大転送速度480Mbpsのハイスピードモードがサポートされた。これにより、ストレージやネットワークカードなどの高速性が求められる機器の接続にも使われるようになった。さらに2008年11月にはUSB3.0、2013年8月には現在の最新規格であるUSB3.1がリリースされた。USB3.1は最大10Gbpsの高速インターフェイス規格としてあらゆるデバイスとの接続に利用されている。

USBの大きな特徴としてバスパワー(電源)供給機能がある。もともとUSBはキーボードやマウスなどのHID(ヒューマン・インターフェイス・デバイス)の接続を想定して設計された規格で、通信と電源の供給を同時に行えるのもそのためだ。USBバスパワーは最大500mA(USB3.0以降は最大900mA)までの電力を供給するが、ホスト(親機)とデバイス(子機)の間で一定期間ハンドシェーク(通信)が行われない場合には、ホストはそのポートをサスペンドモード(最大2.5mA)に切り換えることで消費電力を低減する。デバイスはこの規格の範囲内でバスパワーを利用できる。

このように、元々はUSBデバイスへの給電を目的として実装されたUSBバスパワーだが、スマートフォンの普及をきっかけとして大きな変化を遂げることになる。従来の携帯電話は専用のACアダプタで充電するものが一般的だったが、スマートフォンではUSBバスパワーでの充電が主流となった。デバイスの高性能化、大画面化にともなってバッテリ容量が増加し、急速充電のニーズが高まった結果、機器付属のUSB充電器も1000~2400mAといった大電流を供給するようになっていった。もちろん、iPhoneやiPadも例外ではない。

このような大電流供給は各メーカー独自の機能であり、USBの規格外の使い方になるため、異なるメーカー間での互換性がないことが問題となった。

USB-C+USB PDのバスパワー革命

USBバスパワーの拡張問題に福音をもたらしたのが、USB3.1で新たに規定された「USBタイプC(以下、USB-C)」だ。USB-Cは従来のUSBタイプA/Bポート(標準、ミニ、マイクロを含む)に置き換わり、これ1種類で従来のすべてのポートの役割を担うことを目的に設計された次世代規格で、最大5Aという大電流を供給できるよう設計されている。

そして、USB-Cの優れた電力特性を活かして規定された最新のバスパワー規格が「USB PD(USB Power Delivery Rev.2.0)」である。USB-Cの最大5Aという大電流特性に加えて、従来5Vに固定されていたUSBバスパワー電圧を最大20Vまで段階的に切り換え可能にすることで、最大100Wもの電力供給を可能にしている。これだけの電力を供給できれば、スマートフォンやタブレットのみならず、ノートパソコンやディスプレイなどへの給電も可能だ。

USB PDでは電力供給に関しポートタイプが規定されている。DFポート(Downstream Facing Port)は標準でホストとして機能し電力を供給する側となるポートで、従来のタイプAポートと同じ機能を果たす。一方、UFポート(Upstreaming Facing Port)は、デバイスとして機能し電力を受ける側となるポートで、従来のタイプBポートに相当する。DFポートとUFポートがUSB-Cケーブルで接続されると、お互いをホストおよびデバイスとして認識し、バスパワーが供給される。

USB-Cの標準ケーブルにはUSB2.0、3.1(Gen.1)、3.1(Gen.2)の3種類に対応するケーブルがあり、また伝送可能なバスパワー電流の違いから3Aと5Aの2種類がある。このうちUSB3.1対応、または5A対応のケーブルでは、電子認証機能を備えたEMCA(電子的捺印付きケーブルアセンブリ)の実装が必須となる。EMCAチップはライトニングにおけるMFi認証チップに似た微細チップでUSB-Cケーブル内に実装される。EMCAによって、ホストはそのケーブルの伝送電力、USBの最大伝送速度、サポートされる機能などを確認する。

さらにUSB PDでは、バスパワーの供給方向や供給電圧などをホストとデバイス間でダイナミックに切り換えられる。たとえばMacBookのUSB-Cポートに外付けディスプレイ「LG UltraFine 4K Display」を接続した場合、接続直後はMacBookから5V/100mAのバスパワーとディスプレイポート信号がUSB-Cケーブルを介して供給されるが、直後にUSB PDの認証プロセスによって自動的に電源供給方向が切り替わり、14・5V/2AがディスプレイからMacBookへと供給される。その間もディスプレイポート信号に変化はなく、画面の表示は変わらないため、ユーザは電力供給が切り替わる瞬間を意識することはない。

USBバスパワーの拡張規格とその仕様

USBポートにおけるさまざまなバスパワー規格とその供給能力。USB PD Rev.1.0では出力電圧が5V、12V、20Vの3段階だったが、Rev.2.0以降は従来のプロファイルに代わりパワールールが採用され、出力電圧を0.05V刻みで設定可能になった。

USB PD 2.0で規定されたケーブル仕様

USB PDにおける各種USB-Cケーブルの仕様。両端にタイプC端子を備える「タイプC標準ケーブル」と、片側にタイプA、またはB端子を備える「タイプCレガシーケーブル」に分類され、後者は最大3Aまでの供給に制限されている。

ACアダプタも統一するUSB PDの可能性

今、皆さんの手元にはいくつののACアダプタがあるだろうか? MacやiOSデバイスはもちろんのこと、ルータやハブ、デジカメなど、ACアダプタはデバイスごとにまちまちで互換性がない。しかしUSB PDが普及すれば、これらのアダプタ類を統合し、単一の汎用ACアダプタですべてをカバーできるだろう。普及の結果、住宅には従来のコンセントに加えて、USB-Cポートが備えられる可能性もある。車の中にUSB-Cポートがあれば、移動中にMacBookやiPadの急速充電も可能だ。いつでもどこでもUSB-Cで充電できる、そんな時代もそう遠くないかも知れない。

USB PD対応ディスプレイからの給電

USB-Cポートを搭載するMacに「LG UltraFine」シリーズのディスプレイを接続すると、接続直後にバスパワー供給の方向が切り替わり、ディスプレイからMacへの充電が始まる。【URL】http://www.apple.com/jp/thunderbolt/

小型デバイスへのソリューション

米サイプレスセミコンダクタ社が開発した「EZ-PD CCG2」は、USB PD対応のポートコントローラチップ。サイズが約2ミリ×1.6ミリの超小型チップながら、USB-CケーブルやDF/UFポートでのUSB PD機能をサポートする。【URL】http://japan.cypress.com/products/ez-pd-ccg2-type-c-port-controller