※本記事は『Mac Fan』2023年1月号に掲載されたものです。
– 読む前に覚えておきたい用語-
オルタネートモード(Alternate Mode) | プロトコルトンネリング(Protocol Tunneling) | USB4 |
---|---|---|
USB 3.1で規定されたType-Cには2対の高速信号ラインがあるが、このうち1対または2対をUSB以外の信号の伝達に使うモード。1対の場合はUSB 3.xとほかの信号との同時伝送が可能。DisplayPort Alternate Modeがもっとも普及している。 | Thunderbolt 3で採用され、USB4にも継承された伝送方式で、USBやDisplayPortを含むさまざまなプロトコルをカプセル化することで、同一の信号ライン上で同時に伝送できる。オルタネートモードからの置き換えが進みつつある。 | 2019年にUSB-IF(USBインプリメンターズフォーラム)によって規定されたUSB規格。コネクタ形状がType-Cに統一され、名称表記がシンプルになった。最大40Gbpsの転送速度を実現しUSB PD(Power Delivery)を標準サポートする一方で、オプション仕様も多い。 |
「Standard-A」に「mini A」… USB規格が複雑すぎる
USB規格を策定するUSB-IFは2022年9月30日、USBの仕様表記をUSB 3.xやUSB4といった規格名から「USB xGbps」といった速度表記に改めるガイドラインを発表した。そこにはUSB規格の表記が複雑になり、ユーザにわかりにくいといった現実がある。
初期のUSB規格であるUSB 1.1やUSB 2.0の時代は、その仕様は極めてシンプルだった。ホスト機器(Macなどのパソコン)はStandard-Aコネクタ、デバイス機器(周辺機器)はStandard-Bコネクタと区別され、1種類のケーブルでさまざまな機器同士を接続することができた。しかし携帯電話やデジカメなどの小型機器にとってStandardコネクタは大き過ぎることから、mini USBコネクタ(mini A、mini B、mini AB)が作られた。そののち、さらに小型化したmicro USBコネクタ(micro A、micro B、micro AB)が作られ、現在ではmicro USBが小型コネクタの主流になっている。コネクタの種類が増えたことで、それぞれを接続するケーブルもその組み合わせの数だけ必要になり、複雑化していった。
そしてその混沌に水を差すことになったのが、USB 3.0の登場だ。USB 2.0では2本(バスパワーとGND)の電源ラインと2本の信号ラインの計4本で構成されていたが、USB 3.0ではこれに1本(GND)の電源ラインと4本の高速信号ラインの計5本を追加した。Standard-Aはコネクタ内部に、Standard-Bはコネクタ上部に、それぞれ追加の5ピンを加えた形状を採用してUSB 2.0との互換性を確保した。一方、もともと小型なmicro USBは内部にピンを増設する余裕はなく、従来ピンに横並びで5本のピンを追加した奇妙な形のコネクタになってしまった。結果としてコネクタの種類は新旧含めると十種類を超え、接続ケーブルはさらに複雑になった。
コネクタは統一できたものの
そこに登場したのが、USB 3.1で追加されたType-Cコネクタである。Type-Cは1種類のコネクタでホストとデバイスの両方の機能、USB 2.0およびUSB 3.1の両方の規格を実現できる。つまりUSBは将来的にType-Cコネクタに集約され、シンプルなインターフェイスへと生まれ変わる、はずだった。しかしUSB 3.1以降のUSB規格では、先進性を備えたUSB Type-Cにさまざまな機能を付加したことで、同じType-Cポートでも機能の違いが生まれることになった。
1つ目はUSB 3.1で追加された10GbpsのGen 2の存在で、USB 3.0の5GbpsはUSB 3.1 Gen 1と改名された。さらにType-CはLightningのようにリバーシブルなコネクタを実現するために、従来のUSB 3.0コネクタの2倍以上の24本ものピンを備えている。2つ目はこれを有効利用すべく考案されたオルタネートモードで、追加されたもう1対の高速信号ラインまたは2対すべてをUSB以外のインターフェイスに利用する。オルタネートモードにはDisplayPortやHDMI、MHL、Thunnderboltなどが含まれる。3つ目はUSB 3.2で追加された「x2」モードで、前記のタイプCの2対の高速信号ラインを使って、10Gbps(Gen 1×2)および20Gbps(Gen 2×2)を実現する。問題はこれらの拡張機能の多くがオプション仕様とされていることで、同じタイプCでもその仕様はマニュアルなどのスペック表を見ないとわからない、という点だ。
この状況はUSB4になっても変わらなかった。USB4ではUSB 3.2で規定された多くのオプションが標準仕様に盛り込まれたが、USB4の新機能である40GbpsのGen 3×2はオプション仕様だ。そこに今年10月、最大80Gbpsを実現するUSB4 Version 2.0仕様が追加された。この発表の直後、USB規格を策定するUSB-IFは規格表記のガイドラインを改定し、「USB xGbps」という表示を行うよう求めた。つまり製品やパッケージにはUSB 3.x GenxやUSB4 Version x.xといった仕様表記ではなく、USB xGbpsといった消費者にわかりやすい速度表記に変更するよう改めたのである。
次世代Thunderboltは、USB4 Version 2.0を超えた“フルセット規格”
それでも、デバイスのUSBポートを見ただけではその仕様がハッキリとわからない点に大きな違いはない。それはUSBの仕様定義がフルセットではなく、ハイスペックを要する仕様をオプションとすることでベース仕様を低く抑えているためだ。オプション仕様を含めたフルセットを要求仕様として定義すると、採用できるデバイスが限定され、普及を阻害する恐れがある。今や情報機器インターフェイスのスタンダードとなったUSB規格としては、さまざまなデバイスに新規格を普及させるうえではやむを得ない判断だろう。結果として個々のデバイスがどのオプション仕様に対応しているのかは、デバイスの詳細スペックを確認しないとわからない状態になった。
一方でユーザの利便性を考えれば、ホストデバイスのUSBポート仕様はフルセットに統一されていたほうが好ましい。これにもっとも近いレベルにあるインターフェイス規格がThunderboltだ。Thunderbolt 3はUSB 3.xの、Thunderbolt 4はUSB4のベース仕様はもちろん、オプション仕様の大半をサポートした上位規格であり、事実上のフルセット規格と言える存在だ。現行のMacやiPad ProはThunderbolt 3またはThunderbolt 4のいずれかに対応しており、USB 3.xやUSB4対応の周辺機器を含めて接続互換性への不安がほとんどない。
USB-IFがUSB4バージョン2.0仕様を発表した翌日、Intelは次世代Thunderboltに関する発表を行った。その仕様はUSB4バージョン2.0をベースにPCI Express 5.0やディスプレイポート2.1のサポート(プロトコルトンネリング)を実現するとされている。次世代Thunderboltの正式名や正式リリース時期は不明だが、おそらくUSB4バージョン2.0仕様を内包するフルセット規格となり、早ければ1年以内に登場すると思われる。そしてIntelは、自社のプロセッサにそのホスト機能を統合するはずで、Appleシリコンもこれに続くと推測される。次期Macが次世代Thunderboltを搭載して登場する日が、今から楽しみだ。