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iPadは高齢者の認知症予防に効果的!?

著者: 木村菱治

iPadは高齢者の認知症予防に効果的!?

高齢者×iPad

さいたま新都心駅の近くにある高齢者介護施設「セントラルプライムプラザラフレさいたま」を訪れると、10名ほどの利用者がそれぞれ手にしたiPadを操作していた。やがて1台のiPadから、2013年11月に亡くなった歌手、島倉千代子の歌が流れ始め、画面には彼女の動画がユーチューブで再生されていた。

「今日は紅白歌合戦について調べてみましょう」とスタッフが声をかけると、利用者はサファリで「紅白歌合戦」と検索し、NHKの公式ホームページを開いた。出場歌手の情報などを閲覧しながら「最近は知っている歌手が少なくなったねぇ」などと語り合う様子は、とても新鮮。周りのスタッフが文字入力などの手伝いをするときもあるが、自力で操作できる利用者も多い。iPadの画面を見せ合いながら談笑する様子は、若い世代とほとんど変わりなかった。

利用者の70代男性は、「ここへ来るまでiPadはもちろん、パソコンも使ったことがありませんでした。好きな映像や写真がどんどん観られるので、とても面白いです。なんだかハマってしまいそう」と、iPadを使った感想を語ってくれた。また、最近まで会社でパソコンを使っていたという男性は、スムースにさまざまなWEBサイトにアクセスして楽しんでいた。

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セントラルプライムプラザラフレさいたまは、セントラルスポーツが運営する介護予防特化型デイサービスの1号店。スポーツクラブにおいても高齢の利用者が多く、70代、80代の会員も珍しくないという。

 

「普通に使う」のが効果的

同施設は、スポーツクラブの老舗であるセントラルスポーツ株式会社が運営する介護予防特化型デイサービスだ。ここでは長年のスポーツクラブ運営で得られたノウハウを活かして、高齢者ができるだけ介護を必要とせずに、自立して暮らせるための介護予防プログラムを提供している。

介護予防プログラムのメニューは大きく分けて3つ。天然温泉を利用した足湯でのリラックスとコミュニケーション、ウェイトトレーニングマシンを使った身体トレーニング、そして、冒頭で紹介したiPadを使った頭のトレーニングだ。といっても、特別な認知症予防用アプリを使ったり、ひと頃流行した計算や漢字書き取りのようなエクササイズを行うわけではない。セントラルスポーツ介護予防事業部シニアマネージャーの神宿央江氏は次のように語る。

「利用者の方には、一般の方と同じようにiPadを使ってもらっています。例えば、どこかへ行く前に電車の時間を調べたり、旅行先にどんな名産品があるかを調べたり、ユーチューブで動画を観たり、昨日の出来事をメモに書いて、フェイスブックに投稿してみたりといったことです」

一見、普通にiPadを使っているだけのように見えるが、実はそれが自然な形で認知症の予防につながるように工夫されている。

高齢者が認知症に移行する前には、個人的に体験した出来事の記憶(エピソード記憶)や、同時に複数のことを行う注意分割能力、自ら考え実行する計画力といった機能が低下するという。そこで同施設ではiPadを通じて、これらの機能を習慣的に使うように年間を通したカリキュラムを組んでいる。例えば、昨日食べた物を思い出して文字にするのは、エピソード記憶機能を刺激するため。iPadを操作しながら隣の人と相談したり、誰かに教えたりするグループでの共同作業は、注意分割能力を鍛えることにつながる。

 

より感覚的に使えるツール

同施設では、2011年5月のオープン当初からiPadを導入している。その導入経緯について神宿氏は、「最初はパソコンを導入することも考えましたが、高齢者にとってキーボードなどの操作が難しいというのが懸念材料でした。そこで、もっと感覚的に操作ができるものとして選んだのがiPadです。以前から、海外では高齢者がiPadを使っているという話が出ていたので、ぜひこちらの利用者の方にも使っていただきたいと思いました」と語る。

導入当初は、「私には無理」と拒絶反応を示す利用者もいたそうだ。しかし、動画の見方を学んだり、簡単に操作できるアプリを楽しんでいく内に少しずつ抵抗感が薄れていったのだという。現在は利用者の間にもiPadが浸透し、自由時間に自らユーチューブで好きな動画を視聴して楽しんでいる姿は多い。中には自分のiPadを購入した利用者も少なくないというから驚きだ。

 

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セントラルプライムプラザラフレさいたま管理者の立岩俊哉氏。

 

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セントラルスポーツ事業本部介護予防事業部シニアマネージャーの神宿央江氏

 

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iPadの利用時には、スタッフが操作のサポートを行うほか、利用者同士で教え合うこともある。奥には身体トレーニングのための施設がある。

iPadというブランド価値

iPad利用の中で特に重要な位置を占めているのが、外出イベントの下調べだ。同施設では、お花見に行って、レストランで食事をするといった外出イベントを年に数回実施している。イベントの1カ月くらい前から、先述のようにグーグル・マップを使ってルートや時間を確認したり、今公園ではどんな花が咲いているか、レストランにどんなメニューがあるかなどを調べていく。高齢者は、こうした計画力を発揮する機会が少なくなりがちだという。

「iPadを使うときに大切にしてほしいのは、自分で知りたいと思うことを自分で調べるということです。高齢者の方はどうしても家族や周りの人の意志に従って動くことが多くなり、だんだんと主体性を失っていきがちです。iPadを使って少しでも自分でできることを増やして、自信を取り戻してほしいです」自信を取り戻すうえでは、iPadブランドの持つ効果はとても大きいと神宿氏は続ける。

「高齢者でも、iPadという名前はご存じの方が多いです。お孫さんから『お婆ちゃん、iPadが使えるなんてすごいね!』といわれたと、うれしそうに話してくれる利用者の方もいました。誰でも知っている最新の機械を使うことで、自尊心を取り戻すことができます」

同施設管理者の立岩俊哉氏は、「利用者の方にiPadを強制しているわけではありません。あくまでも楽しめる範囲で使ってほしい」と語る。そのため、iPadは希望者のみ、1回の利用時間は20分ほどに留めている。

今後はフェイスブックを通じた他店舗の利用者とのコミュニケーションなどを増やしたいという。高齢者とiPadの相性は、想像以上によいと感じた。

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手に持って画面を直接タッチできるため、iPadは高齢者でも比較的容易に操作できる。ただ、指先にマヒがある人は小さなボタンのクリックに苦労するという。また、滑舌の点から音声認識入力はあまり有効ではないとのこと。

 

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利用者に人気なのは、漢字の読みを手書きで答える「漢字力診断」や将棋アプリ「銀星将棋Lite」など。ほかにも囲碁アプリで楽しんでいる姿も見受けられた。

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この日は紅白歌合戦の情報収集がテーマ。NHKのWEBサイトにアクセスして、出場者の情報をチェックしていた。

『Mac Fan』2014年3月号掲載