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「PowerBook」による革命の前夜。“Macのポータブル化”を実現したサードパーティたち

著者: 大谷和利

「PowerBook」による革命の前夜。“Macのポータブル化”を実現したサードパーティたち

※この記事は『Mac Fan』2018年11月号に掲載されたものです。

ジョブズが求めた「dynabook的なMac」

故スティーブ・ジョブズが、1984年の初代Macintoshの発表時から、翌年にはブックタイプのMacを出すと豪語していたことは有名な話だ。彼は、パーソナルコンピュータの思想上の父といえるアラン・ケイに初代Macの感想を求めたほどだったので、ケイの考える理想のコンピュータとしてのdynabook的なものをMacで実現したいと思っていたことは間違いない。

後のiPadは、アーキテクチャがオープンでないという点を除けば、かなりdynabookに近づいた存在だが、そこにたどり着くまでに四半世紀ほどかかっている。いかにAppleといえども、’80年台半ばの時点でブックタイプのMacを開発する力はなく、ジョブズが去って4年後の1989年に、ようやく7kgを超えるMacintosh Portableをリリースできたのである。

もちろん、自分も含めて熱心なファンは、そこまで待ちきれず(待ったとしても、日本では120万円近い価格だったので手が出なかったが…)、そうした潜在需要に目ざとい一部のサードパーティが独自のポータブルMacを開発して販売し始めた。

サードパーティが押し進めたMacのポータブル化

この分野で有名だったのは、ダイナマック、アウトバウンド(ワラビーという名称だったが、商標権の関係からか途中で変更された)、コルビーの3社である。しかしサードパーティには、当時のMacの心臓部で、これがなければOSが動かないROMの複製は許可されていなかった。そこで採られた方策が、Appleと契約して特別にROMを仕入れたり、メーカーやユーザが購入したMacをドナーにして、中身を移植するという手法だった。

オレンジのプラズマディスプレイを持つダイナマックは医療関係者に人気で、病院内の回診中にワゴンに載せて使っている話が記事になることがあった。また、アウトバウンドはディスプレイの背面に基板を収め、脱着式のハードディスクや、本体と赤外線通信でつながるキーボードを持ち、アイソポイント・トラックバーと呼ばれる棒状のポインティングデバイスも内蔵されるなど、Apple以上に先進的な設計が行われていた。

僕が購入したのは、コルビーのWalkMac SEという製品で、名前のとおりMacintosh SEの基板を移植したラップトップマシンだ。小ぶりのトランクほどの大きさで、アメリカから送られてきたときには、成田の税関でその正体がわからずに留め置きされ、わざわざ出向いて説明した記憶がある。

バッテリ駆動はできても、ほんの30分〜1時間程度だったように思うので、出先でプレゼンなどをする機会が多かった僕にとっての主なメリットは、持ち運びのしやすさにあった。その意味では大変重宝したが、しばらくしてキーボードがチャタリング(予期せぬキー入力の繰り返し)を起こすようになり、それがどうしても直らない。

そこで、あるとき、Macworld ExpoのセッションにWalkMacの開発者であるチャック・コルビー氏が参加することを知った僕は取材を兼ねて現地で彼を探し、直接交換してもらった。しかし、症状はその後も再発し、信頼性という点では今ひとつだった。そうこうするうちにAppleが革命的なPowerBookシリーズを発売し、サードパーティ製ラップトップMacは終焉を迎えたのである。

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著者プロフィール

大谷和利

大谷和利

1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。

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