筆者は、ライターとしてもう長いことイヤフォン・ヘッドフォンを取材している。そのため、個人としてはかなり前から“日常”になっていたが、ここ数年で、街中でワイヤレスイヤフォンをハンズフリー通話で使っている人をよく見るようになった。
人々の習慣を変えた大きな要因のひとつは、リモートワークが普及したことだと思う。もうひとつの理由は、耳をふさがないオープンスタイルのイヤフォンに良質な製品が出揃ったからにほかならない。
オープンスタイルのイヤフォンに対する注目がピークに到達した感のある2024年末。NTTソノリティは、“音漏れ”を抑えつつクリアな音声通話品質も叶える、独自技術を搭載するワイヤレスイヤフォン「nwm DOTS」を発売した。どんなイヤフォンなのか、実機レビューしていこう。
nwm (ヌーム) オープンイヤー型 完全ワイヤレス 耳スピーカー nwm DOTS | 耳をふさがない イヤホン 耳スピ …
nwm(ヌーム)とは? NTTの独自技術を投入したオーディオブランド
nwm DOTSは、耳に掛けて装着する左右独立型のワイヤレスイヤフォンだ。価格は2万4200円で、5つのカラーをラインアップしている。
nwm(ヌーム)は、NTTグループが研究開発により培ってきた独自技術を活かし、音響関連の事業を担うNTTソノリティのオーディオブランドだ。2021年に設立したばかりのまだ若い会社だが、オーディオリスニング用の有線・無線のイヤフォンをハイペースで商品化してきた。
今年はフラグシップモデルの「nwm ONE」も発売。「耳をふさがないワイヤレスヘッドフォン」という新しいカテゴリを立ち上げた。
nwm(ヌーム) オープンイヤー 型 オーバーヘッド 耳スピーカー nwm ONE | 耳をふさがない ヘッドホン Blue…
nwm DOTSも独自の音響技術が投じられたユニークな製品だが、その特徴を際立たせる2つの技術がある。
NTT独自の音響技術①:PSZ(Personalized Sound Zone)
そのうちのひとつが、「PSZ(Personalized Sound Zone)」だ。内蔵するスピーカで「音を出す」ことと「音を打ち消す」ことを同時に行い、「音漏れ」を減らすことを目的としている。NTTソノリティでは、PSZを採用するオープンスタイルのイヤフォン・ヘッドフォンをすでにコンシューマ向け商品化にしたが、たとえば聴いているサウンドが周囲にもれない「航空機や自動車のシート(ヘッドレスト)」のような、業務用製品の開発も検討が進められている。
NTT独自の音響技術②:Magic Focus Voice
もうひとつが、音声通信の高音質化をひたむきに探求してきたNTTらしさが際立つ、「Magic Focus Voice」という音声明瞭化技術だ。NTTが特許を取得している。
Magic Focus Voiceは、雑音の多い環境で通話する「ユーザの声」だけをクリアに拾う技術。nwm DOTSの場合、「nwm Connect」アプリから機能のオン/オフを切り替えられる。
賑やかな場所で家族にイヤフォンを装着してもらい、Magic Focus Voiceの効果を確かめてみた。人の話し声や店舗のBGMのようなノイズ成分をnwm DOTSは強力に消してくれる。当然ながら話者とノイズ源との距離によっては消し切れない場合もあるが、nwm DOTSが内蔵するマイクが高品質なためか、バックグラウンドノイズよりもユーザの声が前方に押し出されているような印象だ。ハンズフリー通話用に、とても良いワイヤレスイヤフォンだと思う。
“空気伝導型”のnwm DOTS。音質はいかに? iPhoneに接続して検証する
nwm DOTSは、耳をふさがないオープンスタイルのワイヤレスイヤフォンだ。同じスタイルのイヤフォンには、Shokz(ショックス)の「OPENRUN」シリーズに代表される骨伝導型のイヤフォンもあるが、nwm DOTSは耳にスピーカを近接させて聴く空気伝導型のイヤフォンである。
nwm DOTSの音質やPSZの効果を試すため、iPhone 16につないで音楽を聴いた。
一般的に、空気伝導は骨伝導よりも音のバランスが良く、音楽や通話音声が自然な聞こえ方になる。また、nwm DOTSはNTTソノリティが設計した12ミリの大口径ダイナミック型ドライバを搭載しているため、音のバランスが良いだけでなくとても力強い。特に、声の伸びやかさと低音の肉付きの良さが印象的だ。ボーカルをハイライトしたロックやポップス、量感豊かな重低音を含むヒップホップなどの音源にもよく合った。
気になる“2種類の音漏れ”。外でも音楽を楽しめる? そして、ほかの人に迷惑はかからない?
AirPods Proのように、シリコン製のイヤチップとアクティブノイズキャンセリングの機能で「静かな環境」をつくり出せるワイヤレスイヤフォンに比べると、オープンスタイルのワイヤレスイヤフォンは“2種類の音の漏れ”に弱い。
1つは、装着時に耳をふさがないため、音楽リスニング中にも周囲の環境音が漏れて聞こえること(これはメリットでもある)。ただ、ボリュームを上げれば音楽もしっかりと聴くことができた。
2つ目は、いわゆる音漏れだ。その形状ゆえに避けられなさそうだが、PSZ技術の効果もあり、カフェなど賑やかな場所であれば問題なく使うことができた。家族や友人の協力を得て検証したところ、音楽のボリュームを60〜70%ぐらいまで上げても、周囲が気になるほどには“漏れない”ようだ。
iPhoneで動画コンテンツを視聴するときは、nwm Connectアプリのオーディオイコライザ機能で音のバランスを「Clear Voice」に設定したり、[ユーザー設定]から聴きやすいバランスに整えたりすると、セリフやストーリもしっかりと追うことができた。
「テールチップ」を用いた独特の装着スタイル。買う前に必ず試着してみよう
nwm DOTSは、装着方法が少し変わっている。シリコン製のイヤフックで耳に掛けるスタイルだが、イヤフックの形状が固定されており、曲げ伸ばしができないのだ。
代わりに、シリコン製の「テールチップ」と名付けられたパーツをS/M/Lの3サイズから選び、イヤフックの任意の位置に装着してバランスを整える。筆者は耳の形が特殊なので、このバランス調整に少し手こずった。これからnwm DOTSの購入を検討する方は、買う前に必ず実機を試着してみてほしい。
振り返れば、2024年もさまざまなブランドがオープンスタイルのイヤフォンを発売した。充実した音質と音漏れの少なさを考えれば、2万円台中頃のnwm DOTSは、最先端のオープンスタイルのイヤフォンとして価値ある買い物になるだろう。AirPods ProやAirPods 4のようなアクティブノイズキャンセリング機能搭載のイヤフォンと、上手く使い分けながら楽しみたいものだ。
おすすめの記事
著者プロフィール
山本敦
オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。ITからオーディオ・ビジュアルまでスマート・エレクトロニクスの領域を多方面に幅広くカバーする。最先端の機器やサービスには自ら体当たりしながら触れて、魅力をわかりやすく伝えることがモットー。特にポータブルオーディオ製品には毎年300を超える新製品を試している。英語・仏語を活かし、海外のイベントにも年間多数取材。IT関連の商品企画・開発者へのインタビューもこなす。