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分解してわかった! 「手のひらサイズ」を実現したM4搭載Mac miniに凝縮された驚きのテクノロジー

著者: 今井隆

分解してわかった! 「手のひらサイズ」を実現したM4搭載Mac miniに凝縮された驚きのテクノロジー

Photo●iFixit

修理情報の提供や修理用工具の開発および販売を手がける米iFixitは、2024年10月に発表されたばかりのM4シリーズ搭載Mac miniを分解し、そのレポートを公開した。そこから明らかになった新しいMac miniの内部構造と、Appleのデザイン戦略を見てみよう。

コンパクトな筐体デザインとその内部構造

新しいMac miniは、今回リリースされた3モデルのM4シリーズ搭載Macの中で、特にデザインが大きく更新されたモデルだ。従来モデルと比べて、そのフットプリント(設置面積)は約42%、体積は約58%、重さは約57%と、大幅に小さく軽くなっている(驚くべきことにM4搭載Mac miniの重さは、2006年にリリースされたIntelプロセッサ搭載Mac miniのACアダプタ単体よりも軽い)。

上からM4搭載Mac mini、M1搭載Mac mini、そしてMac Studio。M1搭載Mac miniとMac Studioはフットプリントは共通で高さが3倍程度異なるが、M4シリーズ搭載Mac miniはフットプリントそのものが大幅に小さいことがわかる。
Photo●iFixit

筐体サイズが小さくなればその分、各部品を高密度に実装する必要があり、また熱密度が高くなるため放熱性能も強化しなければならない。従来モデルでは底面全周から吸気を行い、本体後方上部のスリットから排気するエアフローを採用していたが、新しいMac miniは背面に排気スリットがない。

新しいデザインでは吸気口と排気口がいずれも底面となり、底面前方から吸気して底面後方に排気する構造に変わった。Appleシリコンで発生した熱はヒートスプレッダからヒートパイプを介して半円形の放熱フィンに伝えられ、そこから底面カバー内に配置されたブロア型ファンで一気に後方に排出される。

放熱フィンはM4搭載モデルとM4 Pro搭載モデルで異なり、M4搭載モデルはアルミ製の放熱フィンを用いるのに対して、より多くの発熱をともなうM4 Pro搭載モデルは熱伝導率に優れた銅製の放熱フィンを採用し、そのフィンピッチ(放熱用羽根の間隔)もM4搭載モデルより緻密になっている。

M4搭載Mac mini(左)とM4 Pro搭載Mac mini(右)を比較すると、Appleシリコンを覆うヒートスプレッダのサイズ、ヒートパイプの太さ、放熱フィンの材質とピッチが異なっていることが見て取れる。
Photo●iFixit

冷却ファンユニットを取り外すとロジックボードが現れる。ロジックボード上にはM4シリーズが搭載されているが、ほとんどの主要機能がAppleシリコン上に搭載されているため、周辺チップは驚くほど少ない。

さらにロジックボードを取り外すと、ユニボディの最上部にはむき出しの電源ユニット(PSU:Power Supply Unit)基板が搭載されている。従来モデルではロジックボードと並列配置され樹脂製カバーで覆われていたPSUは、半分以下に縮小されたフットプリントを実現するためにロジックボードとの2階建て構造となった。

M4を搭載するMac miniのロジックボードは極めてシンプルだ。Appleシリコンに電源を供給するPMICを含めた電源回路、無線チップなどはシールドカバー内に収められており、電磁ノイズ対策が施されている。
Photo●iFixit
ロジックボードを取り外すと、ケース上部に隠れている電源ユニットが姿を現す(写真はM4搭載モデル)。従来に比べると電源の基板面積は大きくなっているが、搭載する部品の高さを抑えた設計になっていることがわかる。
Photo●iFixit

カード型モジュールに変更されたSSD

新しいMac miniの大きな変化は、従来モデルではロジックボードに直接実装されていたSSDがソケットに装着するカード型に変更されたことだ。ご存じのようにSSDの記録媒体であるNANDフラッシュメモリは、アクセスにともなって劣化が進行する有寿命部品である。

NANDフラッシュメモリは書き込み回数を重ねるにつれて、データを保存する記録セルの「トンネル酸化膜」が劣化し、データが破損したりデータを保持できる時間が短くなっていく。一般的な個人用途では5〜10年程度は保つとされているものの、プロ用途などで大量のデータを高速にやりとりする場合は劣化が加速され、寿命が短くなるリスクが高まる。

ロジックボード上にはSSDソケットがあり、そこにカード型のSSDが搭載されている。従来のMac miniではNANDフラッシュメモリがロジックボードに直接実装されていたため交換できず、SSDが故障するとロジックボードごと交換が必要だった。
Photo●iFixit

プロ用途が想定されるMac StudioやMac Proにはカード型SSDが採用されていたが、それは修理を容易にする目的もあると考えられる。さらにMac ProではSSDのアップグレードキットも用意されており、搭載された2枚のSSDをより大容量のものに交換することもできる。

逆にMacBookシリーズやiMacではSSDはロジックボードに直接実装(SMT実装)されており、交換は不可能だ。SSDが寿命を迎えた場合はロジックボード交換しか方法がない。

従来のMac miniもAppleシリコン搭載モデルはSSDはロジックボードに直接実装されていたが、今回のモデルチェンジでM4、M4 Pro搭載モデルともにカード型SSDに変更された。

iFixitの実験によれば、256GBモデルと512GBモデルのSSDカードを交換してみたところ、「Apple Configurator 2」による再設定で無事使えることが確認できたという。

とはいえ、Appleシリコンが搭載するSSDカードは市販の一般的なSSDとは形状だけでなく仕様もまったく互換性がないので、ユーザが自ら容易に交換できるわけではない。

MacのSSDカードには、一般的なSSDでは必ず搭載されているSSDコントローラが搭載されておらず、カード上にあるのは記録媒体のNANDフラッシュメモリのみだ。なぜなら、MacではAppleシリコンにSSDコントローラが内蔵されているためである。

つまり市販のSSDとはカードのコネクタ部の信号にもまったく互換性がない。さらにM4搭載モデルとM4 Pro搭載モデルはコネクタ部は共通だがカード形状が異なっており、入れ替えて装着することはできない。

それでも、SSDが寿命を迎えたときにロジックボード交換ではなく、SSDカードのみの交換で修理できるメリットは大きい。SSDのカード化はユーザメリットのみならず、Appleにとっても在庫リスクの低減につながることから、ぜひ他のモデルにも展開してほしい施策だ。

残念なことにM4搭載Mac miniとM4 Pro搭載Mac miniのSSDカードは形状が異なっており、互いに互換性が無い。これはM4 Pro搭載モデルのヒートスプレッダのサイズが大きいため、SSDカードを細長く設計する必要があったためのようだ。
Photo●iFixit

さらにiFixitはSSDカードのX線画像を公開し、サードパーティがMac互換のSSDカードを設計するための情報を提供している。市販のSSDは使えなくとも、Mac mini互換のSSDカードが他社から登場すれば、Mac miniのSSDアップグレードの道が開けるからだ。

せっかくのカード型SSDであるにも関わらず、Mac miniのSSDアップグレードは新規購入時しか選択できず、かつそのアップグレードコストも高い(たとえばM4搭載モデルのメモリとSSDを倍増すると、もう1台ベースモデルが買えるくらいのコストアップになる)。

ユーザがより長く愛機を使い続けることができるよう、より現実的でフレキシブルなアップグレードの道が開かれることを願うところだ。

iFixitではM4搭載Mac miniのSSDカードに対してX線深度解析を実施し、基板パターンのアートワークを可視化した。その情報などから互換SSDカードの開発の助けになることが期待されている。
Photo●iFixit

著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

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