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“木製ヘッドフォン”「ヒダノオト」レビュー。AppleのEarPodsを装着して楽しむ、温もりあるサウンドと癒しの香り

著者: 佐藤彰紀

“木製ヘッドフォン”「ヒダノオト」レビュー。AppleのEarPodsを装着して楽しむ、温もりあるサウンドと癒しの香り

筆者がネットを巡回中に発見した、ユニークなヘッドフォン「ヒダノオト」を紹介したい。

かつてiPhoneやiPodなどに標準で付属していたイヤフォン「EarPods」はご存じの方も多いだろう。「ヒダノオト」は、そんなEarPodsをサウンドドライバとして利用する木製ヘッドフォンだ。木材加工には、木工職人の伝統工芸技術が使用されている。

本記事では、随所に職人のこだわりが込められた「ヒダノオト」の開発背景と、実際の使用感をお届けする。

トヨタ自動車の高級ブランド・LEXUSが主導するプロジェクトから誕生

ヒダノオトは2017年、「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」という、地域の特色や技術を活かしながら、自由な発想で新しいモノづくりに取り組むプロジェクトの一環で制作された。各都道府県の新聞社などが推薦した地元の職人の中から、主催のLEXUSに選ばれた者が参画できるプロジェクトだ。ガラス職人や、陶芸家、切子職人など、全国各地の歴史ある技術をもつ匠たちが選出される。プロジェクトが目指すのは、伝統技術を使った、今までにないまったく新しいプロダクトだ。

ヒダノオト製作者の塩谷英雄氏は、岐阜県飛騨高山の木工職人として選ばれた。以前から木製のネクタイや、スマートフォンカバーなど、木工技術を使った斬新なプロダクトづくりを行ってきたことが評価につながったのだろう。

「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」は各都道府県のさまざまな分野の匠を選出し、今までに内容な新しいプロダクトを作りだすプロジェクトだ。塩谷氏は2017年に集められた51人のうちの一人。写真⚫︎LEXUS

音質を追求した構造と素材。ヒノキとカエデでEarPodsを包み込む

プロジェクト中はいくつも試作品を作り、きれいに音が鳴る構造を追い求めたという。

音質を追い求めて作られた試作品。素材、形状によって聴こえる音が異なる。写真⚫︎nokutare

その結果できたのがイヤーカップの三層構造だ。音を反響させる役割を持つ中間層には、よく響くように硬い木材「カエデ」が使用されている。

そして、通常のヘッドフォンではイヤパッドと呼ばれる内側の部分と、外側の部分には、柔らかくて風合い優しい「ヒノキ」が用いられた。仮に、耳に当たる部分が硬い「カエデ」で作ってしまうと耳が痛くなってしまうという。使用される木材はもちろん飛騨高山のものだ。

イヤカップは「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」の中で一度完成させた。しかし、そこからさらに1年をかけて形状を変化させ、音質を改良させたのが現在販売しているヒダノオトだ。

ヒダノオトのイヤーカップ部分。3つの木材を組み合わせており、上下は「ヒノキ」、中間は「カエデ」が使用されている。

ドライバとして使用するイヤフォンは、塩谷氏が市販で手に入りやすいもの10種類以上を聴きくらべた結果、もっとも音がよく聴こえるAppleのEarPodsが採用された。EarPodsはヒダノオトに付属しないので、別途入手する必要がある。

ヒダノオトにEarPodsをセットした様子。装着用パーツは簡単に取り外せる構造になっている。

木製のイヤカップによって広がる音。ヒノキの香りでリラックスしながら、上質なサウンドを楽しめる

実際に体験してみた感想は、やや抽象的な表現となってしまうが、EarPods単体で聴くよりも音の広がりを感じた。木製の影響なのか、木管楽器の音がクリアに聴こえ、ピアノの音もトゲトゲしさが減った印象だ。音域による偏りもあまりなく、フラットに聴こえた。

また、このヘッドフォンには思いがけない機能があった。ヒノキの香りだ。目を閉じるだけで、森の中で音楽を聴いている気分になれる。ゆったりと音楽を聞きたいとき、リラクゼーション効果が期待できるそうだ。

前述のとおり、イヤパッドには柔らかい木材の「ヒノキ」が使われている。一般的なヘッドフォンのクッション素材よりは当然硬いのだが、筆者が検証した15分程度では、快適に使用し続けられた。しかし、どうしても長時間の利用には向かないと思う。ちょっとしたリラックスタイムに使うのが良さそうだ。

耳に当たる部分にはヒノキが使われている。木目が美しい。

ヘッドバンド部分は「曲げわっぱ」の技術で曲げ成形された木材2枚が使われている。頭の大きさに合わせて調整可能だ。

ヒダノオトのヘッドバンド部分。写真中央の牛革の留め具部分をずらすことで長さを調整できる。

伝統工芸を活かした3つのラインアップ

ヒダノオトは伝統工芸を活性化するプロジェクトの中で企画・制作された。そういった背景もあり、伝統工芸を活かしたラインアップが合計3つ販売されている。筆者が体験したプレーンタイプに加え、一刀彫タイプ、飛騨春慶タイプがある。

プレーンタイプ

もっともベーシックなモデルはプレーンタイプ。見た目にもシンプルで華美な装飾がない分、より木のぬくもりをダイレクトに感じることができる。

もっともベーシックなプレーンタイプ。木目がしっかり見えるので木のそのものの良さを感じることができる。

一刀彫タイプ

飛騨高山の技術をさらに盛り込んだタイプのひとつは一刀彫タイプ。「一位一刀彫」と呼ばれる飛騨高山の伝統工芸品に使われる彫加工だ。

伝統工芸士により手彫りされたイヤカップは、和の雰囲気を強く感じさせる。本来は一位(イチイ)と呼ばれる木材を加工した彫り物だが、ヘッドフォンのカエデ部分にその技術を流用している。

一刀彫タイプ。イヤカップのカエデ部分に彫り加工が施されるだけで、プレーンタイプと比べて雰囲気がガラッと変わる。

飛騨春慶タイプ

もうひとつは、飛騨春慶タイプ。こちらも伝統工芸品に由来するもので、「飛騨春慶」は漆器の一種だ。木材に着色を施し、透明度の高い透漆(すきうるし)と呼ばれる漆を塗り上げる。塗りの中に綺麗な木目が強調される、高級感漂う逸品だ。

飛騨春慶タイプ。イヤカップには美しい光沢の中に木目が見てとれる。

いずれも塩谷氏のブランドサイト「nokutare」で購入することができる。受注制作品なので、発送は注文後2〜3カ月後。ヒノキ香る木製ヘッドフォンを手に入れたい方は、少々の辛抱が必要なようだ。

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著者プロフィール

佐藤彰紀

佐藤彰紀

『Mac Fan』編集部所属。ECサイト運営などの業務を経て編集部へ。好きなものは北海道と競技ダンスとゲーム。最近はXR分野に興味あり。

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