AppleがiOS 15.8.7のセキュリティアップデートをリリースした。対象機種の中でもっとも古いのはiPhone 6s。10年前に発売された機種だ。なぜ、Appleはここまで古いiPhoneユーザに親切なのだろうか。もちろん、Appleはユーザを大切にする企業だが、その背後には利益の最大化という冷徹な計算もあるのだと思われる。
ソフトウェアとセキュリティ。2種類のアップデート
iOSのアップデートはリリースされたらすぐにした方がいいのか、しばらく待ってからした方がいいのかは悩みどころだ。これを考えるには、アップデートにはソフトウェアアップデートとセキュリティアップデートの2種類があることを意識することが大切である。
ソフトウェアアップデートは、いわゆるバージョンアップ。さまざまな機能が追加されるが、機種によっては不具合が生じることもある。よくあるのは、バッテリの減りが早くなってしまったというもの。すべての機種に起こるわけではなく、特定の機種でのエネルギー管理が不適合となり、大量の電力を消費してしまうということが起こる。
また、一部のアプリが起動しなくなるということもある。多くの場合は、短期間で修正アップデートがリリースされるが、面倒を避けたいという人はしばらく待って、SNSなどで不具合情報を確かめてからアップデートしたほうがいいだろう。
一方、セキュリティアップデートはできるだけ速やかに行った方がいい。あらゆるOSは「完璧」ということはなく、常に脆弱性が発見され、Appleは対応した修正を行い、セキュリティアップデートとしてリリースする。この場合、機能向上などは含まれず、脆弱性対応のみであるので、ソフトウェアアップデートのような不適合が起こる可能性はきわめて低い。脆弱性を放置しておくと、そこにつけこんだ悪意のある人物が悪さをし、その被害を受ける可能性がある。
つまり、ソフトウェアアップデートは様子を見てから、セキュリティアップデートはできるだけ速やかにが基本だ。これは、iPadOS、macOS、watchOS、tvOSでも同じだ。
10年前のiPhone 6sまでセキュリティアップデートに対応
Appleはこのセキュリティアップデートの対応が手厚い。今年2026年3月11日は、iOS 15.8.7というセキュリティアップデートを行った。執筆時点(2026年5月)の最新iOSはiOS26であり、iOS 15の発表日は2021年9月。対象機種でもっとも古いものはiPhone 6sで、その発売日は2015年9月だ。
つまり、10年前のiPhoneにもセキュリティアップデートを提供している。iPhone 6sでも、バッテリを交換すれば今でも使うことが可能だ。Appleは、そんなごく一部の人のためにもセキュリティアップデートを行い、安心して使える環境を提供している。
Androidは対照的だ。Google PixelやSamsung Galaxyなどでは、機種の発売日から7年間はアップデートが提供されるが、ほかメーカーは5年程度のところが多い。つまり、5年から7年ぐらい使ったら「そろそろ、いい加減に新しい機種を買ってくださいよ!」ということなのだ。逆に言えば、7年以上経った機種は脆弱性による攻撃を受けるリスクがある状態で使っていることになる。
Webへのアクセス情報からiOSの各バージョンの統計をとっているstatcounterによると、2026年3月時点でのiOS 26の割合は64.72%。iOS 15は2.19%でしかない。その一方で、グラフ化をしてみると、iOS 15までは一定程度のユーザがいることがわかる。Appleはこのような統計を独自に把握し、ユーザがいる間はセキュリティアップデートをしていこうと考えているのではないだろうか。


Appleが長期間にわたってセキュリティアップデートを提供する理由
なぜ、Appleは昔のiOSにまでアップデートをリリースし、安心して使える環境を提供しているのだろうか。Androidのように、ある程度の年数でサポートを打ち切り、「新しいiPhoneをどうぞ」として買い替えを促したほうがいいのではないか。
もちろん、ユーザを大切にするというAppleの思想的なものもあるはずだ。しかし同時に、古いユーザを大切にした方が利益を最大化できる、という冷静な計算もあると思われる。
アプリビジネスの分析などをしているadaptyに、iPhoneユーザとAndroidユーザの比較データがある。米国でのデータだが、iPhoneユーザの比率は若いほど高くなる。10代に限ると87%がiPhoneユーザで、状況は日本とよく似ている。

Appleが手厚いのは、ユーザの平均年収が高いから?
しかし、大きな違いが平均年収にある。iPhoneユーザの平均年収は5万3251ドル(約850万円)であるのに対して、Androidユーザの平均年収は3万7040ドル(約590万円)なのだ。iPhoneユーザのほうが、平均年収が43.7%も高い。日本でもこれほどではなくても、同様の傾向はあるのではないだろうか。
年収が高いだけではない。アプリに使う金額がまるで異なる。App Store(iOS)の2025年の消費者総支出は1420億ドルだが、Google Play(Android)は650億ドルでしかない。全世界のユーザ数はAndroidはiOSの3倍近くになるのに、だ。さらに、1ユーザあたりの月間アプリ支出はiOSが10.4ドル、Androidは1.4ドルと、iOSは7.4倍にもなる。
これはほかのサービスでも似た傾向がある。音楽サブスクのApple MusicとYouTube Musicは、双方とも正確な利用者数は公表していないが、有料ユーザの数では僅差でYouTube Musicが勝っている程度だという。市場の大きさでいうと、Apple Musicは実質的にiPhoneユーザの15億人程度だが、YouTube Musicは50億人程度もいる。大きな差だが、それでも有料ユーザ数が同程度ということは、Appleユーザはサブスク加入率が非常に高いということだ。
Appleユーザのデジタル支出が多くなる3つの理由
なぜ、Appleユーザはデジタル支出が多くなるのか。理由は3つある。
理由(1)
1つ目は、adaptyの統計にもあるように、そもそもの収入が多い。iPhoneはもっとも安価なiPhone 17eでも9万9800円と、Androidが2万円前後からあることを考えると非常に高価になっている。このような高価なデバイスを購入できる人は平均して収入が多く、支出額も大きくなると考えられる。
理由(2)
2つ目は、Appleの戦略のうまさだ。iOSのサブスクはAndroidに比べて離脱率が低いと見られている。それは、読者のみなさんも実感しているのではないだろうか。Apple Musicに加入したら、インタフェイスは使いやすく、しかもMacBookやiPhone、iPadだけでなく、Apple WatchやApple TVでも使える。この便利さから離れることはできず、わざわざほかのサブスクに乗り換える理由がなくなる。
理由(3)
3つ目は、AppleとGoogleのビジネスモデルの違いだ。Appleは製造小売、Googleはデジタル広告が基本になっている。Googleは広告ビジネスが基本であるため、無料のツールを提供して多くの利用者を獲得し、そこに広告を出すことで収益を得る、というところから出発している。そのため、アプリは無料で提供し、広告を表示するという手法が主体になった。
一方、製造小売であるAppleでは、質の高いサービスを提供し、課金してもらうという販売モデルが主流だ。2008年にApp Storeがスタートしたとき、登録アプリの75%は有料アプリだった。無料アプリが増えるのは、2009年にアプリ課金の仕組みが始まって以降のことである。
現在、有料アプリは全体の5%程度だが、アプリ内課金があるフリーミアムが50%ほどあり、完全無料アプリは45%程度になっている。
サービスにも課金するAppleユーザ。セキュリティアップデートの終了が買い替えどき
Appleは、ユーザを大切にする姿勢と企業としての利益追求を両立させてきた。Appleユーザは、デバイスを購入するだけでなく、サービスにもお金を払ってくれる。この特性があるからこそ、古い機種を無理やり新機種に変えさせるようなことをしなくて済む。今、iPhone 6sを使っている人というのは、新機種にはあまり興味を持たない人たちなのだから、無理に機種交換させるよりも、アプリやサブスクにお金を払ってもらったほうがいい。
みなさんの中にも、古いiPhoneで頑張れるだけ頑張るという方がいると思う。Appleはそういう人たちのために、安心して使えるようなセキュリティアップデートをリリースし続けている。ただし、さすがにセキュリティアップデートがリリースされなくなったら、買い替えをおすすめする。
脆弱性を放置して使い続けることは高いリスクがあるからだ。逆に言えば、セキュリティアップデートされなくなるまでは、思い出のある古いiPhoneで頑張り続けることができる。

おすすめの記事
著者プロフィール
牧野武文
フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。








