Appleシリコンに搭載された3種類のAI演算ユニット
Macの心臓部であるAppleシリコンには、3種類のAI処理エンジンが搭載されています。1つ目はAppleユーザにはおなじみの「Neural Engine」で、一般的にはNPU(Neural Processing Unit)と呼ばれるAI処理専用の演算ユニットです。
2017年9月にリリースされたiPhone 8やiPhone Xに搭載された「A11 Bionic」に初めて採用され、Face ID(顔認識)やアニ文字(表情認識)、写真における被写体の切り抜きや検索などの推論処理に使われました。Mac用のAppleシリコン「Mシリーズ」ではさらに強化されたNeural Engineが搭載されており、SiriやApple IntelligenceといったAIアシスタント機能に活用されています。
2つ目はCPUコア内に設けられた行列演算処理ユニット「ML Accelerator」で、比較的軽量のAI処理をCPUでレスポンスよく行うために利用されます。
3つ目がA19およびM5シリーズで採用されたGPUコア内のTensor演算ユニット「Neural Accelerator」で、LLM(大規模言語モデル)や画像生成などの大規模なAI処理を加速する役割を担っています。

Windows PCとの大きな違い
実はこのようなAI演算ユニットは、Windows PCに搭載される最新のIntelプロセッサにも搭載されています。Neural Engineに相当するNPU「Intel AI Boost」、CPUに内蔵される「VNNI(Vector Neural Network Instructions)」、そしてGPUに内蔵されたAIエンジン「XMX(Xe Matrix eXtensions)」などです。
しかし、Appleシリコンと異なるのは、Windows PCではこれらのAI演算ユニットがすべてのプロセッサに搭載されているわけではない、という点です。ハイエンドプロセッサほど高いAI演算性能を持つ一方で、下位モデルでは非搭載であったり、搭載されていても性能が限定されていたりします。さらに、AMDやQualcommのプロセッサではそのアーキテクチャや機能にも違いがあり、製品によってユーザのAI体験が大きく異なります。
一方、同一世代のAppleシリコンを搭載するMac間では、AI処理の中心となるNeural Engineの性能差がほとんどありません。さらにMacは、OS、プロセッサ、そして製品まですべてがAppleによる設計のため、AppleシリコンのAI性能を持て余すことなく、かつ優れたエネルギー効率で絞り出すことができるのです。

【URL】https://www.intel.co.jp/content/www/jp/ja/content-details/824443/2024-intel-tech-tour-lnl-architecture-session-highlights.html
ローカルAIで発揮されるAppleシリコンの優れた特徴
AIの利用は、AIサービスをインターネット経由で利用する「クラウドAI」と、パソコン内部でAIサービスを立ち上げて利用する「ローカルAI」に大別されます。たとえばチャットAIサービスであれば、OpenAIのChatGPTやGoogleのGeminiは代表的な「クラウドモデル」(オンライン)で、それをローカル(オフライン)で動くようにしたのがgpt-ossやGemmaなどの「オープンウエイトモデル」です。
ローカルAIはクラウドAIとは異なり、インターネットを経由してデータをやりとりしないため、適切に設定することで機密データやプライバシー情報の漏洩リスクを低減できます。このことは、社内文書、顧客情報、未公開資料、個人情報などをAIを利用して処理するうえで、極めて重要です。また、企業のシステムやデータベースを利用したり、RAG(Retrieval Augmented Generation:検索拡張生成)などを利用して知識や機能を拡張することもできます。

【URL】https://www.apple.com/jp/newsroom/2025/10/apple-unleashes-m5-the-next-big-leap-in-ai-performance-for-apple-silicon/
このようなローカルAIは、主にパソコン内のGPUで処理されます。このため、搭載されているGPUの性能とそのメモリ(ビデオメモリ)の性能が極めて重要になります。そして、賢いAIモデルほど多くのメモリ容量を必要とします。さらに、AIの処理速度はGPU性能とメモリ帯域(アクセス速度)で決まります。
AppleシリコンはUMA(ユニファイドメモリアーキティクチャ)を採用しており、統合メモリをCPUやGPUで共用します。このためWindows PCに比べて多くのメモリをGPUに割り当てることができ、より賢い(サイズの大きな)AIモデルを動かすことができます。

またAIの利用にはモデル領域以外にもメモリが必要です。たとえばチャットAI(LLM)では「コンテキストウィンドウ」と呼ばれる「これまでの会話履歴」を維持するためのメモリ領域(KVキャッシュ)が必要です。このメモリ領域が不足すると会話履歴を維持できず、対話を続けているうちに「さっき言ったことや話の前提を忘れる」といったことが起きてしまいます。
圧倒的なスケーラビリティを誇るMac向けAppleシリコン「Mシリーズ」
さらに大規模な(強力な)AIモデルを動かすうえで重要となるのが、Appleシリコンの圧倒的なスケーラビリティです。MacにはエントリーモデルのMをベースとして、M Pro、M Max、M Ultraといった上位プロセッサが用意されています。
これらのプロセッサではメモリ帯域(アクセス速度)を2倍、4倍、8倍に拡張し、そこにより多くのGPUコアを載せています。さらに、上位モデルほど大容量のメモリを搭載できます。これにより上位モデルを選択することでAI性能がストレートに向上できる点が、Windows PCに対する大きなアドバンテージになっているのです。

最近ではgpt-ossやGemmaに代表されるチャットAIや、StableDiffusionに代表される画像生成AIに加えて、OpenClawなどの「AIエージェント」も手元のパソコンで動かせる時代になりつつあります。AIエージェントは対話やマルチモーダルな生成といった「受身」なAIではなく、自律的に与えられた「目標」を達成する「能動的」なAIです。それだけにセキュアな環境で動かせるローカルAIとして、今後ますます活躍の場が広がることは間違いありません。そのようなシーンではMacが持つ高い柔軟性とスケーラブルなAI性能は、利用者の期待に応えてくれる頼もしい存在だといえるでしょう。
