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前例のないハイエンドチップ「M3 Max」の妥協なき設計

著者: 今井隆

前例のないハイエンドチップ「M3 Max」の妥協なき設計

画像●Apple

※この記事は『Mac Fan』2024年1月号に掲載されたものです。

史上最大級の総トランジスタ数

M3ファミリーのハイエンドとなる「M3 Max」チップは、文字どおり“最強”のAppleシリコンだ。

M3の3倍、M3 Proの2倍の12コアの高性能CPUコアと、4コアの高効率CPUコアを備えており、その結果はベンチマークにも顕著に現れている。Geekbench 6におけるCPU性能(マルチコア)は、M1 MaxやM2 Maxを大きく上回るのはもちろん、M1 Ultraをも凌駕し、M2 Ultraに匹敵する。

M3 Maxは従来のM1 MaxやM2 Maxとよく似たシリコンデザインを継承し、両サイドに128ビット接続のLPDDR5 SDRAMを4個または3個搭載する。GPUやファブリックが下部に集中しており、Ultra Fusionに対応すると見られる。
画像●Apple

それを支えているのが最新の3nmプロセスと、M2 Maxの37%アップという920億もの総トランジスタ数だ。そのスケールはAppleシリコンとして最大なのはもちろん、パソコン向けのシリコンとしても最大級で、超大型とされる「GeForce RTX 4090」の763億トランジスタをも上回る。しかしエネルギー効率の大幅な改善によって、M3 MaxはMacBook Proのようなノート型Macへの搭載が可能だ。従来はMac StudioやMac Proのようなデスクトップ型Macでしか得られなかったレベルの性能が、MacBookシリーズにもたらされたことの意義は非常に大きい。

基本的な機能はM3シリーズと共通だがすべてにおいてその規模が大きく、単体シリコンとしてはAppleシリコン史上最大の920億トランジスタを搭載する。また搭載可能な最大メモリ容量も、M1 Ultraと等しい128GBに達する。
画像●https://www.youtube.com/watch?v=ctkW3V0Mh-k

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GPU性能もdGPUレベル

M3 MaxのGPU性能に目を向けると、ギークベンチ6におけるGPU性能(メタル)はM2 Maxの10%アップ程度。想像より控えめな結果だが、これはGPUコア数やメモリ帯域に大きな差がないためだと考えられる。

M3 MaxのGeekbench 6スコアを見ると、そのCPU(マルチコア)性能はM1 MaxやM2 Maxを大きく上回り、M2 Ultraに匹敵することがわかる。GPU性能はM2 Maxを数%上回るレベルで、従来のソフトではその向上は体感しにくい。

一方でCinebenchのGPUベンチマークでは、次世代GPUを搭載するM3 MaxはM2 Maxの約2倍、M2 Ultraの50%アップという驚異的なスコアを見せる。しかもこのスコアは、ディスクリート(単独)GPUであるNVIDIAの「GeForce RTX 4070 Laptop」を上回っており、プロセッサチップに統合されたGPUとしては前例のないレベルに達している。

次世代GPUに対応したソフトではM2 Ultraをも大きく上回っており、Windowsゲーミングノートに搭載される最新のモバイルGPUチップの性能に迫る。プロセッサの内蔵GPUでこの領域に到達したのは、おそらくM3 Maxがはじめてだ。

M3 Maxでは、M1 MaxやM2 Maxと同様にGPUコアやファブリックを一辺に寄せる設計がなされている。その意味するところは、2個のM3 Maxのシリコンを「Ultra Fusion」と呼ばれるシリコンインターポーザを使った高密度配線によって高密度に結合し、「M3 Ultra(仮称)」を作るための仕組みが用意されているということだ。

M3 Ultraを開発するかどうかはApple次第だが、M3 Maxにはそのための用意ができている。それが実現すれば、文字どおり「史上最強のAppleシリコン」が誕生することになるだろう。

著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

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