想像力を掻き立てられたデザイン
今や、AppleがMacへの光メディアドライブの内蔵をやめて久しく、また、コンピュータからスマートフォンまでAV機能は搭載されて当たり前の時代になっている。しかし、Mac Fanが創刊された1993年に、それらの仕様を備えた「Macintosh Centris 660av」と、その上位モデルでタワータイプの「同840av」は、まさに当時の花形機種であり、Sビデオとコンポジットビデオの入出力端子を内蔵していた。
1993年2月に発売されたCentris 610から平たいピザボックススタイルの筐体を引き継いで、同年7月にデビューしたCentris 660avは、単体ではMacらしい個性があまり感じられない。しかし、ステレオスピーカを内蔵した「Apple AudioVision Display」と、ハの字型に角度調整可能な「Apple Adjustable Keyboard」を組み合わせると、俄然、マルチメディアワークステーション風になり、この上でさぞ素晴らしいコンテンツが作られていくのだろうと、想像力を掻き立てられたのである。
ちなみに、広告写真の左下に見えるACアダプタのようなボックスは「Apple GeoPort Telecom Adaptor」という。何とも大袈裟な名称だが、その正体は一般電話回線を利用して通話やファクスの送受信を行うためのインターフェイスボックスであり、コンピュータで何でもこなしてしまおうと考える当時のハイエンドユーザにとっては必需品だった。
当時のマルチメディアコンピュータの1つの到達点
さて、広告写真をよく見てみると、メインのキャッチに「In fact,they’ll do just about anything you tell them to.(実は、「彼ら=Centris 660avと840av」は、言われたことをほとんど何でもこなします)」とあり、各部の引き出し線の先にある英語の説明には、それぞれ「コンピュータ、今日のメールを読み上げて」、「コンピュータ、マイケル・ダンに電話して」、「コンピュータ、スティーブ・ウィンゲイトに手紙をファクスして」、「コンピュータ、CDを再生して」と書かれている。なんと30年前に、両モデルはボイスコマンド機能を備えていたのである(バンドルされたサードパーティ製の拡張機能で、カスタムコマンドも作成できた)。
とはいえ、英語のみの対応で、柔軟性にも欠けていたため、実際に利用される機会は少なかったと思われ、本格的なボイスコントロール機能の普及はSiriの登場以降のこととなった。
さらに、この時期のAppleは、1年で37機種もの新型機や改良モデルの発表が行われるなど、製品的にも組織的にも財政的にも混乱しており、Centris 660avはわずか3カ月後の10月に同一の仕様でQuadra 660avと改名されてしまう。Centris 660avは、その時点のハイエンドCPUだったMC68040を搭載していたが、Appleとしては、4を意味するquadからの造語である「Quadra」のシリーズ名に変えることによって、高性能イメージを強調したかったのだろう。
それでもAV Macシリーズは、当時のマルチメディアコンピュータの1つの到達点であり、実際に購入したユーザはもちろん、そうでないユーザにとっても、Macにはまだ未来があるという夢を見させてもらった製品だったのである。
※この記事は『Mac Fan』2023年10月号に掲載されたものです。
著者プロフィール
大谷和利
1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、神保町AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。



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