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Apple製のカメラ「QuickTake100」は、“らしさ”が詰まった世界初の一般向けデジカメだった

著者: 大谷和利

Apple製のカメラ「QuickTake100」は、“らしさ”が詰まった世界初の一般向けデジカメだった

※この記事は『Mac Fan』2018年9月号に掲載されたものです。

世界初の一般向けデジタルカメラだった「QuickTake100」

先ごろ、カシオ計算機がコンパクトデジタルカメラ市場からの撤退を正式に発表した。僕自身も、現在の液晶ディスプレイ付きデジタルカメラの原型となったQV-10(1994年11月発売)をいち早く購入。わずか320×240ピクセルの解像度ではあったが、大いに使い倒しただけに、そのニュースを感慨深く読んだ。

当時、6万5000円もしたQV-10に価値を見出して即買いしたのは、同年2月に発売された世界初の一般消費者向けデジタルカメラ、QuickTake 100(749ドル)を使って、デジタル写真の可能性の大きさを実感していたからである。

現在のデジタルカメラのデザインは、銀塩フィルムの時代に逆戻りしたかのように保守的なものが主流だが、その黎明期には、どのメーカーも、デジタルならではの新しいスタイルを模索し、フォルムやレンズ部のスイングメカ、脱着機構などに工夫を凝らしたのだった。

QuickTake 100の新しさは、双眼鏡スタイルともいわれた平べったい形状とグリップ方法にあり、右手で握ると、人差し指のところにシャッターボタンが位置していた。1MBの内蔵メモリに、640×480ドットのイメージを高画質モードで8枚、通常画質モードで32枚撮ることができ、当時はこの程度の仕様でも、DTPで写真イメージが必要なときなどに重宝した。

ファインダーの対眼レンズの横に撮影枚数や電池残量確認用の小さなモノクロLCDはあったが、画像確認用のディスプレイはなく、撮影結果の確認のためには、データをMacに転送する必要があった。また、レンズカバーをスライドさせると、撮影用レンズとファインダーの対物レンズが現れるが、両者の間は数センチほどあいており、被写体が近いと視差が生じてしまう。そのため、マクロ撮影向けに視差を補正するとともに、ストロボの光を拡散して和らげる専用アダプタが同梱されていた。

Macとの連係性に優れた、いかにも”Apple的な”使い勝手

もうひとつ、Appleらしかったのは、データ転送のためにQuickTake 100とMacをケーブル接続すると、デスクトップにカメラのアイコンが現れ、ストレージデバイスとしてマウントされる点だった。それをダブルクリックして開くとフォルダ内に撮影イメージが保存されており、ドラッグ&ドロップで任意の場所にコピーできる。これに対して、たとえばQV-10の場合、イメージをコンピュータ上に保存するには専用のデータ転送ユーティリティを起動する必要があり、そのあたりが面倒に感じられた。

実はQuickTake 100の開発や製造には、コダックと、同社のデジタルカメラ事業をサポートしていた日本企業のチノンが関わっており、1995年にはQuickTake 100と基本設計は同じながら、外観デザインなどを変えた製品が両社からも登場した。

同年、QuickTake 100も、内蔵メモリを倍にしたマイナーアップデート版のQuick Take 150へと進化し、100から150への有償アップグレードサービスも行われたが、この頃からAppleの業績は大きく傾いていく。そのため、1997年2月に発売された第二世代モデルのQuickTake 200は、富士写真フイルムの「クリップ・イットDS-8」ほぼそのままのOEM機となり、独自性がかなり失われて終焉を迎えた。唯一、消去モードのアイコンが「ごみ箱」に変更されていたのが、Appleの意地だったように思う。

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著者プロフィール

大谷和利

大谷和利

1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。

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