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Thunderbolt 5とは何か。M4 Pro/M4 Maxチップ搭載Macに採用された、次世代インターフェイスの全容に迫る

著者: 今井隆

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Thunderbolt 5とは何か。M4 Pro/M4 Maxチップ搭載Macに採用された、次世代インターフェイスの全容に迫る

画像●Intel

Appleが2024年10月29日、30日に発表したM4 Pro搭載のMac mini、そしてM4 Pro/M4 Max搭載のMacBook Proには、次世代インターフェイス「Thunderbolt 5」が採用された。Thunderbolt 5は、前規格であるThunderbolt 4の2倍の転送速度という、圧倒的なスペックを備えている。

ThunderboltとUSB。まったく別のインターフェイス規格として登場した“生い立ち”を振り返る

Intelは2022年10月19日、Thunderbolt 4の後継規格となるインターフェイス「次世代Thunderbolt」(The Next Generation of Thunderbolt)の概要を発表。そして2023年9月には、正式に「Thunderbolt 5」のブランド名でリリースした。Thunderbolt 5の詳しい説明に入る前に、まずThunderboltとUSBの生い立ちについて説明していこう。

もともとUSBとThunderboltは、まったく別のインターフェイス規格として登場した歴史がある。USBはそれまで周辺機器ごとに異なっていたさまざまなインターフェイス規格を一本化し、かつ動作中に挿抜可能なPnP(プラグアンドプレイ)機能を持たせることを目標に開発された。最初のメジャーリリースは1996年のUSB 1.0(最大12Mbps)で、その普及にはレガシーインターフェイスを全廃した初代iMac(1998年)が大きく貢献。USBは、その後2000年リリースのUSB 2.0(最大480Mbps)、2008年リリースのUSB 3.0(最大5Gbps)へと進化した。

一方Thunderboltは、Intelが複数のチップを接続する目的で開発した光インターコネクト技術「Light Peak」がベースとなっており、その規格化においてAppleが協力し、Mini DisplayPortコネクタを採用するThunderbolt 1.0(最大10Gbps)が2011年にリリースされた。これはシステムのバックボーンであるPCIe(PCI Express)を外部接続することを目的に設計されており、同時にDisplayPort信号も伝送できる仕様となっている。2013年には最大20GbpsをサポートするThunderbolt 2へとアップデートされた。

Thunderboltは、2011年にMini DisplayPortコネクタを利用したインターフェイスとして誕生し、同年リリースされたMacBook Proに搭載された。2015年に登場したThunderbolt 3では、USB規格との統合によってUSB-Cコネクタに更新され現在に至っている。
画像●Intel

Thunderboltの大きな転機。ポートの変更と機能の拡充で、USBの“上位規格”へ

大きな転機が訪れたのは、2015年にリリースされたThunderbolt 3だ。このインターフェイスはそれまでのMini DisplayPortに代わって、USB 3.1で新たに規定されたUSB-Cポートに変更された。この時点でThunderbolt 3はUSB 3.1規格を取り込み、さらにThunderboltの特徴であるPCIeのトンネリングとDisplayPortの伝送をサポートした。

つまり、Thunderbolt 3はUSB 3.1の上位規格となったわけだ。同様に、2020年リリースされたThunderbolt 4では、その前年にリリースされたUSB 4(Version 1.0)の上位規格となっている。そしてThunderbolt 5は、2022年10月18日に発表されたUSBの最新規格USB 4 Version 2.0の上位規格だ。

USB規格は、パソコンやスマートフォンなどのITデバイスだけではなく、テレビやオーディオなどのAVデバイスなどにも広く普及が進んでいる。そのため、高い性能が要求される機能の多くがオプション扱いだ。一方、高性能かつ高機能なプロセッサと組み合わせて使用することが前提となるThunderboltでは、USBの「オプション」項目を含め、その機能の多くが「必須」に指定されている。Thunderbolt対応製品がUSB対応製品より高価なのも、より高いスペックが要求されることの影響が大きい。

上図は、ThunderboltとUSBの違いをまとめた表。さまざまなデバイスの標準インターフェイスとしての位置づけを目指すべく標準仕様を低く設定するUSBと、コンピュータ用途に絞って高性能かつ高機能なフル規格を目指すThunderboltという、目的の違いがある。
画像●Intel

前規格の最大2倍の転送速度。Thunderbolt 5の実力とは?

Thunderbolt 5とUSB 4 Version 2.0に共通する特徴は、転送速度が従来の最大40Gbpsから最大80Gbpsへと高速化されている点だ。信号伝達の物理層(PHY)にPAM3符号化と伝送周波数の変更を組み合わせることで、従来の2倍の転送速度(理論値最大80Gbps)を獲得。USB-Cには双方向に最大40Gbpsの伝送路が2レーンずつあるため、これによって上り80Gbps(40Gbps ×2)、および下り80Gbps(40Gbps ×2)を実現している。

さらに、非対称伝送(帯域ブースト機能)に対応し、たとえば送信3レーン、受信1レーンの構成とすることで送信最大120Gbps、受信最大40Gbpsという構成もサポートする。1本のケーブルを使ってDisplayPortで外部に8KディスプレイをHDR(High Dynamic Range)表示しながら、最大40GbppsのThunderbolt、またはUSB通信を同時に行うといった使い方も可能だ。なお、これに合わせて、DisplayPortも対応規格がDisplayPort 1.2からDisplayPort 2.1へとアップデートされている。

Thunderbolt 5はUSB 4 Version 2.0と同じくPAM-3と呼ばれる符号化技術を用いることで、従来の2倍の転送速度を実現する。これは従来のPAM-2が0か1かの2値で信号を伝達していたのに対して、-1、0、1の3値を用いる。
画像●Intel

ThunderbotとUSBの最大の違いは、PCIeトンネリング機能のサポートにある。ThunderboltではPCIeトンネリングは必須機能だが、USBではオプション機能となっている点に注意が必要だ。

USB-CにはUSB、DisplayPort、そしてPCIeの3つのプロトコルを通すことができる。このうちUSBとDisplayPortは外部インターフェイス(周辺機器を接続するための機能)だが、PCIeは内部バス(システムのバックボーン)だ。このためPCIeさえあれば、おおよそどのようなインターフェイスにでもネイティブで変換することができる。従来のThunderbolt 3およびThunderbolt 4では、トンネリングできるPCIeはGen.3 x4だったが、Thunderbolt 5ではGen.4 x4を扱えるようになった。

Thunderbolt 5はUSB 4 Version 2.0を内包し、USB規格ではオプションに設定されているさまざまな拡張機能を標準化することで、これ1本であらゆる用途に対応できる高性能なインターフェイスを目指している。
図版●Intel

Thunderbolt 5対応のSSDもさっそく登場。Macの内蔵SSDを大きく超える速度を実現!

Thunderbolt 5の高速性を活かすものといえば、なんといってもSSDだろう。従来のThunderbolt SSDはPCIe Gen.3 x4で接続されるため、その転送速度は最大理論値である3940MB/秒を超えることができなかった。しかし、Thunderbolt 5なら最大理論値7880MB/秒まで引き上げられる。

実際にはオーバーヘッドなどにより7000MB/秒程度で頭打ちになると思われるが、それでも、この速度はMacの内蔵SSDを大きく超えている。市場にはすでにPCIe Gen.4 x4やGen.5 x4のNVMe SSDが登場しているので、今後の伸びしろにも期待できるだろう。

OWCのEnvoy Ultraは、Thunderbolt 5に対応した外付けSSDだ。IntelのThunderbolt 5アクセサリコントローラ「JHL9480」とPCIe Gen.4×4のNVMe SSDを搭載し、6000MB/秒以上の転送速度を謳う。
図版●OWC ASIA

現在リリースされているThunderbolt 5対応のSSD(ケースを含む)やドッキングステーションには、IntelのThunderbolt 5コントローラ「Barlow Ridge」が使用されている。Barlow Ridgeは、JHL9480アクセサリコントローラとJHL9580コントローラの2モデルがリリースされているが、ドッキングステーションなどの周辺機器にはJHL9480が使用されることが多い。

Intelは現在、2モデルのThunderbolt 5コントローラチップ「Barlow Ridge」をリリースしている。1つは、おもにPCなどホストデバイスに使われるコントローラ「JHL9580」。もう1つが周辺機器向けのアクセサリコントローラ「JHL9480」だ。

MacのThunderbolt 5対応は“起爆剤”。その高速性を活かした、周辺機器の登場に期待しよう

ほかにもPCIeの高速化によってメリットを受けるのが、PCIeエクステンダと呼ばれる外部拡張ボックスだ。ThunderboltはPCIeトンネリングを標準サポートするため、外部にPCIeカードを接続できる。そのThunderboltをPCIeスロットに変換するのが、PCIeエクステンダだ。

PCIe高速化のメリットをもっとも受けるのがGPUカードなのだが、残念なことに、AppleシリコンMacはeGPU(外部GPUカード)をサポートしない。それでも、2023年にリリースされたM2 Ultra搭載のMac Pro向けにリリースされたプロ向けの拡張カードのうちいくつかは、PCIeエクステンダで動作することが確認されている。

つまりM4 Pro搭載Mac miniでも、Mac Pro向けのPCIe拡張カードが使える可能性があるわけだ。現在リリースされているPCIeエクステンダはThunderbolt 3または4対応のものだが、いずれBarlow Ridgeを搭載し、PCIe Gen.4カードが使えるものが登場するだろう。

M2 Ultra搭載Mac Pro用に、各社からさまざまなPCIeカードが発表された。大容量SSDアレイ、25Gbpsネットワーク、ビデオ/オーディオ入出力、ファイバーチャネルなど、プロ向けのインターフェイスが用意されている。
画像●Apple
Thunderbolt/PCIeエクステンダは、Thunderboltインターフェイスを介してPCIeカードを接続できる拡張ボックス。Appleシリコン搭載Macに対応する製品がSonnet Technologiesからリリースされており、同社のサイトには対応するPCIeカードの情報も掲載されている。
クレジット:Sonnet Technologies

一方DisplayPort 2.1は、Thunderbolt 5でサポートされたからといってそのフル機能が使えるわけではない。Thunderbolt 5では1つのポートで8Kディスプレイを最大2台、または4Kディスプレイを最大4台をサポートできる。しかし、それはThunderbolt 5(DisplayPort 2.1)というインターフェイスがそれを伝達するキャパシティを持っているということであって、実際に表示できるかどうかは、ホストデバイスであるMacのディスプレイエンジンの表示能力に依存するためだ。各Macの表示能力は、おもに搭載されたAppleシリコンに依存するため、実際の表示能力はMacの仕様を確認する必要がある。

このように、Thunderbolt 5を取り巻く環境は徐々に充実していくと推測できる。そして、その高速性を活かした周辺機器が今後各社から登場するはずだ。今回、多くのMacにThunderbolt 5が標準装備されたことは、その流れを加速する起爆剤となるに違いない。

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著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

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