ドローンによる3Dデータ化
複数のアングルから撮影した二次元データを解析・合成して3Dデータ化する技術「フォトグラメトリー」。フォトグラファー・桐島ローランド氏が代表を務める株式会社アバッタでは、この先端技術をいち早く取り入れた撮影スタジオを構築し、クオリティの高い人物フィギュアなどを提供している。
そんな活動のさなか、同社が新たに挑戦したプロジェクトが、福岡県北九州市にある小倉城の3Dデータ化だ。通常、フォトグラメトリーのための人物などの撮影は、被写体の周囲360度に複数台のカメラを配置したスタジオで行う。しかし、城のように巨大な被写体となるとそうもいかない。そこで活躍するのが空撮用ドローンだ。城の周囲にドローンを飛ばせば、全方位から詳細な二次元データを取得することができる。そうして作られた3Dデータは石垣の境目まで細部にわたって実物の造形が再現されており、フォトグラメトリーならではのリアルな質感を感じられる仕上がりとなっている。
国内では12月10日に改正航空法が施行され、今後、商業分野での盛り上がりも期待されるドローン業界。今回の試みにはどのような思いと展望があったのか、代表の桐島ローランド氏に話を聞いた。
「アバッタでは、2014年のスタジオ起ち上げ以来、フォトグラメトリーによる人物スキャンサービスを行ってきました。しかし、車や建物など、スタジオには収まりきらない被写体の撮影は物理的に困難です。そんなとき、安定したジンバルと高度な飛行性能を備えたDJI社のドローンに出会い、“これを使えば、巨大な被写体も3Dデータ化できるかもしれない”と気づきました。今回、なぜ城をスキャンすることにしたのかというと…単純に僕が大の城巡り好きだからです(笑)。小倉城の3Dデータは、城好きな人からの反響も大きかったんですよ」
ドローン元年ともいえる今年はモラルのないユーザによる事件や事故の報道も多かった。それだけに、桐島氏も慎重に撮影に臨んだという。
「撮影に先立って、北九州市と小倉北区にはしっかりと撮影の意図をお伝えしたうえで許可をいただきました。僕もドローンの操縦はできるのですが、当日は万全を期して確かな技術を持つ方に操縦してもらいました。僕は画角をチェックしながらアングルの指示を出したり、ドローンでは撮影できない角度の写真を地上から撮影する役割です。ドローンによる撮影時間はトータルで1時間程度。3Dデータを作るために使った写真は1000枚ほどです。その写真を専用のソフトに入れると、だいたい4日ほどで3Dデータが作れます。僕が使っているマシンの処理速度が速いということもありますが、これだけの3Dデータを数日で作れるのは、フォトグラメトリーの大きなメリットだと思います。いちからモデリングして作ろうとすれば、より専門的な知識が必要になるでしょうし、時間もかかりますから」
観光分野での活用も視野に
今後は、小倉城に限らず各地にある日本の名城を3Dデータ化していきたいと語る桐島氏。制作したデータは、どのような分野での活用を考えているのだろうか。
「僕もいろいろと考えているところです。今回の小倉城のデータはフリー素材として公開しているので、国内外問わずゲームの背景などに使用してもらえるとうれしいですね。あとは、観光に役立ててもらいたいという思いもあります。たとえば重要文化財などは、現地を訪れても境内の中にある実物の仏像を見ることはできなかったりしますよね。そんなときに実物に近い質感が再現された3DグラフィックをVRゴーグル越しに見られたら、観光客の方はとても喜んでくれるのではないでしょうか」
株式会社アバッタ(【URL】http://www.avatta.net)代表の桐島ローランド氏。
桐島氏が製作した小倉城の3Dデータ(【URL】 https://sketchfab.com/models/aba23531911c45439067a6e0aaccad07)。
【News Eye】
株式会社アバッタでは、今回製作した小倉城の3Dデータを近日中にパブリックドメイン化して公開する予定。ゲーム業界などでの活用も期待される。