※本記事は『Mac Fan』2022年7月号に掲載されたものです。
–読む前に覚えておきたい用語–
次世代無線LAN技術「Wi–Fi 7」とは?
まず最初に断っておくと、2022年5月時点で「Wi-Fi 7」は正式名称ではなく、その名になることが予定されている段階に過ぎない。しかし、Wi-Fiアライアンスのホームページ(Awi-fi.org)中の「Current Work Areas(現在の作業領域)」でも、「IEEE802・11be規格に基づいて開発中のWi-Fi 7は、次世代の重要なWi-Fi技術の進化となる」と明記されており、Wi-Fi7が「IEEE802・11be」(以下、11be)ベースの次世代Wi-Fi規格となることは間違いなさそうだ。では、そのベースとなる11beとはどんな技術なのか、その特徴を探ってみよう。
最大の特徴はその転送速度で、物理層(PHY)の理論値は最大46Gbps、論理層(MAC)のスループットは最大30Gbpsになるという。これは、現在のWi-Fi 6(IEE802・11ax)の実に5倍の最大転送速度だ。これを実現するため、11beでは従来の2倍の周波数帯域(320MHz)のチャンネル幅、従来の2倍の空間ストリーム「16×16 MIMO」、新たな変調方式「4096QAM」などがサポートされる。
その中で320MHz幅のサポートに欠かせないのが、新しい無線周波数である6GHz帯の利用だ。従来のWi-Fiでサポートされていた2.4GHz帯および5GHz帯に加えて、新たに広帯域の6GHz帯を加えることで全体的な利用帯域を大幅に拡張している。6GHz帯の利用は先行するWi-Fi 6Eですでに導入されていたが、11beではその利用を加速させているのが大きな特徴となっている。
さらに11beでは、隣接しないチャンネルを束ねて利用する「リンクアグリゲーション」技術も導入される。これは4G/5G通信において複数のバンドを束ねて高速化や安定化を実現する「CA(キャリアアグリゲーション)」と類似した技術で、2.4GHz帯、5GHz帯、6GHz帯の利用可能なチャンネルを複数束ねることでさらなる高速化を実現するものだ。その実現のために11beでは、1つのMAC層が複数のPHY層を束ねて制御できるよう設計されている。
規格策定は段階的 2022年内には対応製品も?
このようにさまざまなメリットが期待される11beだが、その標準化は段階的に進められる予定だ。2021年5月に最初のドラフト(1.0)がリリースされ、今年上旬にも11beの最初の到達点である「Release 1(R1)」に相当するドラフト2.0が規定される見込みだ。その後も標準化が進められ、正式版となる「Release 2(R2)」は2024年の公開が予定されている。
市場ではまず「Release 1」に対応する製品が2022年末から2023年前にかけてリリースされ、2024年には正式版に対応する製品が登場すると見られる。規格の標準化よりも対応製品のリリースが先行する現象は、11n(Wi-Fi 4)時代から変わっていない。
台湾の半導体メーカー・MediaTek社は2022年1月、Wi-Fi 7の実働デモストレーションの結果を発表した。同社によれば4096QAMおよび320MHz幅の伝送により、W-Fi 6と同じアンテナ数(MIMO数)で2.4倍の転送速度を記録したという。2022年4月にはシンガポールの半導体メーカー・Broadcom社が、Wi-Fi 7チップセット5モデルを発表した。
また、米国のQualcomm社も2022年5月4日、Wi-Fi 7対応を謳うアクセスポイント向け第3世代プラットフォーム「Qualcomm Networking Pro」シリーズ4モデルを発表した。中でもハイエンドの「Networking Pro 1620」は320MHz幅クアッドバンド/16ストリームに対応し、最大33・1GbpsのPHY速度を実現するという。
このように11beに対応するハードウェアは着実に準備されつつあり、早ければ2022年内にもアクセスポイントや端末などの製品が各社から登場すると見られている。
ついに日本でも認可か? 6GHz帯のWi-Fi利用
このような状況の中、日本でもようやく6GHz帯のWi-Fi利用に向けた道筋が見えてきた。今年4月19日、情報通信審議会から「6GHz帯無線LANの導入のための技術的条件」の答申が総務大臣に提出された。その技術的条件は、周波数帯として5925MHzから6425MHzまでの500MHz帯域とし、空中線電力はLPI(Low Power Indoor)モードで200mW以下、VLP(Very Low Power)モードで25mW以下とすること、LPIモードの利用は屋内に限定すること、が規定されている。
米国やカナダでは5925MHzから7125MHzまでの計1200MHz帯域が利用可能で、空中線電力も日本の技術的条件より大きく設定されており、より高速かつ遠くまで届く。日本の条件は同じく500MHz帯域を認可している英国やEUの基準に近い内容となっているが、これは6GHz周波数帯を利用する既存インフラへの影響を考慮しているためだ。
日本では固定通信システム、衛星通信システム、放送番組中継システム、電波天文システムなどがこの帯域を利用しており、これらの既存インフラへの影響を最小限に抑えるべく、屋内利用への限定、周波数帯の制限や送信出力の抑制などが規定された形になっている。特に6425MHz以上を利用する放送番組中継システムや固定通信システムにおいては、既存利用者の合意が得られない、干渉が許容できないなどの理由から、今回の条件からは外された形になっている。総務省はこれらの課題については引き続き検討を継続する、としている。
総務省によれば、日本への6GHz対応製品の投入は2023年になると予想されていることから、遅くとも2022年内、早ければ同年夏にも6GHz帯のWi-Fi利用に向けた電波法改正が実施されると推測される。すでに海外では6GHz帯を利用するWi-Fi 6E対応製品が数多くリリースされており、これらの製品の利用制限が解除されて日本市場に入ってくることが予想される。そして2023年にはいよいよWi-Fi 7(R1)に対応した製品が国内向けにも登場し、新たなWi-Fi時代へと移行していくことになるだろう。iPhoneやMacなどでより高速なWi-Fiが利用できる日が待ち遠しい。