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「総合ヘルスケア機器」へ近づくApple Watchの現在地

著者: 朽木誠一郎

「総合ヘルスケア機器」へ近づくApple Watchの現在地

「Appleが医療に注力している」ということは周知の事実だが、具体的な用途への一般利用者の解像度は未だに低い。実際には、医療やアスリートを対象にした機能など、それが欠かせない人へのアプローチを強めるApple。今後の方向性を読み解くヒントの詰まったApple WatchのwatchOS 9について紹介する。

身近すぎる医療機器

今、アップルウォッチ(Apple Watch)は“世界でもっとも身近な医療機器”と言える。

アップルウォッチの「不規則な心拍の通知」プログラムが国内で医療機器として承認されたのは2020年9月のこと。??この認証をもって、2021年1月にアップルウォッチの「心電図(ECG)」アプリおよび同プログラムが国内でも利用可能になったことは、本連載でも過去に取り上げた。

そして、2022年9月に提供開始されたwatchOS 9では、こうした機能がさらに強化されただけでなく、「服薬」アプリケーションやアスリート向けのワークアウト管理機能を搭載するなど、健康を総合的にケアするデバイスへと進化を遂げている。

一方で、アップデート以前に、たとえば「心電図」アプリにどんなことができるのか、具体的に把握している人は未だにそう多くないだろう。身近すぎるがゆえに、意外と知らないアップルウォッチの機能。そこで今回はwatchOS 9の変更点を改めて紹介。現在地から同デバイスの今後を考える。

「心電図」がさらに進化

まず、今回アップデートされた「心電図」関連の機能に触れよう。もともと「心電図」アプリでは、利用者がアップルウォッチのデジタルクラウンに30秒、指を当てることで心電図情報を取得することができる(アップルウォッチ・シリーズ4以降)。そのうえで、問題のない波形、心房細動(不整脈の一種)など注意が必要な波形、低・高心拍数、判定不能のいずれかに分類する。

  「不規則な心拍の通知」プログラムでは、アップルウォッチがバックグラウンドで測定している心拍リズムから、心房細動の兆候がある不規則な心拍を検出し、通知する。心房細動は血栓を生じさせ、血管が詰まることで、脳梗塞などの病気の原因になることがある。

アップルウォッチは初期から心拍数のデータを測定できるが、もっぱらエクササイズ目的のもの。しかし、この機能がきっかけで心臓の病気が発見される例が続いたことで心拍リズムも測定できるようになり、米スタンフォード大学と共同で起ち上げ40万人が参加した研究「アップル・ハートスタディ(Apple Heart Study)」を経て、今に至る。

watchOS 9ではこれに加え、心房細動と診断された利用者に対し、「心房細動履歴」機能を一部の地域に提供する。これにより、心拍リズムに心房細動の兆候が現れたおおよその頻度を確認できるようになる。

アップルウォッチを7日間のうち5日間(1日12時間)以上装着している場合は、毎週月曜日に「この1週間のうちの4%、あなたの心拍は心房細動の兆候を示していました」のように、前の週に心房細動が起きていた時間の推定値を含む通知を受け取ることが可能だ。

関連して「ヘルスケア」アプリでは、心房細動に影響を及ぼす可能性がある睡眠、アルコール摂取量、運動などの生活習慣関連因子を含む詳細な履歴も合わせて確認できる。利用者はこれらの情報が記載されたPDFをダウンロードし、医療者に共有できるというシステムだ。

服薬関連機能を搭載

医療関連では、ほかに、服薬管理に乗り出したのが印象的だ。利用者はアップルウォッチとiPhoneで服薬リストを作成し、服用スケジュールとリマインダーを設定。薬の情報を「ヘルスケア」アプリで確認することによって、薬、ビタミン、サプリメントの管理と記録ができるようになる。また、米国のみの機能として、利用者は、「ヘルスケア」アプリに追加した薬の間で重大な相互作用を引き起こす可能性がある場合に、通知を受け取ることができる。

こうした個人情報は重要性の高いものだが、アップルによれば、「ヘルスケア」アプリにある健康とフィットネスのデータは、メディカルIDを除いてすべて暗号化され、アイクラウド(iCloud)にバックアップされたデータもすべて、送受信中、アップルのサーバ上で保存されている場合を問わず、暗号化されるという。

服薬管理だけを目的としたサードパーティアプリもあるほど、必要性の高い機能。それが標準で搭載されることは、アップルの医療領域への興味の表れでもある。また、アップルウォッチがアーリーマジョリティよりも後ろにいる高齢者を利用者として想定していることも示唆に富んでいる。

「医療」「アスリート」へ進展

ヘルスケア関連では、「睡眠」アプリに「睡眠ステージ」が追加された。アップルウォッチは加速度センサと心拍数センサからの信号を使い、利用者がレム睡眠、コア睡眠、深い睡眠の状態にあることを検知、記録する。ただし、これについては、たとえばフィットビット(Fitbit)やガーミン(Garmin)といったアクティビティトラッカーには標準的に搭載されている機能と言え、ある意味で“追いついた”ものだ。

また、「ワークアウト」アプリにもアップデートが施された。デジタルクラウンを回してワークアウト表示を切り替えたり、心拍数ゾーンの範囲を設定できるようになった。カスタムワークアウトでは「ペース」「パワー」「心拍数」「ケイデンス(自転車の回転数)」などの新しい通知が盛り込まれ、トライアスロン選手に向けた「マルチスポーツ」機能では、ランニング・水泳・バイクが自動的に切り替わる。これも同様に、アクティビティトラッカーでは珍しくない機能だ。

こうしてみると、総じてアップルウォッチはヘルスケアに置いた軸足の一つを、これまで医療機器が個別に担ってきた「医療」と、アクティビティトラッカーの「アスリート」へと進展していることが窺える。標準機能を活用できれば服薬アプリをダウンロードしなくて済むように、ヘルスケア関連機能を「これ1台」に集約。もっとも身近かつ他を寄せつけない「総合ヘルスケアデバイス」に近づいていると言える。

9月13日に提供開始されたApple Watch用OSの最新バージョン「watchOS 9」。「健康でアクティブな生活を送るため」として、医療やワークアウトなどヘルスケア領域の新機能が多数搭載された。【URL】https://www.apple.com/jp/watchos/watchos-9/

「Apple Fitness+」との連係が深まり、画面上にガイダンスが表示され、個人のフィットネス指標と合わせて対応テレビとデバイスで確認できるようになった。なお、原稿執筆時点で日本はサービス対象外。

watchOS 9では「ワークアウト」アプリが大幅にアップデート。デジタルクラウンを回してワークアウト表示を切り替えたり、心拍数範囲を設定できるように進化した。

心拍リズムに心房細動の兆候が現れたおおよその頻度を「心房細動履歴」で確認できる。また「ヘルスケア」アプリでは健康状態に影響を及ぼす生活習慣関連因子を含む詳細な履歴を確認できるようになった。

watchOS 9では「睡眠」アプリに新しく「睡眠ステージ」が加わった。加速度センサと心拍数センサからの信号を使い、利用者がレム睡眠、コア睡眠、深い睡眠の状態にあることを検知する。

新たに追加された「服薬」アプリでは、薬の服用に関するカスタムスケジュールを作成し、リマインダーを設定して、記録に役立てることが可能だ。

watchOS 9のココがすごい!

□ 日本でも医療機器認定された心電図機能のさらなるアップデート

□ 心拍数範囲やマルチスポーツなどアスリート対象の機能の拡充

□ 医療機器やアクティビティトラッカーをリプレイスする戦略か?